「命を奪う」「子宮を失う」…子宮頸がんの「知らなかった」に答える漫画『コウノドリ』

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20〜30代で発症するケースもある子宮頸がん

9月25日、「子宮頸がんワクチン」「HPVワクチン」がX(旧Twitter)のトレンドに入った。その後、「子宮頸がん」もトレンド入りし、HPVワクチンを接種した人たちが接種したことを報告し合い、褒め合うというポストが続々とアップされた。改めて、子宮頸がんについて、HPVワクチン接種に関して自分ごととして考える人が増えてきていることに、産婦人科医やHPVワクチン接種啓発の活動をする人たちからは、「接種したことを普通に語れる社会が来たことがうれしい」という声が多く見られた。

でも、そういったコメントの中には、「自分がHPVワクチン接種対象だて知らなかった」「子宮頸がんが感染症だって知らなかった」「子宮頸がんになると、子宮を失ったり、亡くなることもあるって知らなかった」という声も少なくなかった。

医療情報は積極的に知りたいと思わなければ情報が得られないこともある。特に、勉強や部活、友だちと過ごすことで忙しい10代、20代前半の世代に、子宮頸がん情報を伝えてもなかなか自分ごととして実感するのは難しい。がん=高齢者がなるもの、と思っている人もいる。

しかし、子宮頸がんは、20〜30代でも発症する女性が増加し、30代後半が罹患のピークとも言われている(※1)。国立がんセンターの統計データ「子宮頸がん」によると、年間約1万1000人の女性が子宮頸がんと診断され、約2800人が亡くなっている(※2)。また、子宮頸がんと診断され治療で、 子宮全摘し、妊娠できなくなってしまう人が30代で年間に約1000人いるという報告もある(※3)。このように、妊娠中や子育て中に病気が発覚する事例もあることから子宮頸がんは別名「マザーキラー」とも呼ばれている。

しかも、20〜30代が罹りやすいということは、妊娠・出産を望んだときに罹患する可能性があることを意味している。妊娠がわかるとさまざまな検査を行うが、そこで子宮頸がんが発覚してしまったら……。がんの状態から、子どもを諦めて、子宮全摘しなければならないと言われてしまったら……。産婦人科医の方々に伺うと、そういった患者さんと出会うこと、告知の経験は珍しいことではないという。

そんな子宮頸がんの実態をリアルに描いているのが、漫画家の鈴ノ木ユウさんの名作漫画『コウノドリ』13巻と14巻にわたって掲載された「子宮頸がん」のエピソード。多くの医療従事者からも、「同じ経験をされた患者さんを思い出し、身につまされた」「何度読んでも、涙してしまう」と名作の呼び声も高い。

子宮頸がんと一口で言っても罹患される方の症状や状況は個々異なる。このエピソードでは、妊娠初期の検査で、子宮頸がんが発覚し、困惑する夫婦の姿が描かれている。また、『コウノドリ』の主人公である産婦人科医・鴻鳥サクラの出生にまつわる出来事も展開される。子宮頸がんの「原因はなにか」「どのようながんであるのか」についても、丁寧に描かれている。当事者である女性、夫や家族の心情だけでなく、医療現場のスタッフ達の苦悩や奮闘についても描かれている。

『コウノドリ』で子宮頸がんを知った人も

FRaUwebではこれまで、3月4日の「国際HPV啓発デー」や4月9日の「子宮頸がんを予防する日:子宮の日」などに合わせて、過去に8回、鈴ノ木さんのご厚意で「子宮頸がん」のエピソード、全218ページを1週間限定で無料試し読みを掲載してきた。

その間、本当にさまざまな声をいただいた。

「この『コウノドリ』のエピソードを読まなかったら、子宮頸がんについて他人事だと思っていました。娘にHPVワクチン接種させるかも、真剣に考えていませんでした。でも、この漫画を読んでから色々調べて、接種を決め、娘は先月2回目を打ちました」(高校1年生の母親)

「大学時代の友人を子宮頸がんで亡くしました。5歳の子どもを残して亡くなった彼女は、最期まで死にたくない、子どものことが心配と言っていました。この漫画で描く世界は架空のことではありません。私の娘はまだ4歳ですがHPVワクチン接種含めて、検診のことも、しっかり伝え、娘といっしょに考えて選択したいと思っています」(30代)

「24歳のときに子宮頸がんの高度異形成が見つかり、円錐切除をしました。子宮全摘は免れましたが、2度流産しました。現在妊活中です。私は国がHPVワクチン接種を一時的にやめていた世代で、接種ができませんでした。あのとき接種していたら流産しなかったのかなと考えてしまう自分がいて、悔しい気持ちになります」(27歳)

