石丸伸二氏

写真拡大

 7月7日に投開票される東京都知事選では、現職の小池百合子氏(71)が優位に立ち、対抗馬と目されていた蓮舫氏(56)が失速、元広島県安芸高田市長の石丸伸二氏(41)が2位に浮上しようとしている──ネット上では、こんな“分析”も流布しているのだが、本当なのだろうか。

 ***

【写真をみる】安芸高田市職員を後ろに従え「ドヤ顔」でポーズをきめる石丸氏

 朝日新聞は6月22日と23日、都内の有権者を対象に電話で世論調査を実施し、その結果を24日と25日に詳報した。まず注目されたのが、小池都政の8年間を「大いに評価する」が6%、「ある程度評価する」が63%と、合計69%が好意的に見ているという回答だった。

石丸伸二

 次に関心を集めたのが「岸田内閣を支持しない」と答えた有権者が、都知事選では誰に投票するかを調べた結果だった。何と小池氏が4割弱でトップ。一方の蓮舫氏は3割で、石丸氏が3割弱で続いた。

 小池氏の支持・評価は高水準を保っているのに対し、蓮舫氏は“反岸田・反自民”の票をまとめることに失敗。石丸氏に食われてしまっている状況が浮き彫りになった。

 依然として小池氏、蓮舫氏、石丸氏という順位は変わっていないようだが、とにかく石丸氏はネット上で人気がある。SNS上では支持派と批判派が競い合うように投稿を行い、ネットメディアの記事は関心が高い。担当記者が言う。

「もともと都知事選は現職が強いことで有名です。さらに小池氏は自民党の候補者ではありませんから、裏金事件と直接の関係はありません。一方の蓮舫氏は出馬を表明した時は勢いを感じさせましたが、現時点では失速の傾向が認められます。そこにネット上では石丸氏に対する期待の声が殺到し、ちょっとした“お祭り”の状態になっています。蓮舫氏と石丸氏の“2位争い”に注目する識者や関係者も増えてきました。」

“経済に強い候補”

 追い上げを狙う石丸氏は、どのような選挙戦を繰り広げているのだろうか。公式サイトを見てみると、公約として「3つの柱」が掲げられている。

 内容は「1政治再建」、「2都市開発」、「3産業創出」の3つ。それぞれの柱に「都政の見える化・わかる化」、「災害リスクへの対応」、「46都道府県との協調・協働」などと具体的な施策が列挙されているとはいえ、やや抽象的な文言が目立つ。

 そこで石丸氏の街頭演説に注目してみたい。実はネット上で、氏の演説は聴衆が多いと話題になっているのだ。

「石丸氏は都内で精力的に街頭演説を行っており、その様子はYouTubeなどで動画が紹介されています。実は石丸氏の演説には“型”があり、最初は街の様子など軽い話題から入り、まず聴衆の笑いを取ります。次に三菱東京UFJ銀行で勤務していたことに触れ、ニューヨークで為替のアナリストとして働いていた経歴を披露。『都知事候補として最も経済に精通している』とアピールします」(同・記者)

 公式サイトでは「3つの柱」として9つの公約が紫色の字で紹介されているが、街頭演説では教育問題だけが言及されることが多いようだ。

少子化対策を力説

「石丸氏は“経済に強い候補”であるとアピールした上で、進行する少子化を憂慮します。人口が少なくなれば日本の経済力も減少してしまうのは言うまでもありません。対策は待ったなしですが、仮に施策が成功したとしても子供の数が増えるまではタイムラグが存在します。子供の数が少ない状態が続いている間は、子供たちを“精鋭”に育てる必要があると主張し、教育への大胆な投資を最重要の公約として訴えます」(同・記者)

 石丸氏は6月24日に三菱東京UFJ銀行の本店前で街頭演説を行い、「都立高校の生徒会長に100万円の“ばらまき”を行う」との新しい公約を発表した。

「この公約は注目を集め、スポニチアネックスが記事を配信すると、SNS上などで拡散しました。ただ、この“ばらまき公約”は例外的な主張だったようです。他の街頭演説では、安芸高田市で行った『学校用務員』と『給食支援員』の新規配置を東京でも行うと説明することが多いからです」(同・記者)

 石丸氏によると、安芸高田市長だった時、教員の負担を軽減し、授業に専念できる環境を整えるため、学校用務員と給食支援員を新たに配置。これには年間2000万円の予算が必要だったという。

