桜の開花宣言が各地でされ、お花見シーズンを迎えています。日本の春を象徴する「桜」ですが、海外で桜はどんな位置づけなのでしょうか。アメリカ・シアトルに住んで20年、子育てに奮闘するライターのNorikoさんに、「アメリカのお花見事情」について教えてもらいました。

アメリカ人も「日本=桜」のイメージを認知!?

ここシアトルの春は「桜」尽くし。先日、日本のカルチャーに憧れるアジア系の人たちを中心に大評判のNana's Green Tea(ナナズ・グリーン・ティー)を訪れると、桜をイメージさせる季節限定メニューが登場していました。

毎年、春にはアニメやゲームのコスプレイヤーが全米から集結する地域最大級のイベント、「サクラコン」が開催され、シアトルの街は日本のポップ・カルチャーで盛り上がります。声優、クリエイター、ファッション・デザイナー、ロック・バンドなど、日本からのゲストも多数。今年は全米のガンダム人気を受け、声優の保志総一朗さん、田中理恵さんがパネルトークショーやサイン会を行い、ファンを喜ばせました。

また、全米各地の「桜祭り」はワシントンDCが有名ですが、シアトルでも毎年実施されます。その起源は1976年にまでさかのぼり、近年は日系コミュニティーによる華道、茶道、武道、太鼓などの日本文化発信の場に。地元ではすっかり春の風物詩として定着しています。

ただ、これらのイベントは桜と名がつくものの、残念ながら本物の桜の花見とリンクしているわけではありません。しかし、シアトルには花見の名所も! もっともよく知られるのが、シアトル北部に広がるワシントン大学キャンパス内のクオード広場です。

周辺のユニバーシティー・ディストリクトと呼ばれる一帯には多くの店が軒を連ねますが、この商店街が行う「Uディストリクト桜祭り」は、まさに花見客のためのもの。

桜の開花に合わせた期間中、イベントに参加する80以上の店で「桜」をテーマにした食べ物、飲み物が目も舌も楽しませてくれます。

このワシントン大学キャンパスですが、かつて渋沢栄一率いる実業団も訪れたアラスカ・ユーコン太平洋博覧会の跡地。その直後、友好の印として日本からワシントンDCへ、1912年に約3000本の桜が寄贈された際、34本はシアトルのワシントン植物園に植樹、やがて31本をワシントン大学に移したという経緯があります。

お酒が飲めないアメリカでのお花見

コロナ禍で花見ができない年もありましたが、毎年きれいな花を咲かせ、人々の心を癒やし続けるワシントン大学の桜。現地の日本人にとっては、ホームシックを和らげてくれる存在でもあります。では、地元の人はどのように花見をしているのでしょうか?

日本でお花見と言えば、早くから場所取りをして、弁当を広げ、あるいは店で買ってきた総菜やつまみ、団子を並べ、大人はお酒、子どもはジュース、とにもかくにも大勢が集まって宴が始まるイメージがあります。青空の下の桜見物もいいですが、ライトアップされた夜桜も風情たっぷり。お酒がどんどん進みますね。

一方、ここシアトルでは、広場の芝生にピクニックシートを広げている人もいますが、必ずしも飲食するわけでもなく…。しかも、手にするのはお酒ではなくスタバのラテ?

それもそのはず、アメリカでは公道や公共の場での飲酒は原則禁止。自宅のほかは、許可を取った飲食店やイベント会場などの敷地内に限られます。貸しきりにしたキャンプ場サイトなどプライベートな空間を除き、公園やビーチといった、人が自由に出入りできる屋外でのお酒は原則ご法度なのです。

というわけで、日本のような宴の要素はなく、純粋に桜を愛でるのがアメリカでのお花見スタイル。多くの人は、桜の下を通り、静かに歩きながら観賞するのみです。ただ、年々増えているのが、若者を中心とする撮影隊。本格カメラから自撮り棒まで、桜の下はポージングを決める人たちで大にぎわいです。中には、コスプレイヤーさながらの奇抜な衣装をまとった人も見かけます。

ワシントン大学キャンパスはこの時期、激混みのうえ、ゆっくりと長時間滞在して花見をするという雰囲気は皆無。趣を味わいたい日本人としては物たりないところではありますが、桜と大学の歴史的建物の取り合わせはシアトルならではの魅力。もちろん、日本にルーツを持つ桜の美しさは格別です。

インバウンド復活の日本で、円安の今、アメリカ人観光客が多く押し寄せていますが、日本のリアルなお花見文化を体験できたら、そのギャップに驚くかもしれませんね。広く認知される桜は立派な観光資源。アメリカ人が大感激すること間違いなしです。これから桜の見頃を迎える観光地で、ぜひ集客に活用して欲しいものです。