と、自身のリアルな経験を寄せてくれる方も多かった。

鈴ノ木さんが『コウノドリ』で、この「子宮頸がん」エピソードを描き、『モーニング』に掲載されたのは、HPVワクチンは副反応報道が出た後、積極的接種を控えていた時期。70%近かった接種率が、ほぼ0%まで落ちていた頃だ。長い間、積極的接種が見送られたが、厚生労働省の発表によると、令和4年4月から令和5年3月までの HPV ワクチンの実施状況(※4)は、1回目が42.2%、2回目39.4%、3回目30.2%と少しずつ盛り返してきているが、世界の接種率に比べると日本はまだまだ低い。

さらに、積極的接種を控えていた時期で接種できなかった世代の「キャッチアップ接種」も、1回目304,737人、2回目248,199人、3回目157,068人と打つ選択をしている人も少なくないが、SNSなどを見ると「自分が接種できるという情報を知らなかった」という人もいる(キャッチアップ接種に関しては文末に補足情報があります)。

そして、そんな現状を踏まえて、鈴ノ木さんはこんなコメントを寄せてくれた。

「私がこのエピソードを描いたのは、2016年。当時は、国も積極的接種を控えていた時期でした。子宮頸がんのことを描きながら、私自身も何が正しいのだろうかと素朴な疑問を持っていました。現在はHPVワクチン接種勧奨へと向かい、多くの人たちのHPVワクチンへの印象も変わってきたように感じています。

個人的にそれは素晴らしいことだと思っています。多くの方にHPVワクチンの正しい情報が伝わり、理解され、接種する機会が増えますし、将来的には男子への接種にもつながる。

ですが同時に、HPVワクチンが積極的勧奨となった時、ワクチン接種を選択しない人が尊重されず、叩かれるような社会、世の中にはなって欲しくはありません。

正しい情報が伝わる中、ワクチン接種を選択する人、しない人がこの先もいるかと思います。その時、お互いがお互いの思いや気持ちを理解し、いたわりのある考えや距離で近い将来、子宮頸がんで苦しむ女性がいなくなる日本へと向かってくれたらと切に願っています」(鈴ノ木さん)

鈴ノ木先生が言われるように、子宮頸がんで苦しむ女性たちがいなくなる日本に近づくためにも、この漫画を読んで「まず知ること」「自分ごととして考えること」から初めてみてほしい。

【HPVワクチンのキャッチアップ接種について】

副反応報道などでHPVワクチン接種を逃してしまった世代の「キャッチアップ接種」が2025年3月末で終了します。

対象者は、平成9年度〜平成19年度生まれ(※誕生日が1997年4月2日〜2008年4月1日)の女性で、過去にHPVワクチン接種を合計3回受けていない人です。この期間を逃してしまうと、HPVワクチン接種を希望しても実費の接種となってしまい、9価ワクチンの場合、3回で約10万円の費用がかかります。

ワクチン接種は全3回接種があるので、接種し終えるには半年近くの時間を要します。対象年齢で一度もHPVワクチン接種をしていない人は、2024年9月末までに1回目の接種を終了しておく必要がある、と情報をFRaUwebでも何度かお伝えしてきました。

10月に入り、「1回目の接種期限が過ぎてしまったら私はもう無理」と思う人もいるかもしれませんが、厳密に9月末までに1回目を必ず行わないと接種不可能というわけではありません。ただし期限が迫っていることは確かです。キャッチアップ接種世代で、HPVワクチン接種を考えている人は、今すぐアクションを起こしてください。

自分が住んでいる市町村のHPの予防接種で情報を確認したり、保健センターなどに相談をしてみましょう。期限を過ぎてしまっても、HPVワクチン接種はできますが、公費(無料)ではなくなってしまうと、接種のハードルが高くなってしまうので、気になる方はまず相談をしてください。

※上記はHPVワクチンのキャッチアップ接種の情報です。小学校6年生から高校1年生までの女子は、定期接種でのHPVワクチン接種が通常通り行われています。

【出典】

※1:子宮頸がん|公益社団法人 日本産科婦人科学会 (jsog.or.jp)

※2:子宮頸がん 患者数(がん統計):[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ] (ganjoho.jp)

※3:広報誌「厚生労働」2022年5月号 特集 (mhlw.go.jp)

※4:https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/001198130.pdf

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