共働き家庭も参戦、加熱する首都圏での小学校受験「整った環境で学習させたい」親の想い
少子化に伴い2023年度の小中学校の在学者数は過去最少となっているにも関わらず、人気小学校の入学倍率は10倍以上と首都圏での“小学校受験”熱が高まっています。ごく一部の富裕層が挑むイメージがありましたが、受験に挑戦する家庭は増えていると言います。なぜ今、都市部での小学校受験が過熱化しているのでしょうか。小学校受験専門「コノユメSCHOOL」を主催する幼児教育コンサルタントの大原英子さんにお話を伺いました。
【画像】超人気かつ最難関校の慶應義塾幼稚舎、どんな問題が出る?
■人気は早慶一貫校や伝統校だけじゃない 中学受験に強い学校、独自の教育施策も
小学校受験に関する情報サイト「お受験じょうほう」によると、首都圏における2024年度入試の志願者数は2万6962人*。受験者数こそ前年度よりやや減少しているものの、難関校・人気校の倍率は10倍以上と高く、私立小学校の受験は激化しています。(*東京・神奈川・埼玉・千葉・茨木・国立の公表値を合算)
小学校受験を目指す世帯は最低でも年収1200万越えは当たり前と言われ、幼児教室の対応や試験対策でかかりきりになるため、ワ―ママには不利だという声もありました。しかし近年、リモートワーク等の柔軟な働き方が認められ、幼児教室や習い事の送り迎えも夫婦で協力して乗り越えられるように。共働きで世帯年収を上げる“パワーカップル”と言われるご家庭が続々と参入。子どもが一人っ子で教育費を全投入できる状況であれば、変わらず難関ではありますが、一般家庭にも道は開かれつつあります。
なぜ無試験で入れる公立小学校がすぐ近くにあるのに、大学受験以上の倍率がある狭き門に挑むのか。その理由として、2000人以上の子どもを有名小学校合格に導いてきた大原さんは「中学校受験の過熱化が一因」と分析します。
「中学受験世代の親が比較的多く、激化する中学受験を避けるために小学校受験を選ばれているのだと思います。特に早慶の一貫校など、中学受験を回避しながら、ある程度の学歴が得られる学校が変わらず人気を保っています。青山、学習院など大学まで行ける伝統校も人気ですし、女子校では雙葉、白百合学園など中学受験の偏差値が高い学校が小学校受験でも人気が高くなる傾向にあります」(大原さん、以下同)
一方で、一貫校でなくても、中学校受験に向けて良い環境で学ばせたいという理由で小学校受験を選択する方もいるといいます。
「洗足学園小学校や東京都市大学付属小学校など、“中学受験に向けてフォローしますよ”と言う学校も人気です。特に洗足はここ数年で受験者数がかなり増えているので、中学校受験に向けて良い環境で学ばせたいと考えるご家庭が増えているのだと思います」
他にも、英語、ICT、自然体験、図書教育など、学校ごとに様々な教育施策を打ち出していますし、学童を備えている学校もあるため、子どもをどのような環境で学ばせるかの選択肢は多岐にわたります。
「少子化の中でどう個性を打ち出していくかは、小学校側も工夫されているのではないかと思います。コロナ禍を経て、何かあった時の学校の対応の格差も明確になってきていますし、学級崩壊などの話を聞くと、選べるのであれば、整った環境で学習させたいと、教育環境を選ぶ方が多い印象です」
■6年間過ごす場所、子どもの資質か校風か…何を重視すべき?
