「就活生をダマす業者」が後を絶たない「シンプルな構造」

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わたしたちはいつまで金銭や時間など限りある「価値」を奪い合うのか。ベストセラー『世界は経営でできている』では、気鋭の経営学者が人生にころがる「経営の失敗」をユーモラスに語ります。

※本記事は岩尾俊兵『世界は経営でできている』から抜粋・編集したものです。

冷酷:就活業者がもたらす不条理

就職においては常に「自分の人生の究極の目的が何なのか」を考え続けないと、こうした悲喜劇を演じ続けることになる。しかも、就活生を取り巻く環境が不合理の塊だからこそこうした悲喜劇は拡大再生産されていく。

不安な就活生を食い物にする業者も後を絶たない。

たとえば典型的には地方都市に住んでいる大学生などに「学生時代にインターンシップにいってないと、東京の子たちに負けちゃうよ」などと不安を煽る業者がいる。就職活動という、大学受験とくらべて不透明な未知の競争に身構えている真面目な大学生ほど、こうした煽りに怯える(地方国立大学に通う学生が標的にされることが多い)。地方にはインターンシップを実施する企業が少ないからますます就活生の不安は募る。

そんな就活生の不安を読み取るやいなや、業者は怪しげな勧誘ビジネス/紹介営業活動への長期インターンシップを進める。スマホやサプリ、布団や壺まで、具体的に何を売るかは業者によりけりだが、実態としては友人、家族、祖父母といった人間関係を「その業者に売らせる」点は一緒である。

まだ年端もいかない初心な若者に「マルチレベルマーケティングを学べるよ。マルチって変なイメージがあるけど、料理を入れるタッパーが広まったマーケティング手法と一緒だから安心だよ。タッパーみんな使うよね?」などと業者は悪魔のように囁く(たしかにタッパーは持っているが、ほとんどの人は百円均一ショップあたりで買ったと思うのだが)。

だが別の意味で「マルチに活躍する学生」なぞ企業が欲しがるわけがない。

そんな人を雇っても友人や一族郎党を売り渡したのと同じ要領で、今度は企業情報や顧客名簿を業者に売られかねない。だからこうした勧誘ビジネスに引っかかってしまう就活生は、自分の将来さえも業者に売り渡しているわけだ(もちろん明確な目的意識があって、さまざまなリスクを考えた上でこうした業者で働きたいのならば個人の自由である)。

またSPIの代行業者や解答集販売業者にまんまと騙されるパターンもある。SPI代行は逮捕者も出ている犯罪行為である上、公式に出回っていない怪しげなSPI解答集は、怪しげなだけあって解答も解説も間違っていることが多い。そのためこうした業者を利用してかえって就職が不利になる就活生もいる。

その他にも就職が決まらない学生にワーキングホリデーや語学留学を勧める業者もいる(こうした業者は比較的悪気がない場合が多い)。

今度は就活生側が積極的に就職活動をやめて大学を卒業してワーホリに参加したいと言い出す。おそらく現実逃避として最適なのだろう。

だが、ワークしたいのかホリデーしたいのか、そもそも一生ホリデー状態になるのを恐れてワークを探していたのではなかったか。支離滅裂としか言いようがない。

なお、ここで取り上げた事例すべてにおいて、就活生が何度も自問自答した末にどう考えても自分の人生の目的において必要だと考えたのであれば、すべて正解だといえる。たとえば「SPI対策の日本一の塾を作りたい」のであれば怪しげなSPI対策を網羅しておくのもいいだろう(こうした塾に社会的意義があるのかは疑問符だが)。

今こそ就活生は自分の人生を経営する必要性を認識すべきだ。

つづく「老後の人生を「成功する人」と「失敗する人」の意外な違い」では、なぜ定年後の人生で「大きな差」が出てしまうのか、なぜ老後の人生を幸せに過ごすには「経営思考」が必要なのか、深く掘り下げる。

老後の人生を「成功する人」と「失敗する人」の意外な違い