テレビ東京を退社後、数々のヒット作を生み出す佐久間宣行さんのこれまでの歩みと未来に迫ります(撮影:長田慶)

「ゴッドタン」「ピラメキーノ」など数々のヒット番組を手掛けた後、2019年からはラジオ番組「佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)」で話題を集め、2021年にテレビ東京を退社。フリーランスとして新たな挑戦を続ける佐久間宣行は、Netflixのコメディシリーズ「トークサバイバー!」でも大きな注目を集めている。彼の挑戦に終わりはない――これまでの歩みと、彼が描く未来に迫る。

フリーランスとしての挑戦と自己管理の難しさ

テレビ東京で数々のヒット作を生み出した佐久間宣行。彼は2021年にフリーランスとして新たな一歩を踏み出し、エンタメ業界に変革をもたらしている。自身の信念を貫く道のりは、決して平坦ではなかった。

「本当に悩む暇もなく働いてきました。だから、4年目、5年目は悩む時間を作れるようにしたいと思っています」

フリーランス1年目、「来る仕事は全部やってみる」という大胆な姿勢で、未知の領域に果敢に挑んでいった。テレビとは異なる通販番組やLINE LIVE、そしてYouTubeやNetflixといった新たなプラットフォームで、次々とプロジェクトを手掛けていった。


(撮影:長田慶)

「とにかく何でもやってみようと決めていました。『向いてない』と思ったらその時に断ればいい。大切なのは挑戦することです。挑む中で『自分に合っているかも?』と思う瞬間もあれば、その逆もありました。でも、重要なのは“未知の領域に飛び込む勇気”です。フリーランスの魅力は、テレビ東京時代にはできなかった新しい挑戦ができるところなんです」

その言葉通り、Netflixのコメディシリーズ「トークサバイバー!」を筆頭に、彼が手掛けるプロジェクトは、テレビの枠を超え、常に限界を突破している。

一方で、自由な働き方には難しさもある。「自分で休みを決めないと、いつの間にか仕事ばかりになっちゃうんですよ」と自己管理の苦労も語る。その言葉には、挑戦の楽しさと同時に現実の厳しさが垣間見える。

しかし、彼の姿勢は一貫している。リスクを恐れず、「わけのわからない仕事」にも果敢に挑むことで、「本当に面白いもの」が見えてくるのだろう。

世界的なプレッシャーの中で自分らしさを貫く


Netflixコメディシリーズ「トークサバイバー!ラスト・オブ・ラフ」世界独占配信中(画像:Netflix)

Netflixで配信されている「トークサバイバー!」は、佐久間にとって大きな挑戦だった。世界中の視聴者に向けた作品ではあったが、彼は自分の信念を貫くことを決意する。

「配信元やターゲットを意識しすぎると、誰にでも作れるような作品になってしまうことをこれまでの経験で感じていました。『自分にしかできないもの』をどう入れるかを意識しました」と振り返る。

「トークサバイバー!〜トークが面白いと生き残れるドラマ〜」は、彼にとって初めての大規模な配信プロジェクトだった。ここでぶれることが今後の作品にも影響することを自覚していた佐久間は、成功よりも「後悔しない作品」にすることを最優先に考えた。

「もちろん成功させたい気持ちは強いですが、それ以上に『後悔しない作品にしよう』ということが一番大事でした。それが最終的に、今の形になったんです」

ユニークな作品作りに込めたこだわり


(撮影:長田慶)

「シーズン1の時は、本当に誰にも企画を理解してもらえなくて、かなり苦労しましたね」と、佐久間の声には、当時の苦労を思い返すかのような深い重みがにじんでいた。

俳優やスタッフに「わざとダサくしてほしい」といった指示を出しても、皆が困惑することが多かった。

「自然な演技じゃなくて、あえて大げさに、というのがなかなか伝わらなくて。現場では俳優さんやスタッフの皆さんが戸惑っていたんじゃないかなと思います」

編集作業においても、佐久間の指示は1つひとつ細かく、徹底的だった。

「『ここで音を一旦カットして、ツッコミが入れやすいようにしてください』とか、最初に付いていた音を全部差し替えたりして、すごく細かいところまで自分で指示を出していました」