魅力的な校風に惹かれても、自分の子どもに合うのかどうかは別問題です。のんびりしている子を進学校に入れても大丈夫なのか。環境に適応できるのか。小学校未就学児の場合、子どもの意志を志望校に反映させることも難しく、どの選択がベストなのか悩むことも多くなります。子どもの資質、子どもに合う学校はどのようにして見極めたらよいのでしょうか。
「この学校、ウチの子どもに合いますか?という質問はすごく多いのですが、3歳から6歳ぐらいの子どもって、環境に合わせて変化できる子が多いんです。むしろ学校に入ったら、その環境が当たり前だと思って過ごすので、『今の子どもの状態』よりも『どういう環境で学ばせたいか』を考えればよいと私は思います」
まずは家庭の教育方針を固め、その上で、共学か男子校・女子校か、宗教観、一貫校か受験対策校か、アフタースクールの充実、設備面、学校までの距離などの条件をかけあわせて考えると志望校を絞りやすいといいます。
「自律、思いやりなど学校の教育方針も色々とありますが、子どもに『前衛的なリーダーに育ってほしい』と思う家庭が、伝統を重んじる保守的な校風の学校に入れてしまうと、合わないですよね。なので、子どもの個性や資質は見た上で、この子をどんなふうに育てたいか、将来像にあわせて学校を選ぶとよいです」
■時間がない共働き夫婦、どう受験に挑む?「誰にでもできることは思い切って外注」
志望校を選ぶのは親でも、入学許可を出すのは学校側。入試に合格する必要があります。そのための受験対策講座や幼児教室があるのですが、小学校就学前の幼児は、保育園、幼児教室、公園など、どこに行く場合でも1人で行かせるわけにはいかないので、保護者の同行が欠かせません。勉強をする時も、基本的には文字が読めないので、問題文を読んであげなければいけません。子ども中心の生活を余儀なくされる受験生活、時間のない共働き夫婦の参入は難しいと言われてきましたが、実際どのような状況なのでしょうか。
「働きながら時間のやりくりをされている方は、今とても多いです。シッターさんや祖父母に手伝ってもらう、父親がリモートワークの合間をぬって幼児教室に連れて行く、なんてご家庭もあります。個人的に相談されたときは、『子どものことだけで時間配分しないで、自分のやっていることすべての中で、自分がやらなければならないことと、そうではないものを分けてみたら?』とアドバイスします」
忙しい時に家事代行やコンビニを利用することはダメではないと割り切って、自分の時間や子どもと向き合う時間を確保。受験対策にも「親でなければできないこと」と「誰でもできること」があるので、誰にでもできることは思い切って外注することが解決の糸口になります。
「例えば、日々の『こんなことがあったよ』『こんなの作ったから見て』という話を受け止めたり、一緒に体験に行ったりなどは、親にしかできないので忙しくても頑張らなくてはいけません。でも、ペーパー問題の問題文を読み上げるとか、ちょっとした絵の描き方を教えるとかは、親じゃなくてもできるんです」
例えば、大原さんがコノユメSCHOOLオンラインで提供している動画教材も、そのうちのひとつ。絵画・工作などの実践プログラムや、受験につながる季節行事の知識などを教える動画で、子どもは、動画の中の“大原先生”と一緒に勉強し、親はその間に家事など他のことをする時間ができるのです。
「動画学習を取り入れることで、親御さんは心の余裕ができますし、お子さんは自分でできたという気持ちにつながります。それに試験本番でも、やりかたを画像や言葉で指示されるので、親が手取り足取り教えるよりも、子どもが見て聞いて理解することが大事。もともとは親御さんのサポートのために作った動画でしたが、意外にも試験に直結していましたね」
親どころか“目の前に人がいる状態”でなくても大丈夫なのは、目から鱗。頼れる人がいない夫婦でも気軽に実践できる方法です。
「本来3歳から5歳の子どもって、できることがどんどん増えていくので、毎日成長があって、あれもできた、これもできたってほめてあげられる時期なんです。でも親がいっぱいいっぱいになってしまうと、そういうことに目を向けられなくなってしまう。仕事も家事も育児も“全部完璧”ってところからちょっと手を抜いて、楽しんだり人に任せたり。そうするだけで変わるんじゃないかなと思います」
■学童保育付き、オンライン…共働き夫婦に魅力的な学校も
実際、私立小学校にお子さんを通わせている共働きの親は多く、私立小学校ならではのサポートもあるといいます。
「先日聖心女子学院初等科にお子さんを通わせているお母さんのお話を聞く会をコノユメSCHOOLで行ったのですが、その方が『体感的には働いている母親の方が多い』とおっしゃっていたんです。聖心女子学院初等科や東京農業大学稲花小学校、さとえ学園小学校など学童保育がついている学校もありますし、お母さんが働いていても通いやすいような学校もあります」
親が時間のやりくりをできたとしても、幼い頃から受験を経験することは、子ども自身の幸せにつながるのでしょうか?
