会見を開いた金氏(左)、飯山氏(中央)、宮崎氏(右)(8月22日都内/弁護士JP編集部)

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8月22日、「行政による人権侵害を考える会・関東」の発足を知らせる記者会見が厚労省(東京都)で開催された。

各地で起こった事件の関係者が集結

同会は、今年2月に群馬県高崎市の県立公園「群馬の森」にある朝鮮人追悼碑が県の行政代執行で撤去されたことや、3月に神奈川県相模原市で制定され4月から施行となった「人権尊重のまちづくり条例案」に市人権施策審議会が提出した答案が反映されなかった問題などを契機として結成。

会見では、明治学院大学准教授の宮粼理氏が発足声明を読み上げた。

「本来であれば『全体の奉仕者』として市民に対し公正・平等に向き合うべき行政機関によって、市民への人権侵害や人権への無理解による言動や調査がなされる事例が近年の関東圏で頻発しています。

これに強い危機意識を持ち、それぞれの事例に関係する個人がつどいました」(宮粼氏)

東京都での「検閲」事件、埼玉朝鮮学校への補助金停止問題

美術家の飯山由貴氏は、2021年、関東大震災における朝鮮人虐殺を題材にした映像作品『In-Mates』を作成。

2022年10月、東京都人権プラザで開催されていた飯山氏の個展の付帯事業として、『In-Mates』の上映およびトークイベントが予定されていた。しかし、東京都総務局人権部は題材に対する懸念から、作品上映を禁止。

会見で飯山氏は「憲法にも『検閲は、これをしてはならない』と規定されている(第21条2項)」と語り、人権部の決定を批判した。

また、学校法人・埼玉朝鮮学園理事の金範重氏は、同法人が運営する埼玉朝鮮初中級学校および幼稚部に関して、北朝鮮の拉致問題などを理由に2010年度から埼玉県による補助金の支給停止が続いている問題を訴えた。

2015年、埼玉県弁護士会は、補助金の支給停止は日本国憲法14条1項(平等原則)に違反するのみならず「県が積極的に差別を助長しかねない極めて重大な人権侵害である」として、上田清司県知事(当時)に対し「人権侵犯救済申立事件に関する決定(警告)」を出した。

また、金氏が埼玉県県民生活部人権・男女共同参画課の課長と面談した際には「補助金の問題は人権の問題でない」「弁護士会の見解は一団体の見解に過ぎない」「人権侵害と訴えるなら、法務局に行ってほしい」などと応答されたという。

埼玉県に限らず、神奈川県や山口県などでも、朝鮮学校への補助金は「県民の理解を得られない」ことを理由に停止されている。

「人権とは、多数派から少数派を守るためにあるもの。『多数派の理解』を理由にして少数派の人権が否定されるのはおかしい」(金氏)

「社会に埋め込まれた差別」の再生産

宮粼氏は、イギリスやアメリカなどで研究が発達している「制度的レイシズム」に関する理論に基づきながら、「行政の判断によって『社会に埋め込まれた差別』が再生産される」と解説した。

「行政による人権侵害は、本来なら平等である人々に『線引き』をする行為。

たとえば朝鮮学校の補助金停止は、直接的には金銭の問題に思えるかもしれないが、一般市民に対して『在日朝鮮人は自分たちとは異なった人間だ』『自分たちの社会とは外側にいる存在だ』などのメッセージを発する効果がある。

行政の判断によって、一般市民たちの間で、差別的な感情や行動が強まってしまう。『補助金を停止されるのだから、在日朝鮮人には問題があるはずだ』などの考え方を市民に抱かせる結果をもたらす」(宮粼氏)

飯山氏も「行政や自治体の首長などの『上』が過去の事件や少数派に対する差別の問題を否認することで、一般市民たちによる『下』からの差別も深刻になる。まずは、『上』に差別の問題を認めさせることが重要だ」と語った。

相模原市「人権尊重のまちづくり条例」に関して抗議集会を予定

相模原市の「人権尊重のまちづくり条例」では、当初は「ヘイトスピーチへの罰則(50万円以下の罰金)」や「独立性の高い人権委員会の設置」などの条項が予定されていたが、実際に制定された条例には盛り込まれず。

また、条例には「不当な差別的言動(ヘイトスピーチ)の解消」が含まれているが、その対象は「本邦外出身者」に限定されている。相模原市では2016年に障害者施設「やまゆり園」での殺傷事件が起きたこともあり、当初は障害や性別・ジェンダーなどに関わるヘイトスピーチを包括的に禁止することが期待されていた。

「行政による人権侵害を考える会・関東」は、今後、条例案に関する抗議集会を行うことを計画しているという。

「ただし、特定の問題に取り組むことは、会の目的ではない。

人権侵害が関わるさまざまな問題について、それぞれに活動や表現を行ってきた個々人がつながることのできる会にしたいと思っている」(飯山氏)