Illustration: E. Wernquist / D. Nelson (IllustrisTNG Collaboration) / M. Oei /ブラックホールジェットの印象図

銀河系を140個、横に並べた長さ。

はい。スケールでかすぎてもう想像つきません。

宇宙は私たちの感覚を優に超えてきます。この度、なんと140個の銀河系を横に並べた長さの天体が発見されました。

発見された天体は、ブラックホールジェットと呼ばれる、ブラックホールから光速で放出される巨大なジェット流です。

観測史上最大のブラックホールジェット、ポルピュリオン

今回発見されたブラックホールジェットの長さは2,300万光年に達し、これまでに観測された中で最大です。2,300万光年とは、140個の銀河系を端から端まで並べたほどの長さ。ギリシャ神話の巨人にちなんで「ポルピュリオン」と名付けられ、Nature誌で発表されました。

カリフォルニア工科大学の研究者であり、論文の筆頭著者であるマーティン・オーイ氏は記者会見でこのように述べました。

私たちの研究は、超大質量ブラックホールが、ブラックホールが存在している銀河内だけでなく、コズミック・ウェブ(宇宙を形成する銀河同士のネットワーク)にも影響を及ぼすことを示しました。

これまでブラックホールジェットは、そのブラックホールが存在している銀河内やその近くだけに留まるものだとされてきました。しかしポルピュリオンの規模は、宇宙構造物にまで匹敵しています。これまでの常識を変える発見です。

世界中の調査機器で、ポルピュリオンを解析

ポルピュリオンは、宇宙誕生から63億年(現在宇宙は約140億歳)頃に形成された、古いジェット流です。

今回、ヨーロッパのLOw Frequency ARray(LOFAR)の調査データから発見されました。これまでに、LOFARのデータから宇宙の約15%を覆う、1万以上の同様の微弱なジェット流が確認されています。

研究チームは、インドの巨大メートル波電波望遠鏡(Giant Metrewave Radio Telescope: GMRT)と、アリゾナ州の暗黒エネルギー分光器(Dark Energy Spectroscopic Instrument: DESI)からのデータを用いて、ポルピュリオンの元となる銀河を特定しました。さらに、ハワイのケック天文台の観測によって、ジェット流が地球から約75億光年の距離にあることが明らかになりました。

ポルピュリオンのようなジェット流が形成される正確な条件はまだ不明ですが、研究チームは、そのブラックホールが強大な重力で周囲の物質を引き寄せながら、エネルギーを放出していることを発見しました。

コズミック・ウェブを貫くジェット流 Illustration: Martijn Oei (Caltech) / Dylan Nelson (IllustrisTNG Collaboration) Some details were generated with AI

ブラックホールジェットが銀河を育てる?

論文の共同著者であるハートフォードシャー大学の天体物理学者、マーティン・ハードキャッスル氏は記者会見で以下のように述べました。

ポルピュリオンのような構造体が生まれるには、非常に強力な降着が起きる必要があります。例えば、他の銀河との合体によってブラックホールに大量のガスが供給されるというようなことが、必要なのかもしれません。

また、共同著者であるカリフォルニア工科大学の天文学者、ジョージ・ジョルゴフスキー氏は、リリース内で以下のように述べています。

天文学者は、銀河とその中心のブラックホールは、互いに影響し合いながら進化していくものだと信じています。ブラックホールジェットが大量のエネルギーを放出し、それが銀河自身の成長や、周辺の銀河の成長にも影響を与えるということです。この発見は、ジェットがこれまで考えられていたよりもはるかに広範囲に影響することを示しています。

同チームは、以前「アルキオネウス」という名のブラックホールジェットも発見しています。こちらも神話上の巨人にちなんで名付けられ、その長さは銀河系約100個分でした。

オーイ氏によると、ポルピュリオンやアルキオネウスのようなジェット流は、宇宙空間を磁化します。そして、非常に大量のエネルギーを放出し、局所的には、銀河と銀河の間に広がる空間に存在している物質、銀河間物質を100万度にまで加熱する可能性があるとのこと。さらに、コズミック・ウェブの間にある広大な空間に磁場を生成、放出する可能性もあるとのことです。もうスケールがデカすぎて何がなんだかわかりません。

新たな発見が期待される、ブラックホールジェットの研究

オーイ氏は、

宇宙のあらゆる場所で磁場が形成されていることが観測されています。銀河全体が磁化されているだけでなく、コズミック・ウェブのフィラメントや、それらのフィラメントの間にある空隙も磁化されています。

この大規模な磁化現象は非常に注目されています。宇宙誕生について、何かヒントが隠れているかもしれません。

と言います。

宇宙を調査するための新しい観測装置、スクエア・キロメーター・アレイにより、さらなるジェット流の発見が期待されています。また、コンピュータビジョンやAI技術を使った画像解析の自動化によって、さらに多くのブラックホールジェットが見つかっていくでしょう。

チームはすでに約1万のジェット流を発見していますが、これは「発見可能なもののごく一部に過ぎない」とオーイ氏は述べています。宇宙には10万から100万のブラックホールジェットが存在する可能性があると推測されています。