『フォールガイ』アクション手がけた浅谷康「こういうの、やっぱカッコいいっすよね」が通じる現場 ─ 映画の中の「スタントマンあるある」

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ライアン・レイノルズ主演、『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』(2019)、『ブレット・トレイン』(2022)などド派手なアクションを得意とするデヴィッド・リーチが、ハリウッドの最先端アクション集団である87ノース・プロダクションを率いて贈る映画『フォールガイ』が日本公開中だ。

自らもスタントマン出身であるリーチが、アクション映画のスタントの世界を映画にした意欲作。実はこのハイテンションな映画には、アクションコーディネーターとして日本人の浅谷康が参加している。

浅谷は『アクアマン/失われた王国』『ソー:ラブ&サンダー』『シャン・チー』『ゴースト・イン・ザ・シェル』『エイリアン:コヴェナント』など、数々のハリウッド大作に出演する日本人スタントマン。スタント界のアカデミー賞と言われる「トーラス・ワールド・スタント・アワード」では2017年度で受賞しており、日本・海外で活動の幅を広げている。

『フォールガイ』で浅谷は格闘シーンのスタントチームとして参加。プリプロ(撮影準備段階)から携わり、クラブシーンやトム・ライダー(アーロン・テイラー=ジョンソン)のアパートでのファイト、ハーバーブリッジでのコルト(ライアン・ゴズリング)のチェイスシーン等で、アクションのデザインから携わっている。

また、ジョディ(エミリー・ブラント)のカメラアシスタント役や、劇中映画『メタルストーム』内のエキストラ役でも出演。そんな浅谷に、THE RIVERでは単独インタビューを敢行。実際のスタントマンから見た『フォールガイ』の意外な魅力や、スタントの世界の実態についてを詳しく聞いた。

『フォールガイ』スタント・デザイン 浅谷康 単独インタビュー

──浅谷さんは、今作『フォールガイ』でどのような仕事をされたのですか?

スタントのデザインを担当しました。劇中でのキャラクターの立ち回り、体を使ったファイトだったり、チェイシングだったり、アクションシーンのデザインを作る仕事です。

例えば台本の中で、主人公がナイトクラブに入って行って、こういうストーリーでチェイスシーンが始まりますと書かれていたら、どういうアクションを見せれば面白くなるかを考える。監督からは、ジャッキー・チェンの映画みたいに、その場にあるものを使って戦わせたいと希望がありました。それに対して、「こんなのどうですか?」と動きを提案するんです。

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──いわゆるスタント・コーディネーターとは違う働きなのですね。

そうですね、僕たちがコレオグラフを作るのに対して、コーディネーターは「撮影は3日しかないから、これじゃ分量多すぎるよ」とか「この動き、役者がやるのは難しいから、変えてくれ」とか、バジェットの問題に対処したりだとか、撮影のための全体像を見る仕事です。ほかに、この日の撮影ではパフォーマーが25人必要ですという時に、スケジュールが空いてるパフォーマーを抑えてくれたり。その場の“コーディネート”をやるのがコーディネーターです。

一方、僕らはデザイナー。台本を読んで、好き勝手に「こんなんどうですか」とどんどん発案する側の人間でした。

──『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』でアクション監督を務めた谷垣健治さんは、自身の仕事について「アクション通じてキャラクターを表現する」「役者ごとの得意不得意を見出すカウンセラーで、アクションの処方箋を出すようなもの」とおっしゃっていました。浅谷さんが本作でライアン・ゴズリングたちのアクションをデザインする上で、心がけたことは?

谷垣さんが言っていることはよくわかります。役者さんとのリハーサルやトレーニングを通じて、動きのクセや得意ジャンルを見極めていく。役のイメージもあります。役者さんの持っているアクションのイメージを汲み取って、なるべくそれに応えるようなコレオグラフを作ります。まさに処方箋のように、「こういう動きをやるので、ホテルに戻ったら毎日このストレッチをしてください」と伝えることも行います。

例えば本作では、ライアン・ゴズリングがワインボトルで殴るアクションがあるので、小道具のワインボトルを彼に一つ渡して、「ホテルの部屋でこのエクササイズをしておいてください、時間がある時にこういう動きを練習しておいてください」と宿題と出すんです。

相手役のスタントパフォーマーの手首を捻ったり投げたりする時も、「こういうふうにすれば楽ですよ、ここまでやってくれればあとはスタントパフォーマーが自分で飛んでくれるから、そんなに押し込まななくてもいいですよ」といった擦り合わせは丁寧にやっていました。そういう処方箋じゃないですけど、すり合わせはしていましたよ。

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──ひと口にアクションと言っても、激しいアクションからダンスのようにエレガンスなものまで様々です。ライアン・ゴズリングに当てるアクションはどのようなものでしたか?

