東京・大阪・名古屋で「非常に大きい揺れ」が発生する…「南海トラフ巨大地震」で引き起こされる「長周期地震動」の恐ろしさ

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首都圏に揺れ幅4mの長周期地震動、その時どうなる!

地震のエネルギーを示す「マグニチュード(M)」と、揺れの大きさを表す「震度」との関係を分かりやすく説明する時、「マグニチュード」を電球の「ワット数」とし、「震度」を地域ごとに感じる「明るさ」として説明することがある。例えば、電球のワット数が小さくても、電球に近ければ明るく、離れれば暗くなる。マグニチュードと震度も同じ。つまり、「震源が近ければ、揺れは大きく、震源から離れていれば揺れは小さい」という例えである。

しかし、この例えに当てはまらないのが長周期地震動である。周期2秒未満の短周期地震動の地震波は、伝播していくにつれ減衰し、震源から離れるほど揺れは小さくなる。しかし、長周期地震動は伝播途上であまり減衰せず、エネルギーを保持したまま地震動が遠くまで伝播する。そして、その伝播途上や到達地域が沖積平野、沖積低地、軟弱地盤の盆地、深い堆積層、沿岸部などでは、長周期地震動がさらに増幅される可能性がある。

長周期地震動の特徴はまだある。規模(M)の大きい地震ほど長周期地震動が励起しやすく、震源が浅い(地表面に近い)ほど卓越する(1-3図参照)。ということで、南海トラフ巨大地震は長周期地震動が発生しやすい超巨大地震と考えられている。

モデル検討会は報告の中で、長周期地震動について、「〜いずれの地震でも、三大都市圏の沿岸部を中心とする地域において、1〜2m程度の変位が推計されている。さらに、超高層建築物の固有周期別にみると、中部圏及び近畿圏の一部地域において、固有周期5〜6秒の建物で3m以上の変位も推計されている。首都圏においては、固有周期が長い建物ほど変位は大きくなり、固有周期5〜6秒の建物で2m程度の変位となっている」と書かれている。これはスーパーコンピューターで計算した長周期地震動の変位。ここでいう変位とは、揺れの大きさを言っている。

南海トラフ巨大地震について、モデル検討会が推計している長周期地震動の揺れの大きさは、三大都市の沿岸部で1〜2mの変位(1-2図参照)、ということは、首都圏にある超高層建物における長周期地震動の揺れは、左右に最大2mずつ、往復で最大4m揺れることになり、東日本大震災時の倍の揺れ幅となる。

消防法では、高さ31mを超える建築物を高層建築物(第8条の2)と呼ぶ。また、11階建て以上の階は、はしご車が届かなくなることから、スプリンクラー消火設備の設置義務が課せられている。という背景もあり、一般的には高さ4〜10階までを「中層階・中層建築物」、11階又は高さ31m以上の建築物を高層建築物と呼ぶ場合が多い。

超高層建築物についても、明確な定義があるわけではないが、高さ60mを超える建築物を超高層建築物と呼ぶことがある。一方で、1968年に東京都千代田区に建てられた「霞ヶ関ビルディング」(147m・地上36階)が、わが国第一号の超高層建築物として誕生。これを機に「超高層」という言葉が多く使われるようになったことから、一般的には、高さ約100m以上の建築物を超高層建築物と呼ぶようになったといわれる。

長周期地震動による影響を大きく受ける人口が増加

前述したように、長周期地震動が発生すると、低層建物よりも高層建物や超高層建物の高層階ほど、大きく長く揺れる。一般的木造家屋(低層建物)の固有周期(0.1〜0.5秒)に比べ、一般的な高層建物は固有周期(5〜7秒)が長いため、長周期地震動と共振しやすく、共振して大きく長く揺れる。

とくに大阪・名古屋・東京のように堆積層や干拓・埋め立てなどの軟弱地盤都市では、揺れが増幅され、揺れの継続時間が長くなる傾向にある。11年の東日本大震災では、震源から約200〜700km離れた東京や大阪の超高層建物が長周期地震動で大きく長く揺れ、高層階の揺れ幅は最大2mにも達した。

モデル検討会も、「南海トラフ沿いの巨大地震による長周期地震動に関する報告」で、三大都市圏(東京、名古屋、大阪)では、南海トラフ巨大地震発生時に長周期地震動が励起されやすく、揺れの継続時間が長くなりやすいとしている。その主な根拠として、南海トラフの陸側には、「付加体」とよばれる海洋プレートの上面に、海底の比較的柔らかい堆積物が積もっている領域が存在(1-4図参照)。こうした付加体は長周期地震動の表面波をよく伝え、場合によっては発達(増幅)させる。首都圏、中京圏、近畿圏などの多くは、付加体の上にあるといわれる。これらの都市では年々建物の高層化が進み、長周期地震動による影響を大きく受ける人口が増加し続けている。

東京は震源域から遠く離れていても、沿岸部では揺れ幅2〜4mの揺れが長時間継続すると推計されている。超高層建築物だけでなく、高層建築物でもかなりの揺れになることを覚悟する必要がある。固定していない什器や家具が大移動し、キャスター付きの什器備品は勢いよく走り回り、人は立っておられず、固定したものにつかまらないと同じ場所に居られない状態となり、揺れに飛ばされる危険性もある。

体育館、屋内プール、劇場などの大規模空間を有する施設では、柱、壁など、構造自体に大きな被害を生じない程度の短周期地震動でも、長周期地震動で天井等が大きく揺れて破損、脱落もあり得る。また建物(天井)の揺れと配管の揺れが異なると、スプリンクラー消火設備や配管継ぎ手などから漏水することがある。

総務省消防庁によると、東日本大震災時のスプリンクラー消火設備の水損事案が全国で1113件報告されている。東京都だけでも345件のスプリンクラー消火設備の損傷又は誤作動で、水損(水浸し)事案が出ている。スプリンクラー消火設備が誤作動を起こすと、天井面に取り付けられたスプリンクラーヘッドから1分間に約80リットルの水が放水される。各階にあるアラームバルブや緊急遮断弁を閉じない限り放水は止まらず、10分間で約800リットルの水(ドラム缶約4本分)が放水される可能性がある。夜間・休日などで対応が遅れると、パソコンやサーバー、電子・電気機器・通信設備などが水損し業務支障に直結する。そうした不測の事態に備え、今や電子機器などにかぶせる防水シートを準備している所もある。

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