「受験しなければ、子どもと公園に行ってお花を見て春だねっていうこともないし、洗濯物のたたみ方を教えることもないし、忙しい中ペーパーに向き合う時間をとることも、食事の配膳を意識することも、たぶんないと思うんですよね。受験って合否が出るので、最終的に『否』となった時に親も子ども自分のせいしてしまいがちです。でも、小学校受験で将来なんて決まらないし、あくまでも人生の通過点なので、親子で一緒に取り組むこと、それ自体が良い経験、学びになると思います」
コロナ禍を経て注目され始めた公立と私立の差。激化する中学校受験。まだまだ根強い学歴社会。共働き夫婦の参入。様々な理由を経て注目されるようになった小学校受験は、子どもだけでなく、親子の、家族全員の成長につながるのかもしれません。
取材・文/森下なつ
PROFILE/大原英子
株式会社コノユメ 代表取締役
東京大学卒業後、大手通信会社勤務。その後、自身の母親が30年続けている受験絵画教室のメソッドを活かし、2011年小学校受験専門幼児教室設立。小規模教室ながら、慶應義塾幼稚舎42名、早稲田実業学校初等部39名、慶應義塾横浜初等部46名(2022年度実績)など、難関校に多数合格者を輩出。2022年5月に株式会社コノユメを設立。苦しい子育てをクリエイティブでエキサイティングな子育てに変えるべく奮闘中。自身も二児の母。
■人気は早慶一貫校や伝統校だけじゃない 中学受験に強い学校、独自の教育施策も
小学校受験に関する情報サイト「お受験じょうほう」によると、首都圏における2024年度入試の志願者数は2万6962人*。受験者数こそ前年度よりやや減少しているものの、難関校・人気校の倍率は10倍以上と高く、私立小学校の受験は激化しています。(*東京・神奈川・埼玉・千葉・茨木・国立の公表値を合算)
小学校受験を目指す世帯は最低でも年収1200万越えは当たり前と言われ、幼児教室の対応や試験対策でかかりきりになるため、ワ―ママには不利だという声もありました。しかし近年、リモートワーク等の柔軟な働き方が認められ、幼児教室や習い事の送り迎えも夫婦で協力して乗り越えられるように。共働きで世帯年収を上げる“パワーカップル”と言われるご家庭が続々と参入。子どもが一人っ子で教育費を全投入できる状況であれば、変わらず難関ではありますが、一般家庭にも道は開かれつつあります。
なぜ無試験で入れる公立小学校がすぐ近くにあるのに、大学受験以上の倍率がある狭き門に挑むのか。その理由として、2000人以上の子どもを有名小学校合格に導いてきた大原さんは「中学校受験の過熱化が一因」と分析します。
「中学受験世代の親が比較的多く、激化する中学受験を避けるために小学校受験を選ばれているのだと思います。特に早慶の一貫校など、中学受験を回避しながら、ある程度の学歴が得られる学校が変わらず人気を保っています。青山、学習院など大学まで行ける伝統校も人気ですし、女子校では雙葉、白百合学園など中学受験の偏差値が高い学校が小学校受験でも人気が高くなる傾向にあります」(大原さん、以下同)
一方で、一貫校でなくても、中学校受験に向けて良い環境で学ばせたいという理由で小学校受験を選択する方もいるといいます。
「洗足学園小学校や東京都市大学付属小学校など、“中学受験に向けてフォローしますよ”と言う学校も人気です。特に洗足はここ数年で受験者数がかなり増えているので、中学校受験に向けて良い環境で学ばせたいと考えるご家庭が増えているのだと思います」
他にも、英語、ICT、自然体験、図書教育など、学校ごとに様々な教育施策を打ち出していますし、学童を備えている学校もあるため、子どもをどのような環境で学ばせるかの選択肢は多岐にわたります。
「少子化の中でどう個性を打ち出していくかは、小学校側も工夫されているのではないかと思います。コロナ禍を経て、何かあった時の学校の対応の格差も明確になってきていますし、学級崩壊などの話を聞くと、選べるのであれば、整った環境で学習させたいと、教育環境を選ぶ方が多い印象です」
■6年間過ごす場所、子どもの資質か校風か…何を重視すべき?
魅力的な校風に惹かれても、自分の子どもに合うのかどうかは別問題です。のんびりしている子を進学校に入れても大丈夫なのか。環境に適応できるのか。小学校未就学児の場合、子どもの意志を志望校に反映させることも難しく、どの選択がベストなのか悩むことも多くなります。子どもの資質、子どもに合う学校はどのようにして見極めたらよいのでしょうか。
「この学校、ウチの子どもに合いますか?という質問はすごく多いのですが、3歳から6歳ぐらいの子どもって、環境に合わせて変化できる子が多いんです。むしろ学校に入ったら、その環境が当たり前だと思って過ごすので、『今の子どもの状態』よりも『どういう環境で学ばせたいか』を考えればよいと私は思います」
まずは家庭の教育方針を固め、その上で、共学か男子校・女子校か、宗教観、一貫校か受験対策校か、アフタースクールの充実、設備面、学校までの距離などの条件をかけあわせて考えると志望校を絞りやすいといいます。
「自律、思いやりなど学校の教育方針も色々とありますが、子どもに『前衛的なリーダーに育ってほしい』と思う家庭が、伝統を重んじる保守的な校風の学校に入れてしまうと、合わないですよね。なので、子どもの個性や資質は見た上で、この子をどんなふうに育てたいか、将来像にあわせて学校を選ぶとよいです」
