「フレンズオンアイス2024」浅田真央 編


『フレンズオンアイス』に出演している浅田真央

【スーパースターである所以】

 8月29日、KOSE新横浜スケートセンター。国内外最高のフィギュアスケーターたちを集めたアイスショー『フレンズオンアイス2024』のリハーサルが公開された。

「今回、初めて出演させてもらいました!」

 唯一無二のフィギュアスケーターと言える浅田真央は、快活に言う。

「『フレンズオンアイス』は若手スケーターからレジェンドスケーターまで、さまざまな時代で活躍したスケーターが世界中から集まっています。なので、自分も滑っていて、すごく感動的な時間を過ごしています。他のショーでは見られない、贅沢な内容だと思いますし、宝石のような輝きのショーを皆さんに見てもらいたいです!」

 この日、リンクに立った浅田は、ほとんど生来的な明るさや華やかさで他のスケーターと一線を画していた。

〈スケートが好き〉。笑顔でその熱を振りまくと、会場の隅々にまで伝わる。もちろん、他のスケーターも「好き」の熱量を感じさせるのだが、彼女はたとえ苦しみを表現していても、スケートへの希望を少しも絶やさない。誰かの人生を明るく照らすというのか。極端に言えば、スパイラルひとつで空気を変えられる。

 彼女が時代を越えたスーパースターである理由は、きっとそのあたりにあるのだろう。

【悲劇を歓喜に転換するヒロイン】

 ショー第2部の終盤、浅田は『Chandelier』でソロナンバーを滑っている。人間の情念を感じさせるプログラムだった。

「『深夜のシャンデリア』という曲で、苦悩を表現しています」

 浅田はそう説明している。実際、衣装も白いシャツの一部は、心が血を流したように赤く染まっていた。演技中の表情は悩ましく、髪もバッサリと切って、曲のプロモーションビデオのイメージに近づけたという。

「(ショー全体のテーマが)宝石の輝きなのですが......私はスケートを滑っていて、楽しい、幸せだけではなくて、どこか大変でつらいこともあって。でも、負けずに輝くんだ! というところがあるので、そこを表現しました。そういうすべてを、皆さんに見てもらえるように」

 浅田は、「明日が存在しないように生きていく」という悲壮な歌詞に体を揺らし、滑っている。暗さも漂う曲だが、力強いボーカルに合わせたつややかなスケーティングで、「必ず来る明日を生きる、だから今は苦悩を吐き出す」という深夜の一瞬の慟哭(どうこく)を表現していた。

 小手先の技術ではない。歌声や音の一つひとつに感情を乗せられるからこそ、人の心を惹きつけるのだ。あるいは、彼女がスケーターとして生きてきた道のりも、そこに重なっているのか。

 浅田が座長を務めているアイスショー『BEYOND』もそうだが、彼女自身が物語の主人公になるだけの人生を歩んできた。『BEYOND』は「何度だって立ち上がる。これは、私たちの進化の物語。」と銘打っていたが、それは彼女のスケート人生にも通じるところがあった。明朗で、不屈で、前向きな生き方だ。

 現役時代、浅田は全日本選手権で6回優勝し、グランプリファイナルも4回制覇、世界選手権でも3回にわたって女王になっている。しかし、栄華だけではない。苦しみも伴っただろう。

 たとえばオリンピックは、たびたびドラマチックだった。2006年のトリノ大会は年齢制限で逃すことになった。2010年のバンクーバー大会では、記憶に残る銀メダルを受賞したが、2014年のソチ大会ではメダルに届かなかった。しかし、ショートプログラムの失敗からフリーで巻き返し、むしろ忘れられない感動を呼んでいる。

 悲劇を歓喜に転換する生きざまが、彼女を真のヒロインにしたのだ。

【荒川静香と意気投合】

 もっとも、浅田自身は偏って神格化されない。今も、「真央ちゃん」と呼んでしまいそうな、親しみやすさがある。近づきがたくはない、善良さ、明るさが魅力だ。

「真央ちゃんがこんなに楽しい人って思わなかった!」。公開リハーサル後の囲み会見、トリノ五輪金メダリストの荒川静香が言えば、「静香さんが、こんなにしゃべる方だとは思いませんでした!」と即興で、浅田は返していた。

 ふたりは舞台裏で親密さを増し、しゃべり続けているという。現役当時は、年齢が離れていたし、それぞれ若く、話す機会がなかった。しかし、いまや表現者として相通ずるものも多いのだろう。

「(オープニングで高橋大輔、荒川静香と)3人で並ぶのは緊張します。絶対、失敗できないです!」

 浅田はにこやかに言う。その責任感で、彼女はリンクに立っている。そして、彼女が見せるのは希望だ。

 ショーは8月30日から9月1日まで3日間、全6公演が行なわれる。

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