キリングループは、発酵&バイオテクノロジーを起点に、食・医・ヘルスサイエンスの3領域で事業を展開。同社は、2013年に「キリングループ長期環境ビジョン」を策定、2020年には「キリングループ環境ビジョン2050」を策定し、さまざまな取り組みを進めている。

9月19日、同社の飲料未来研究所は栃木県農業総合研究センターと早稲田大学と共同で、栃木県のビール大麦試験圃場において、バイオ炭施用による効果検証を新たに研究することを発表。同日には、「キリングループの生物多様性保全・気候変動に関する環境再生型農業セミナー」が開催された。

キリンホールディングス CSV戦略部 野坂有紀江氏(右)、美鳥圭介氏(左)が説明した

○■キリングループの環境ビジョン

冒頭、キリンホールディングス CSV戦略部 野坂有紀江氏は、同社の環境ビジョンについて説明。

環境ビジョンでは、生物資源、水資源、容器包装、気候変動の4つを重点テーマとしている。「『ポジティブインパクトで、豊かな地球を』というメッセージを掲げ、自社で完結する取り組みの枠を超えて、取り組みそのものとその波及範囲を社会全体へ拡大し、これからの世代を担う若者をはじめとする社会とともに未来を築いていく」と野坂氏。

キリングループ環境ビジョン2050

気候変動と生物多様性保全の取り組みについては、2013年に「長期環境ビジョン」に加え、「生物資源利用行動計画」を策定。スリランカ紅茶農園へのRA取得支援の開始や、プラスチックの持続可能な使用など具体的な取り組みを開始。2022年には世界の食品企業として初となる、気候変動のネットゼロ目標がSBTに認定されており、現在達成に向けて取り組みを加速していると話す。

同社は、中期目標として、2030年までに2019年比でScope1,2(自社エネルギー使用などによる排出)を50%削減、Scope3(バリューチェーン全体での排出)を30%削減。長期目標では、2050年までにバリューチェーン全体のGHG排出量をネットゼロにすることを掲げている。

キリングループの気候変動取り組みについて

2022年3月には、TNFDガイダンスβ版v0.1の「LEAP アプローチ」を使い試行的開示を実施。LEAP分析の対象として、「シャトー・メルシャン 椀子ヴィンヤード」を選び簡易的な分析を行った。2014年からは、農研機構と共同研究で生態系調査を開始。この10年間で、昆虫は168種、植物は289種が確認されている。また、遊林荒廃地を、垣根式かつ草生栽培のワインのブドウ畑にすることは、生態系を豊かにすることを科学的に確認。このような取り組み実績が評価され、2023年に10月に椀子ヴィンヤードは「自然共生サイト」へ正式認定された。

「シャトー・メルシャン 椀子ヴィンヤード」生態系調査について

○■環境再生型農業の取り組み

環境再生型農業について、同社 CSV戦略部 美鳥圭介氏が説明。まず、「世界中から排出されるGHGの約24%は農業・林業由来であり、食糧システム全体でみると、約31%を占めている。たとえば、土壌や牛のげっぷ、水田などから排出されている」と美鳥氏。

昨今注目されている環境再生型農業。耕起を行わない再生型農業が広がりつつある。同社の取り組みとしては、レインフォレスト・アライアンスとの共同で「炭素固定を強化し、炭素排出量を削減」、「生物多様性の保全を強化し、生物多様性への悪影響を削減」を挙げ、気候変動と生物多様性の崩壊に対処する。

スリランカ紅茶農園においては、2013年より紅茶農園へレインフォレスト・アライアンス認証取得支援に取り組んでいる。スリランカ全体の認証取得済み大農園のうち同社の支援で取得した割合が2023年末時点で約30%、認証農園数は94農園となった。美鳥氏は「認定された農園から茶葉を調達するのではなく、長期的な視点でスリランカ全体での持続可能な茶葉を生産地から自由に調達できるようにするため、農園の認証取得支援という方法をとってきた」と説明する。

スリランカ紅茶農園の取り組みについて

2024年3月から、バイオ炭によるGHG固定化に向けた共同研究を農研機構と開始。GHGネットゼロの目標に向けて、炭素固定や吸収による排出量を中和することが必要。その一つの手段として、本研究が役立つと考えている。将来的にはサプライヤーへの展開をすることで、Scope3における原料農産物のGHG排出量の削減に繋がり、取り組みを広げていくことで脱炭素社会へ貢献が可能になるという考えだ。

○■新たにビール大麦の研究を開始

また、2024年10月より、同社の飲料未来研究所は、栃木県農業総合研究センターと早稲田大学とビール大麦試験圃場へのバイオ炭施用による効果を検証する新たな共同研究を開始する。

ビール大麦試験圃場へのバイオ炭施用による効果を検証する新たな共同研究を開始

まずは、ビール大麦の生育状況、土壌改良の効果、土壌の微生物への影響などを測定する。ビールの原材料となる大麦を研究することで、環境再生型農業の可能性を探索しつつ、生物多様性評価の一層の高度化、脱酸素社会の実現、気候変動の緩和を目指していく。