「地面師」グループ内での取引先をめぐる対立…有名デベロッパーの元財務部長が「積水ハウスなんてちょろい」と言い切ったワケ

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今Netflixで話題の「地面師」...地主一家全員の死も珍しくなかった終戦直後、土地所有者になりすまし土地を売る彼らは、書類が焼失し役人の数も圧倒的に足りない主要都市を舞台に暗躍し始めた。そして80年がたった今では、さらに洗練された手口で次々と犯行を重ね、警察組織や不動産業界を翻弄している。

そのNetflix「地面師たち」の主要な参考文献となったのが、ノンフィクション作家・森功氏の著書『地面師』だ。小説とは違う、すべて本当にあった話で構成されるノンフィクションだけに、その内容はリアルで緊張感に満ちている。

同書より、時にドラマより恐ろしい、本物の地面師たちの最新手口をお届けしよう。

『地面師』連載第10回

『登場人物のほとんどは騙された「被害者」…“地面師事件”の捜査を難航させる「複雑すぎる」手口』より続く

偽造書類で本人確認

ことは佐妃子が日赤医療センターに入院したひと月後の2017年3月10日にさかのぼる。IKUTA側が作成した準備書面によれば、生田剛は佐妃子の知人を称した木村隆司なる人物から海喜館の件を紹介されたという。その2週間後の3月25日、ニセ佐妃子側の弁護士事務所で最初の打ち合わせが設定された。そこには、佐妃子の体調がすぐれないという理由で、弁護士を加えた3人の代理人が現れた。

「そのうちの1人が、小山だった」

生田自身はそう主張している。つまり、生田は小山のことを事前に知っていたわけではないという。したがってなりすましなどについて承知しているわけがないという理屈である。また生田は、その打ち合わせの場で、小山たちから海老澤佐妃子の委任状を見せられ、すっかり信用したのだと言い張ってきたが、そこはかなり怪しい。

関係者たちの2度目の打ち合わせは、それから1週間ほど後の4月3日だ。日比谷の帝国ホテル一階のロビーラウンジで、小山と小山が連れてきたニセ佐妃子の羽毛田、彼女の内縁の夫と称する前野こと常世田、生田と生田側の弁護士たちが落ち合った。このとき小山たちは偽造したパスポートや印鑑証明を用意していた。

小山はその日のうちに生田を連れ、帝国ホテルから銀座の公証役場に向かい、公証人に偽造書類を使って佐妃子の本人確認をさせた。少なくともこの時点から、生田が海喜館の売買に関する権利を握り、取引の窓口役を担うことになる。

積水ハウスはちょろい

裁判資料によれば、このときはまだ積水ハウス以外の不動産業者も海喜館の取引に乗り気だったという。が、10日後の4月13日には、他の業者が手を引いたとしている。町内会役員たちの話とつき合わせれば、この10日間のあいだに不動産業者に声をかけていき、残ったのが積水ハウスだったという結果なのだろう。

「実は当初、マイクたちは積水ハウスのような大企業が話に乗ってくるわけがない、とむしろ慎重だったそうです。それを説き伏せたのが小山でした」

この間の出来事について、地面師グループと親しい事業家はそう話した。くだんの事業家が聞いたという彼らのやりとりはこうだ。

「積水みたいな上場企業じゃなく、別をあたってみたらどうか」

歴戦の内田が、小山を頭ごなしに止めようとした。すると小山は笑いながら反論した。

「いやいや、積水なんてちょろいもんです。マイクさんは知らないだろうけど」

内田が言った。

「上場企業はそれなりの体制があるから、取引の審査が厳しい。無理だろう」

そう言われてもなお、小山は食い下がった。

「いやいや、マイクさんは街の不動産屋しか知らないから、融資詐欺みたいなしょぼい発想しかできないのと違いますか。俺は積水の人間も知っているからね」

その場にいた犯行グループのメンバーは、あの内田マイクにそこまで言い切る小山に対し、目を白黒させたという。だが、結局、小山が押し切った。

とんとん拍子に話は進む

もっとも実際に積水ハウスの担当者と懇意だったのは、小山ではなく生田だった。くだんの裁判資料には、生田は以前から解体事業などで積水ハウスの営業担当部長代理と知り合っていた、とも記されている。

4月13日、その部長代理を通じ、小山らはシャーウッド住宅支店に出向き、上司である部長の決裁を仰いだ。シャーウッド支店は木造建築を扱う部署であり、マンション事業部門ではないが、当日はたまたま部長がそこにいたからだという。部長はすんなり取引を決め、ここから取引がとんとん拍子に進むことになる。

登場人物のほとんどは騙された「被害者」…“地面師事件”の捜査を難航させる「複雑すぎる」手口