とはいえ主力3行からの65億円借り入れや政府から助成金もあり、資金繰り面ではコロナ禍を乗り越えることができました。

◆なぜ「やきとり大吉」を買収したのか

値上げによる客離れにコロナ禍での業績悪化ーー従来の鳥貴族業態は限界を迎えているのでしょう。近年では新業態を模索する動きがみられます。手始めとして2021年8月に、同社初のファストフード業態として「TORIKI BURGER(トリキバーガー)」をオープンしました。焼鳥バーガーや揚げたチキンを挟んだ「トリキバーガー」など、イメージ通り鶏系のバーガーを主体とする店舗です。現在では2店舗しかありませんが、欧米でのチキンバーガー人気もあり、将来的には海外展開も見据えているようです。

そして2023年1月には、サントリーHDの傘下として「やきとり大吉」を約500店舗展開するダイキチシステム株式会社を子会社化。赤いレトロな看板が目印のやきとり大吉は駅・繁華街から離れた場所に店を構えており、「戦わずして勝つ」を出店戦略としています。20席程度の小型店を主とし、全てFCで運営されています。メニューは統一されていますが、店舗限定のオリジナルメニューもあるようです。

鳥貴族によるやきとり大吉の買収には様々な憶測が報じられていますが、鳥貴族側の規模を拡大したい狙いと、ダイキチシステム側の高齢オーナーによる事業継承問題をクリアにしたい狙いが合致したと思われます。駅前・繁華街に展開する鳥貴族と離れた場所に出店するやきとり大吉は互いに競合しません。また、安定供給先を確保したいというサントリーの思惑も少なからず存在するのではないでしょうか。現在サントリー鳥貴族とやきとり大吉の両者に酒類を提供し、鳥貴族の株を2%程度保有しています。なおこの買収により、23年3月期における鳥貴族HDの売上高は334億円、店舗数で1,134店舗の規模となりました。

◆「社名変更」は海外進出ありきだった

そして、最近は海外展開に向けた取り組みを進めています。昨年にはアメリカで現地子会社を設立しており、ロサンゼルスでの出店を目指すとしています。現地では日本食として焼鳥の認知度が高まっており、以前から出店する予定でしたが、コロナ禍で延期となりました。アジア圏への進出も狙っており、台湾では現地企業との合弁契約を、香港ではFC契約を結んでいます。今年5月1日に行ったばかりの「株式会社エターナルホスピタリティグループ」への社名変更も、海外で認識されやすい名称にする狙いがあるようです。

国内と同じ均一路線にするのか、それとも高級店路線にするのか、現段階で海外店の詳細は公表されていません。いずれにせよ外国人にとって認識されやすい名称にする必要があるでしょう。焼鳥より「Teriyaki Chicken」の方が伝わりやすいかもしれません。海外でも成功するのか、今後に注目です。

<TEXT/山口伸>

【山口伸】
化学メーカーの研究開発職/ライター。本業は理系だが趣味で経済関係の本や決算書を読み漁り、副業でお金関連のライターをしている。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー Twitter:@shin_yamaguchi_