監督のデヴィッド・リーチがスタントマン上がり。彼はジャッキー世代で、ジャッキー映画がすごく好きなんで、ジャッキーっぽいけれどコメディになりすぎないアクションを意識しました。香港映画のテイストを残しつつも、ライアンがアメリカ人のスタントマンだという設定も考慮して設計しました。

──浅谷さんもジャッキー・チェン映画のファン?

はい。ジャッキー世代なんで、日本ではジャッキー映画を見て育ちました。だから監督と話が通じあうことも多かったです。「こういうことやりたいんだろうな」とか、その辺の駆け合いは割と楽でしたね。

──本作が他のアクション映画と違うポイントは、スタントマンを題材にしていることですね。デヴィッド・リーチ監督がスタントマン上がりというお話がありましたけれども、現場のスタントマンたちの雰囲気や意気込みはいかがでしたか?ある意味、この映画は自分たちが主役なんだといった心持ちは?

それはありましたね、映画自体がスタントマンをメインに扱った劇中劇なので、スタントマンにスポットライトがどんどん当たってくる。僕らとしてもプレッシャーは感じましたけど、デヴィットはスタントマンの気持ちとか、僕らのやり方を分かってくれていました。

待遇面で言うと、リハーサルに僕らスタントマン用の大きなスタジオが用意されていました。あとは、僕たちの意見も割と通してくれる感じ。大きな会社の作品では、スタントマンとしてはこういう絵にすれば絶対にかっこいいと思っていても、プロデューサーの意見が優先されてしまうことも“あるある”です。

でも『フォールガイ』では、スタントマン出身の監督と僕たちの感覚が似ていました。「こういうのやっぱカッコいいっすよね」って言うと、「そうそう、こういう感じ」ということがよくありました。すごくやりやすかったですね。

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──最近では、スタントマンがいかに危険で勇敢なことをやっているのか、ということが注目されるようになっていて、チャド・スタエルスキがアカデミー賞にスタント部門を作りたいと掛け合っているという話も聞きます。『フォールガイ』の劇中では、主人公のスタントマンが撮影現場でぞんざいに扱われ、やりづらそうにしているところもありました。劇中の描写はどれくらい“あるある”なのでしょうか(笑)。

結構あるあるですよ!(笑)もちろん、監督の気分次第で何回アクションをやり直すとか、そんなのはないですけど。ちょっと盛っているところもありますが、「あるある!」と思って見ていました。どうせスタントマンなんでしょ?みたいな見られ方をしてしまうことはよくあります。例えば炎天下で撮影している時に、役者さんにはお付きの人とかADさんが日傘を差してくれるけど、スタントマンには別に何もありません。仲間が「水持ってきましょうか」って気を遣ってくれる程度ですね。

──撮影前にスタントの練習はどれくらいされるものなんですか?

作品よってだいぶバラバラですけね。フィジカルでどれぐらい動くのかによります。1~2ヶ月トレーニングに入ることもあります。あとは役者さんのスケジュールにもよりますよね。

『フォールガイ』では、ライアンがスタントダブルという役に入るための役づくりとして、トレーニング以外にもフラっと僕らスタントのリハーサルスタジオに来てくれて、みんなと談笑していましたね。俺もスタントマンの一員として雰囲気を味わいたいということで、よく来てもらっていました。

作品によっては、ぶっつけ本番でスタント撮影ということもあります。でも『フォールガイ』は監督がデヴィッドだったので、僕らがそういうのを嫌がることも、それでは本当のパフォーマンスを引き出せないこともわかってくれていた。だから可能な限りリハーサルの時間を作ってもらって、何日かリハーサルしてから撮影っていうのがメインでした。

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──先ほどの「スタントマンには付き人もいない」というところで、スタントマンとしての辛いところをお聞きした気がするんですけど、逆にスタントマンの楽しいところや、やりがい、いいところってなんですか?

どうだろう?(笑)特に最近は注目されてきているから、「スタントマンなんだ!」って言われることも増えました。僕は17~18年前にこの仕事を始めたんですけど、当時はスタントマンの存在なんて、特に日本では確立されてないじゃないですか。「僕の父さんはスタントマンです」なんて言う人いなかったし。だから、本当に好きでやってる人たちが集まってた。今でもまあ、そうなんですけど。なので、仲間意識がすごく強いですね。みんなで体張ってやっている感覚。怪我することもあるし、危険もある仕事だからこそ、ファミリー感があるというか。それはすごくやってて楽しいところです。

──スタントマンのコミュニティがあるということですね。そのコミュニティの中でこの『フォールガイ』はどういうふうに受け止められているんですか?

まず、デヴィッドとケリー・マコーミックが立ち上げたスタント系の制作会社の87ノース・プロダクションズというのが、世界でもかなり大きな組織になっています。それから、今作でコーディネートを手がけたスタント・アンリミテッドというのも、昔からある大きな組織。アメリカのスタントマンはみんな見るだろうなと思います。87ノースがどんな映画を作ったのかなと。

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──浅谷さんは、完成した映画をご覧になってズバリいかがでしたか?

