この視点は出店戦略にも生かされています。ケーズはコンスタントに毎期20店舗程度出店していますが、これは従業員が店長に昇進することをモチベーションにしてほしいとの想いが込められています。

 新規出店を重ねることは、必ずしも増益が保証されるわけではありません。会社が出店リスクを背負ってでも、従業員に対して働きやすい環境を整えることが、結果として顧客満足度の向上に繋がると考えているのです。

◆“かつてのスタイル”で堅調に推移

 ケーズの売上高は堅調に推移しています。2023年3月期は、家電特需が生じた2011年3月期と売上高はほぼ同じ水準でした。

 家電専門店に特化した店舗展開を行っており、新規出店によるシェア拡大を狙っている会社です。現金値引きに固執するなど、かつての家電量販店のスタイルを守っています。

◆家電部門の営業利益率が「最も低い」

 2社の違いは営業利益率の違いによく表れています。ヤマダは2019年3月期から2023年3月期まで、一度も営業利益率でケーズを上回ることができていません。

 2023年3月期はケーズが1.3ポイント上回っています。ヤマダの事業別営業利益率を見てみましょう。家電部門の利益率は2.4%で、他の部門の中で最も低くなっています。

 利益率の低さは、決して他の部門が邪魔をしているわけではないのです。

◆総合店の新規出店や業態転換を行うも…

 ヤマダは2023年3月期に家具や家電、生活雑貨などを販売する複合店「LIFE SELECT」を新規で4店舗出店し、8店舗の業態転換を行いました。それにもかかわらず、この期の家電部門の売上高は前期比2.1%減の1兆3108億円となりました。まさかの減収に見舞われたのです。

 ヤマダの家電部門の販管費率は26.6%。ケーズは24.1%でした。営業利益率に差が生じている主要因の一つが、ヤマダの家電部門の売上高が伸びきらないことによる販管費負担増。

 ヤマダはもともと、会社全体の売上高を前期比1.7%増の1兆6470億円と予想していましていましたが、計画より2.8%下振れて着地しています。「LIFE SELECT」の集客効果が、想定以上に出ていない様子が伝わってきます。

◆現段階だとケーズが有利か?

 ケーズが郊外型を貫くのに対して、ヤマダは池袋駅の目の前に大型店を出店するなど、多様な出店形態を維持しています。ヤマダの地代家賃負担は高いようにも見えますが、両社ともに売上高に対する家賃比率は4%台で大きく変わりません。違いが出ているのが人件費。ヤマダは11.1%、ケーズは9.0%でした。ヤマダは2.1ポイントも上回っています。

 コングロマリット化を進めたヤマダは、複合型の大型店を出店しています。各部門の専門人材が必要なため、配置する人員は増えるでしょう。仮に集客に苦戦しているのであれば、人件費の負担が重くなって利益を圧迫します。

 価格競争から脱するヤマダの戦略は、取りそろえる商品の幅を広げた上で顧客への提案力をつけ、付加価値の高いサービスを提供するものだったはず。それが上手く行っているようには見えません。

“がんばらない”ケーズは、淡々とヤマダの背中を追いかけています。現段階においては、専門特化したわかりやすい戦略をとるケーズに分があるように見えます。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界