“勝たせ屋”が見た石丸氏の演説

「石丸氏は『安芸高田市の人口は3万人、東京都は1400万人』という人口比に基づくと、安芸高田市で年2000万円の施策は単純計算で年100億円が必要と説明。都知事選に勝利した暁には、この100億円は何としてでも確保、子供たちのために使いますと聴衆に理解を求めます。教育問題を力説している際、聴衆が拍手することも珍しくありません」(同・記者)

 一点突破型の公約説明が終わると、石丸氏は「日本の政治を変えることができるのは皆さんです」と呼びかける。

 自分ではなく聴衆が“主役”という論法を石丸氏は好む。「私が政治を変えます、私が都政を変えます」と主張することは、少なくとも街頭演説では滅多にない。「皆さんの力で政治が変わるのです。その結果として、私は都知事になります」という訴えが圧倒的に多い。

 選挙コーディネーターの鈴鹿久美子さんは“勝たせ屋”の異名を持つ。政治家育成、国会議員秘書の人材育成なども手がけながら、これまでコーディネーターとして100人以上の立候補者を当選させており、その勝率は88%だという。

支援者だけでは足りない

 鈴鹿さんは「動画を見ると、石丸さんの街頭演説には多くの支持者が集まり、熱心に耳を傾けている様子が伝わってきます」と言う。

「実は街頭演説には身ぶり手ぶりの使い方や発声法など、長年の蓄積に基づいた“必勝法”があります。しかし石丸さんは、ご自身が独自に編み出した方法で演説されているという印象を持ちました。既存の政治家に嫌気が差している支援者には新鮮な印象を与える可能性がありますが、石丸さんが蓮舫さんを抜き、小池さんも逆転して勝利するためには、支援者に声を届けるだけでは足りません。石丸さんに興味を持っていなかった有権者が偶然に街頭演説を聴き、『石丸さんって人は意外にいいことを言うな』と興味を持ってもらう必要があります」

 選挙にネットが活用されるようになって久しい。街頭演説に旧態依然としたイメージが生まれても不思議ではなさそうだが、現在の有権者は特に街頭演説を重視するという。日中は仕事で演説を聞けない有権者はネット上で動画を探す。「演説には人となりが出る」と考えるからだ。

「選挙で勝つために街頭演説で声を届ける必要があるのは、目の前に集まってくれている支援者ではありません。無関心な歩行者であり、車道でハンドルを握るドライバーなのです。石丸さんの経歴も公約も人となりも知り抜いている支援者なら、あの演説を高く評価するでしょう。一方で、『小池さんにも蓮舫さんにも入れたくないから、話題の石丸さんってどんな人なのか見てみたい』という有権者には、やや拍子抜けの演説かもしれないと思いました」(同・鈴鹿さん)

誤解を招く可能性

 鈴鹿さんが特に注目したのは、「日本の政治を変えることができるのは皆さん」という呼びかけだ。

「石丸さんの支援者なら、『政治を変えるのはあなたです』とご本人から直接、バトンを渡されたような気持ちになって嬉しいのかもしれません。しかし一般の有権者からは誤解される危険性があるのではないでしょうか。『自分ではなく、候補者に政治を変えてほしい』と期待している人のほうが多数だからです。そういう有権者には『石丸さんは他力本願の政治家なのだろうか? リーダーシップがないのだろうか?』と受け止めかねません」

 さらに石丸氏は「今度の都知事選を楽しみましょう」と呼びかけることも多い。これにも違和感を覚えるという。

「政治は『まつりごと』ですから、選挙にお祭りの要素があることは否定しません。ブームを巻き起こそうというメッセージが込められているのかもしれませんが、これも一般的な有権者には『私は選挙を楽しみたいとは考えていない。真面目に一票を投じたい』と反論されるリスクがあると思います。石丸さんが都知事選に勝つには支援者ではない、一般の有権者を巻き込む必要があります。そのためには都知事になってやりたいこと、都知事選に賭ける想いなど、普通の立候補者が普通の街頭演説で発するメッセージを、ストレートに聴衆にぶつけてみることも必要なのではないでしょうか」(同・鈴鹿氏)

 なお、石丸氏が安芸高田市長だった時の意外な評判について、デイリー新潮では「『敵対した議員に“殺すぞ”のメッセージが』 安芸高田市長・石丸伸二氏の地元での評判…『極めて生産性が低い市長』の指摘も」で詳しく報じている。

デイリー新潮編集部