その熱意とこだわりが、徐々に形を成し始める頃には、現場のスタッフや俳優たちも次第にその世界観を理解し始めていた。

「振り返ると、あの時の自分はよく頑張ったなと思います。自分のビジョンを貫いて実現できたのは、本当に大きな達成感です」


(撮影:長田慶)

佐久間は、プロジェクトを進める中で常に自分の直感を信じてきた。特に、周囲が戸惑う様子を見ると、「これはいける」と逆に自信を深めることが多いという。

「みんながきょとんとしている様子を見て、『これは成功する』と思ったんです。最初から納得している企画は、往々にして想定内のものにしかならないんですよ」

その言葉通り、「トークサバイバー!」の完成品を見せたとき、周囲の反応は驚きに満ちていた。

「実際に完成したものを見せたとき、みんなが『おお!』って驚いてくれて、『やっぱりこれはいける』と確信しました。『面白いですね』と言われる作品は、普通は平均的な評価になりがちなんですが、今回はそれを超える手応えがありました。だから、プレッシャーは感じなかったんです」

リアリティショーから着想


Netflixコメディシリーズ「トークサバイバー!ラスト・オブ・ラフ」世界独占配信中(画像:Netflix)

佐久間が手掛けたNetflixのコメディシリーズ「トークサバイバー!」は、斬新でユニークなコンセプトで視聴者を魅了した。この作品の人気の理由は、ドラマの中で芸人が物語に絡みながら、巧みにトークを展開していくという異色の構成にある。

「もともと、僕は『トークをドラマのトーンで話すと、普段のトーク番組では話せないエピソードでも面白く聞こえるんじゃないか』と考えていました。それはリアリティショーを見たときに感じたんです。めちゃくちゃカッコいい2人が、特にオチもない普通の話をしているのに、なぜか面白く感じて、引き込まれたんですよね」

リアリティショーの何気ない会話から得たヒントをもとに、「芸人がこのトーンでトークをしたら絶対面白い」というアイデアを持ち続けていたが、それを形にするのは簡単ではなかった。そこで、自らの番組『NEO決戦バラエティ キングちゃん』で試験的に「ドラマチックハートブレイク王」という企画を実施した。

「少しだけドラマ要素を加えたら、これが面白かったので、もっと大きく膨らませたいという思いがずっとありました。ただ、そうするには予算が必要だったので、アイデアを温めていました」

そしてNetflixからオファーが来たとき、この温めていた企画を真っ先に提案した。

「いくつか企画を持っていきましたが、その中でもこの企画が一番やりたかったんです」

こうして、「トークサバイバー!」は、リアリティショーとドラマを融合させた独自のスタイルで世に送り出されることとなった。

キャスティングの裏側


Netflixコメディシリーズ「トークサバイバー!ラスト・オブ・ラフ」世界独占配信中(画像:Netflix)

Netflixのコメディシリーズ「トークサバイバー!」で、佐久間はキャスティングに強いこだわりを見せている。特に俳優たちの演技におけるトーンには一切の妥協がなかった。

「俳優さんに関しては、とにかくふざけずに本気で演じてほしいという思いがありました。シリアスなトーンで真剣に演じてくれる人を選びたかったんです」

俳優たちは、真剣に演じることでコメディとしての新しい面白さを引き出している。そして芸人たちに対するキャスティングでも、佐久間のセンスが光る。

「今回は、コンビで出演する形式を試したかったんです。コンビだとお互いのエピソードを補完し合えるし、コンビならではの独特な面白さも出せると思ったので」

さらに千鳥の大悟を支える重要な役として、シーズン3では山内健司(かまいたち)をキャスティング。

「山内さんがいることで安心感があり、大悟さんがボケた時にも安心してツッコミができるからです」

「キレながら褒める」が生んだ爆笑


Netflixコメディシリーズ「トークサバイバー!ラスト・オブ・ラフ」世界独占配信中(画像:Netflix)

