大量発生する「マダニ」が危険すぎる…公園遊びで油断してはいけない、致死率2割の感染症

写真拡大 (全4枚)

マダニによる感染

「39℃の発熱があって、インフルエンザにかかったかなと疑いましたが、のどの痛みや咳などはありませんでした。ただ身体がだるくて、寝ていることしかできず、意識が朦朧として医療機関を受診したところ、SFTS感染の疑いがあると言われて入院したんです」

全身に倦怠感や悪寒が出た体験を明かすのは、マダニが媒介する感染症・SFTS(重症熱性血小板減少症候群)にかかった40代女性である。

数日前に接触したネコがSFTSに感染していたことを医師に伝え、年齢が比較的若かったことから重症化には至らず回復したという。

桜が散り、気温がぐんと上昇する4~5月は、マダニが休眠から目覚め大量発生する季節だ。

有効な予防薬はない

マダニが媒介する感染症で、今最も恐れられているのがSFTSである。ウイルスを持つマダニに咬まれることで感染する、エボラ出血熱と同じ「ウイルス性出血熱」だ。

SFTSは'09年に中国で報告され、'11年に新しい感染症として公表された。日本では'13年に最初に確認され、感染者は40人程度だったが、その数は近年増加し、'23年は最多の132人となった。

6~14日ほど潜伏した後、発熱や嘔吐、下痢などの症状が出て、ときにリンパ節の腫れや出血なども伴う。重症化すると多臓器不全を引き起こし、国内での致死率はなんと2割を超える。

SFTSに詳しい、宮崎大学産業動物防疫リサーチセンター教授の岡林環樹氏が語る。

「宮崎県ではこれまで100人以上の感染者が出ており、このうち29人が死亡しています。SFTSという名前が浸透することで、ときには死に至る病であることを知ってもらいたい。SFTSの正式な特効薬はまだありませんし、残念ながら、有効な抗ウイルス薬や予防薬もないんです」

SFTSは西日本に多く報告されるが、ウイルス自体は全国で見つかっているので、誰もが感染するリスクがある。

実際、どのように感染するのか。3つの感染ルートを見ていこう。

(1)マダニ→ヒト感染

「ダニ博士」との異名を持つ、国立環境研究所生物多様性領域室長の五箇公一氏が解説する。

マダニは山の中だけでなく、田畑のあぜ道や河川敷の草むらにも生息しています。羽もなく目も見えませんが、動物が最も接近したタイミングで、静電気を利用してくっつき、寄生・吸血します」

昨夏、福岡県では農作業中にマダニに足を咬まれた80代女性が、発熱や下痢の症状を訴えた後に死亡した。SFTSに感染していたという。

農作業だけでなく、庭仕事や自宅周辺を散歩していて、知らぬ間に感染した人もいる。

マダニのエサは動物の血だけですから、命がけで吸血します。口にある鋭いハサミで皮膚を切り、頭を突っ込んで血を吸うのですが、よほど綺麗に切るのか、痛みを感じないケースが多くあります」(五箇氏)

日本で感染者が増加する背景には、マダニが吸血するシカやイノシシなどの野生動物が、生活圏に侵入する頻度が高まっていることもある。

昨年6月には、「奈良公園のシカを触ることは、マダニを触ることと同義」という注意喚起が話題となった。シカには大量のマダニが寄生しており、シカを撫でるだけで身体に飛び移ってくる可能性は十分にあるのだ。

後編記事『ペットが家に持ち込む「殺人生物」が大量発生していた…専門家が警鐘を鳴らすその実態』に続く。

「週刊現代」2024年4月20日号より

ペットが家に持ち込む「殺人生物」が大量発生していた…専門家が警鐘を鳴らすその実態