しんどい花粉症シーズン。アレルギー症状の悪化には、「慢性上咽頭炎」が関わっているかもしれません。

慢性上咽頭炎治療の第一人者であり、4000人以上の患者さんを診てきた医師・堀田修先生の新刊『その不調の原因は慢性上咽頭炎にあった』(扶桑社刊)より、一部を紹介します。

「慢性上咽頭炎」ってなに?

慢性上咽頭炎とは、鼻の奥にある「上咽頭」(じょういんとう)という部位に炎症が起きた状態です。

もともと上咽頭は、細菌やウイルスが侵入して増殖することにより、炎症を引き起こしやすい場所です。上咽頭に炎症が起こると、鼻水や咳、のどの痛みといった、風邪のような症状が現れます。こうした急性の上咽頭炎であれば、抗生剤や消炎剤などで治療できますし、少し経てば自然に治ることが多いものです。

ところが、なんらかの理由によって、上咽頭の炎症が慢性化した状態になってしまうことがあります。これを「慢性上咽頭炎」と呼びます。

【日常生活クイズ】慢性上咽頭炎を予防するためにできること

慢性上咽頭炎があると、上咽頭のリンパ球が過敏になり、少しの刺激にも反応してしまいます。結果、アレルギー症状が起こりやすくなるのです。慢性上咽頭炎を予防するため、日常生活でもできることがあります。

クイズ形式で紹介するので、どちらが慢性上咽頭炎になりやすいか、考えてみてください。

Q1:好みの食事は?

A:歯ごたえのあるもの
B:やわらかいもの

<A>

答えはB「やわらかいもの」。口呼吸は慢性上咽頭炎を悪化させる要因です。口呼吸の理由の1つが「やわらか食」です。噛まずに食べられる、やわらかい食べ物ばかりを好んで口にしていると、咀嚼の回数が少なくなり、口の周りの筋肉が衰えてしまいます。

口呼吸の習慣がある人は、口輪筋(唇の周りを囲んでいる筋肉)の閉じる力が衰えているという特徴があります。そのため、舌が正常な位置よりも落ち込み、口呼吸になりやすいのです。口を閉じる力が弱ると、誤嚥(ごえん・食べ物が気管に入ってしまうこと)が起こりやすくなりますし、口元がたるんで老け顔になる、連動している顔の表情筋も衰えて表情が乏しくなるといった弊害も起こります。

まず食事の際、よく噛むことを習慣づけましょう。一口につき30回以上噛むことが推奨されています。よく噛んで食べることで口の周りの筋肉を鍛えられるのみならず、満腹中枢が刺激されて満腹感が得られ、肥満を防止する効果もあります。

また、脳の血流がアップして脳の活動が活発になるとも言われています。時間をかけてよく噛んでから飲み込む習慣をつけると、その間は口呼吸ができないため、自然と鼻呼吸を促すことにもなります。

Q2:よく飲むコーヒーは?

A:ホットコーヒー
B:アイスコーヒー

<A>

答えはB「アイスコーヒー」。温かい飲み物が好きか、冷たい飲み物が好きか? もちろん、季節によっても異なることでしょう。しかし、季節を問わず、冷たい飲み物ばかりを好んで飲んでいるという人は要注意です。というのも、「のどが渇きやすい」「冷たい飲み物が好き」「氷をガリガリ噛んで食べる」という人に、慢性上咽頭炎の人が多いからです。

これには、「口やのどが乾燥しやすい(口呼吸になっている)ので、冷たい飲み物でうるおしたい」「のどの痛みや違和感(慢性上咽頭炎の症状)を感じていてスッキリしたい」といった理由が考えられます。

そもそも、のどの周りを冷やすことは慢性上咽頭炎を引き起こす要因の一つでもあるので、冷たい飲み物の飲みすぎはよくありません。

もちろん、十分に水分を補給することは大切ですが、なるべく常温や温かい飲み物をとるようにしましょう。

Q3:気をつけるべき天気は?

A:低気圧の日
B:高気圧の日

<A>

答えはA「低気圧の日」。気象の変化、なかでも低気圧は慢性上咽頭炎の症状を悪化させる可能性があります。とくに台風の接近時などは気圧の変化が激しいため、体調の変化に注意が必要になります。

近年の研究から、耳の奥の「内耳」に気圧の変化を感じ取るセンサーの働きがあることがわかりました。内耳が感じ取った気圧変化の情報は脳に伝わり、自律神経を介して、体を適切な状態に保とうとします。

たとえば、気圧が下がると体の外からの圧力が減り、血管が拡張します。それに対応しようと自律神経の交感神経が優位になり、血管を収縮させようとします。ところが、自律神経のバランスが乱れていると、気圧の変化に対する反応が過剰になり、それが不調を引き起こすと考えられています。

対処法として、耳を指でつかんでくるくると回してほぐしたり、耳を温めたりするのがよいと言われます。また、日頃から日記などをつけて、天気と自身の体調の関係を把握し、体調が悪くなりそうな天気の日は無理をしないことも大切でしょう。

慢性上咽頭炎の治療はアレルギーにも有効

慢性上咽頭炎を治療することは、アレルギー疾患に対しても有効であることが多いです。 ただし、慢性上咽頭炎の治療がなにか特定のアレルゲン(花粉症の場合は花粉のように、アレルギーを引き起こす原因物質)に対して効果があるとは考えにくいのです。

私は、慢性上咽頭炎の治療はアレルギーそのものを起こしにくくする治療だと考えています。 アレルギー疾患の治療では、まずは検査でアレルゲンの特定、つまり、なにに対してアレルギー症状を起こすのかをつきとめて、アレルゲンを遠ざけることが大切です。

花粉症のように季節性のものであれば、原因の発生時期に合わせて、発症予防の対策や治療を行う必要もあります。あるいは、時間をかけて少しずつアレルゲンに対して体を慣れさせていく治療法(アレルゲン免疫療法)もあります。

こうした一般的なアレルギー対策や治療に加えて、慢性上咽頭炎の治療を併用すると、アレルギー反応そのものが起こりにくくなることが期待されます。

慢性上咽頭炎には現在、処方できる薬はありませんが、「EAT」(イート・上咽頭擦過療法)という有効な治療法があります。手法としては単純なもので、塩化亜鉛の溶液を浸み込ませた綿棒を鼻から、咽頭捲綿子(いんとうけんめんし・のどの奥に薬を塗るための医療器具)を口から直接入れ、上咽頭にこすりつけるという治療法です。気になる症状がある方は、EATを実施している医療機関を受診してみてください。