とても面白かったですよ。もともとデヴィッドの作品が好きで、『ブレット・トレイン』もちょっとおしゃれな感じで好きだった。音楽の選曲だったり、音とスタントを融合させたりする雰囲気が好きですね。

──アクション映画ファンだからこそ気づいて欲しい、楽しんで欲しいポイントはありますか?

ビーチで車を転がす「カー・ロール」というシーンがあるんですけど、もともとの台本の中で「世界記録を破った」っていうのが書かれてたんです。それありきで始まってるんで、そこのプレッシャーをわかってほしい(笑)。

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──現実でも本当に世界記録を更新するテイで撮影をしたということですか?(笑)

そうなんです、もともと更新するというストーリーが書かれていた。無茶振りですよね(笑)。もちろん87ノースが作るシーンで、監督もデヴィッドで、スタント・アンリミテッドから車のスペシャリストも来ているんで、もしも更新できなかったとしても、映画として成立はするんですけど。でも、そういうわけにもいかないだろうっていう現場のプレッシャーが結構すごかった。意地でもギネスを更新しなきゃないけないという雰囲気です。何回もテストして、いろいろミーティングして。僕は車の専門で入っていないんで、あのシーンにどっぷり浸かってはないけど、同じスタジオにいるんで、わー大変なんだろうなと思いながら見てましたね(笑)。

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──この記事を読んでくれる人の中で、これからスタントマンになりたいっていう人がいるかもしれません。そういう子たちは、これから何をしたらいいですか?

スタントマンにもいろいろあります。車が好きな方は車やってたり、ファイトが好きな人とか、最近ではパルクールやってる子たちも、そこからスタントの道に入ってきたりするんで。結構人気が出てきています。今回の作品もそうだし、の作品にも日本の方がコレオグラファーでたくさん入ってたり、パフォーマーで入っていることが多くなっている。それこそ谷垣さんは、日本から何人も連れていろんな作品に入っています。やりたいと思う気持ちさえあれば、すごくいい時期だと思います。養成所もあるので、連絡してみたり、知り合いを探してみたり。スタントを目指す人にとっては、昔よりもいい時代になったと思います。

──英語はマストですか?

海外の現場入るなら、ベラベラに喋れなくてもいいけど、コミュニケーションはやっぱり取れた方がいいかもしれないですね。例えば、英語ができる谷垣さんは海外で重宝されています。日本でやって、海外の作品に出たいなっていうんだったら、英語を喋れるとアドバンテージにはなると思いますね。

──浅谷さんはどうやってスタントマンとしての現在地までに辿り着いたのですか?

僕はもともとダンサーでした。一番最初に携わった作品は、スティーブン・スピルバーグがエクゼクティブ・プロデューサーを手がけた、クイーンズランドとメルボルンで撮影の「ザ・パシフィック」(2010)という戦争ドラマ。そこでエキストラをやらせてもらうことになって。日本からも何人かスタントの方が来てたんですけど、10か月ぐらいの撮影の中で人数が足らなくなってちゃって。誰かバックスタントできる人いない?って言われて、じゃあ僕やります、みたいな。そんなノリです、最初は。そのままズブズブと入っていた感じです。

──そこからどんどん次の作品に呼ばれるようになり、チャンスを掴んだんですね。

そうですね。当時からブレイクダンスをやっていたので体には自由が効いた。地元の人たちに「そのままスタントやった方がいいよ」みたいに言われて、徐々にやるようになって、気づいたらこうなっていました。

──ブレイクダンスのルーツと格闘技や武道との出会いがどこかであったのかなと思うんですけれど、どこかで学ばれたのですか?

「ザ・パシフィック」が終わってメルボルンに帰ってきた時ですね。ジャッキー・チェンのスタントチームであるポールとブラッド・アランという2人がメルボルン出身で、きっかけがあってポールのところに練習に行かせてもらったんです。ポールは元々プロのキックボクサーなので、ずっとジムでキックボクシングを一緒にやっていました。中国武術はブラッド・アランの師匠のマスター・タンから学びました。

──ダンスをもともとやられていたので、武術の習得も早かったのでは?

早かったと思いますよ。プロのダンサーって、コレオグラファーから振り付けをパッと渡されて、「じゃあ来週ステージだから」みたいなことを、沢山こなさなきゃいけない。振りを即興で自分に移すことには慣れていました。やっぱりダンスができると強いと思います。これからスタント目指す子には、ダンスはおすすめですね。

──尊敬するスタントマンはいらっしゃいますか?

ジャッキー・チェンを観て育ったので、やっぱりジャッキー・チェンはすごいなと思う。それこそ、谷垣さんも尊敬しています。ジャッキーが黄金時代を築いて香港の映画を世界に広めたように、谷垣さんは日本のアニメをライブに落とし込んで、あのレベルに持っていったのは、スタントの教科書に乗るぐらいの革命だと思っています。谷垣さんはこの映画でも日本語字幕の監修をされているので、心強いですよね。

『フォールガイ』は大ヒット公開中。

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