「大切な家族」が「厄介者」に…認知症の人に降りかかる「物忘れ」よりも怖いこと

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アメリカや中国でも講演実績のある「認知症講師」渡辺哲弘氏が、認知症患者の「行動のメカニズム」を解説します。認知症のお年寄りは、なぜ介護者を困らせるような「行動」をすることがあるのでしょう?

背景には、「周りに迷惑をかけたくない」、「みんなの役に立ちたい」、にもかかわらず、認知症の症状が邪魔をして周囲に迷惑をかけてしまうというジレンマがありました。

ケアの新たな指針となる渾身の書き下ろし『認知症の人は何を考えているのか』(渡辺哲弘著)より、介護のヒントになる部分を抜粋して紹介します。

『認知症の人は何を考えているのか』連載第18回

『つぼみを全部とった、その理由は…認知症の人が「不可解な行動」をしてしまう「深いワケ」』より続く

認知症の人を「厄介者」にしてはいけない

でも私は、さっきの説明では、まだ不足していることがたくさんあると思います。

なぜなら、「チューリップのつぼみを忘れてしまって……」という説明は、あくまで認知症という「病気の視点からの説明」をしたにすぎないからです。

この説明だけでは、説明を聞いた人がこう反応するかもしれません。

「なるほどね。認知症になると、困ったことをするようになるんですね」

「なんでお嫁さんが留守のときに限って、余計なことをするんでしょうねえ」

おばあさんは「困ったこと」「余計なこと」をする「厄介者」になっています。大切な家族が、ある日を境に邪魔者になってしまうのです。

それまで大切にされていた人が、大切にされなくなっていくのです。私は、認知症という病気のいちばんの怖さは、ここにあると思っています。

試しに、認知症以外の病気のことを考えてみましょう。

たとえば高血圧や、心臓病はどうでしょうか。あるいは、糖尿病でもいいでしょう。どの病気でも、生活に不自由は起こりますし、「できないこと」も出てきます。

心臓病がある人のなかには、塩分制限をせねばならない方もいます。糖尿病の人も、血糖コントロールが必要になります。

認知症の怖さ

でも、たとえば親が高血圧になったから、心臓病になったからといって、親を尊敬できなくなる息子さん・娘さんはいません。祖父母が糖尿病になったからといって、部屋や家に遊びに行かなくなるお孫さんもいません。

認知症は違います。

ここまで私は、認知症の人のさまざまな「不可解な行動」を書いてきました。

そんな行動を目にしたら、その認知症の人の息子さんや娘さんは、本人を「困った人」「厄介者」ととらえるかもしれません。親を尊敬できなくなる人もいるでしょう。

おじいさんやおばあさんが大好きだったお孫さんたちも、不可解な行動のあとや、両親が祖父母を叱っている姿を見てしまうと、おじいさん、おばあさんのところへ遊びに行かなくなったりします。

家族の絆が切れてしまうのです。私は、ここにこそ認知症の怖さがあると思います。

さらに、こうして家族から浮いてしまった認知症のおじいさん・おばあさんは、何を感じるでしょうか?

不安……

焦り……

寂しさ……

いずれも認知症を進行させ、症状を悪化させるストレス要因ばかりですね。悪いことに、認知症の人は、そんな「つらい気持ち」をうまく表現できません。

思い出してください。認知症には、「失語」というコミュニケーション面での症状もありましたよね。でも、言葉にならないからといって、私たちは本人の「気持ち」を無視してもいいのでしょうか?

『あなたは気づいていましたか? 認知症の人の「不可解な行動」に隠されていたのは「周囲への思いやり」だった』へ続く

あなたは気づいていましたか? 認知症の人の「不可解な行動」に隠されていたのは「周囲への思いやり」だった