「トークサバイバー!ラスト・オブ・ラフ」では、新たな企画「キレながら褒める」が登場し、視聴者を驚かせた。この企画は、収録のわずか1週間前に生まれたアイデアだった。

「最初は過去の企画を再度やることも考えましたが、『せっかくだから新しいものに挑戦したい』と思ったんです。いろいろ考えましたが、ピンとくるものがなかなか出てこなくて」

「褒める」というテーマは浮かんだものの、単に褒めてもらうだけではなく、もっと恥ずかしく、面白くするためにどうすればいいかを考えた結果、「キレながら褒める」という逆説的なコンセプトが生まれた。

「芸人さんたちが褒められるのは恥ずかしいだろうと思ったので、さらに喧嘩のトーンで褒めるというアイデアが出てきたんです」

津田篤宏(ダイアン)が最初にこの企画に挑戦し、そのパフォーマンスで現場は一気に盛り上がった。

「津田くんがやってくれた時点で盛り上がったので、『これはいけるな』と感じました」

Netflixコメディシリーズ「トークサバイバー!」の成功の背後には、千鳥の存在が大きな影響を与えていた。佐久間は、千鳥が持つ「滑らせない力」を高く評価している。

「千鳥の前で『滑りたくない』と思わせる力があるからこそ、他ではできない話を芸人たちがぶっ込んでくれるんです。特に、『この人たちが笑ってくれたら嬉しい』という千鳥のカリスマ性があってこそ、スキャンダラスなトークも出てくるんだと思います」

また、番組制作に携わるディレクターたちへの信頼も、番組を成功に導く重要な要素だと語る。

「現場のチーム、特に僕を中心としたディレクターたちが『どんな話が出ても滑らせない』と信頼されているからだと思います」

この信頼関係が、自由な発想と挑戦的なアイデアを支え、番組をさらに高みに引き上げている。

業界改革への思い

佐久間は、エンタメ業界のベテランとして、後進の育成にも力を入れている。例えば、「ゴッドタン」では若手ディレクターを積極的に起用し、彼らが成長できる環境を整えている。

「『ゴッドタン』では、20代や30代前半のディレクターが多く、彼らが番組で育っていき、やがて卒業していく流れがあるんです。結果として、僕だけが残っているという状況になっています」

年齢を重ねたことで生まれる権威感を避け、自由な意見交換を大事にしている。


(撮影:長田慶)

「『佐久間の言うことが絶対だから直さなきゃいけない』と思わせないようにしたいんです」

また、若手スタッフが佐久間に対して率直に意見を言える環境を整え、クリエイターとしての成長を促している。

「僕に『違う』と言えるスタッフを必ず入れるようにしています。そうしないと、若手がイエスマンばかりになってしまう。だから、スタッフが『違う』と意見を言いやすい空気を作ることが、クリエイターたちが育つために大事だと考えています」

"わけのわからない仕事"の未来

最後に、50代を迎える佐久間に、エンタメ業界での今後の挑戦について尋ねてみた。「トークサバイバー!」での成功を経て、彼が日本の笑いを世界に広めるかと思いきや、その答えは意外なものだった。


(撮影:長田慶)

「フリーになって何でも受けた結果、大変でしたけど、面白い仕事に繋がったので嬉しかったです。ここから先は、もっと楽しい仕事をするために『何それ?』というような仕事をたくさん受けようと思っています」

既存の成功に満足せず、さらにリスクを取って挑戦を続けるその姿勢は、佐久間の独自性を際立たせる。

「わけのわからない仕事にも積極的に挑戦していきたいですね。もちろん、何の話題にもならずに終わる可能性もありますけど(笑)」

彼の柔軟で自由なアプローチは、今後も業界に新たな風を吹き込み、さらなる可能性を切り開いていくだろう。そして、誰もが予想できない新たなステージへと進んでいく。

(池田 鉄平 : ライター・編集者)