■時間がない共働き夫婦、どう受験に挑む?「誰にでもできることは思い切って外注」
志望校を選ぶのは親でも、入学許可を出すのは学校側。入試に合格する必要があります。そのための受験対策講座や幼児教室があるのですが、小学校就学前の幼児は、保育園、幼児教室、公園など、どこに行く場合でも1人で行かせるわけにはいかないので、保護者の同行が欠かせません。勉強をする時も、基本的には文字が読めないので、問題文を読んであげなければいけません。子ども中心の生活を余儀なくされる受験生活、時間のない共働き夫婦の参入は難しいと言われてきましたが、実際どのような状況なのでしょうか。
「働きながら時間のやりくりをされている方は、今とても多いです。シッターさんや祖父母に手伝ってもらう、父親がリモートワークの合間をぬって幼児教室に連れて行く、なんてご家庭もあります。個人的に相談されたときは、『子どものことだけで時間配分しないで、自分のやっていることすべての中で、自分がやらなければならないことと、そうではないものを分けてみたら?』とアドバイスします」
忙しい時に家事代行やコンビニを利用することはダメではないと割り切って、自分の時間や子どもと向き合う時間を確保。受験対策にも「親でなければできないこと」と「誰でもできること」があるので、誰にでもできることは思い切って外注することが解決の糸口になります。
「例えば、日々の『こんなことがあったよ』『こんなの作ったから見て』という話を受け止めたり、一緒に体験に行ったりなどは、親にしかできないので忙しくても頑張らなくてはいけません。でも、ペーパー問題の問題文を読み上げるとか、ちょっとした絵の描き方を教えるとかは、親じゃなくてもできるんです」
例えば、大原さんがコノユメSCHOOLオンラインで提供している動画教材も、そのうちのひとつ。絵画・工作などの実践プログラムや、受験につながる季節行事の知識などを教える動画で、子どもは、動画の中の“大原先生”と一緒に勉強し、親はその間に家事など他のことをする時間ができるのです。
「動画学習を取り入れることで、親御さんは心の余裕ができますし、お子さんは自分でできたという気持ちにつながります。それに試験本番でも、やりかたを画像や言葉で指示されるので、親が手取り足取り教えるよりも、子どもが見て聞いて理解することが大事。もともとは親御さんのサポートのために作った動画でしたが、意外にも試験に直結していましたね」
親どころか“目の前に人がいる状態”でなくても大丈夫なのは、目から鱗。頼れる人がいない夫婦でも気軽に実践できる方法です。
「本来3歳から5歳の子どもって、できることがどんどん増えていくので、毎日成長があって、あれもできた、これもできたってほめてあげられる時期なんです。でも親がいっぱいいっぱいになってしまうと、そういうことに目を向けられなくなってしまう。仕事も家事も育児も“全部完璧”ってところからちょっと手を抜いて、楽しんだり人に任せたり。そうするだけで変わるんじゃないかなと思います」
■学童保育付き、オンライン…共働き夫婦に魅力的な学校も
実際、私立小学校にお子さんを通わせている共働きの親は多く、私立小学校ならではのサポートもあるといいます。
「先日聖心女子学院初等科にお子さんを通わせているお母さんのお話を聞く会をコノユメSCHOOLで行ったのですが、その方が『体感的には働いている母親の方が多い』とおっしゃっていたんです。聖心女子学院初等科や東京農業大学稲花小学校、さとえ学園小学校など学童保育がついている学校もありますし、お母さんが働いていても通いやすいような学校もあります」
親が時間のやりくりをできたとしても、幼い頃から受験を経験することは、子ども自身の幸せにつながるのでしょうか?
「受験しなければ、子どもと公園に行ってお花を見て春だねっていうこともないし、洗濯物のたたみ方を教えることもないし、忙しい中ペーパーに向き合う時間をとることも、食事の配膳を意識することも、たぶんないと思うんですよね。受験って合否が出るので、最終的に『否』となった時に親も子ども自分のせいしてしまいがちです。でも、小学校受験で将来なんて決まらないし、あくまでも人生の通過点なので、親子で一緒に取り組むこと、それ自体が良い経験、学びになると思います」
コロナ禍を経て注目され始めた公立と私立の差。激化する中学校受験。まだまだ根強い学歴社会。共働き夫婦の参入。様々な理由を経て注目されるようになった小学校受験は、子どもだけでなく、親子の、家族全員の成長につながるのかもしれません。
取材・文/森下なつ
PROFILE/大原英子
株式会社コノユメ 代表取締役
東京大学卒業後、大手通信会社勤務。その後、自身の母親が30年続けている受験絵画教室のメソッドを活かし、2011年小学校受験専門幼児教室設立。小規模教室ながら、慶應義塾幼稚舎42名、早稲田実業学校初等部39名、慶應義塾横浜初等部46名(2022年度実績)など、難関校に多数合格者を輩出。2022年5月に株式会社コノユメを設立。苦しい子育てをクリエイティブでエキサイティングな子育てに変えるべく奮闘中。自身も二児の母。