オリックス・T−岡田インタビュー(後編)

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 試合終盤、T−岡田の名が球場内にコールされると、ノリのいいチャンステーマに合わせ、スタンドの熱が一気に上がる。ファンは手にしたタオルを激しく振り回し、盛り上がりは最高潮へ。本人の成績に反比例するように、岡田への応援は年々、熱を増している。

 低迷期からオリックスを支え続けてきた男。近年のオリックスの強さが語られるなかで、しばしば岡田にはこうした説明が入る。だからファンの思いも強い、と。オリックスに入団した2006年から3連覇が始まる前年の2020年までの15年で区切ると、その間チームは6度の最下位を含め、じつにBクラス13回。もちろん優勝はない。

 今の強さのせいで忘れてしまいそうになるが、つい最近までオリックスはそういうポジションのチームだった。それが2021年に2年連続最下位から一変、25年ぶりのリーグ優勝を果たすと、そこから3連覇。2022年には日本一にも輝いた。岡田はあまりに鮮やかなチームの変わり身を、中からどう見ていたのだろう。


リーグ4連覇に挑むオリックスのT-岡田 photo by Koike Yoshihiro

【ベテランって何ですかね(笑)】

「昔は何をやってもうまくいかなかったのに、勝つ時はことごとくうまくいくというか、それが今も続いている感じです。でもやっぱり、(監督の)中嶋(聡)さんがすごいです」

 あらためて感じる、中嶋監督のすごさとは何なのか。

「やっぱり一番は選手起用ですね。使われた選手が結果を出すということは、それだけいいモチベーション、いい状態でグラウンドに立てているから。その持って行き方がうまいんだと思います」

 ここ2年、自身は期待に応えらずにいるが、ベンチへの信頼は言葉から伝わってくる。勝負の世界では、成績の出ていないベテランとベンチとの関係は、時に危うい空気が漂い、チームを巻き込んでのトラブルに発展することもしばしばある。

 しかし岡田にその類の不安は皆無。こういうところにも岡田の得難いキャラクター性を感じるが、気がつけば36歳。球界を見渡すと、同級生もチームメイトの安達了一、炭谷銀次朗(西武)、祖父江大輔(中日)、角中勝也(ロッテ)、川端真吾(ヤクルト)、大和(DeNA)の6人を残すのみ。少しすれば、年齢的な大台も見えてくる。

「40歳って感じは、今はまだないですけど、体のほうはそれなりにきているといえばきてます(笑)」

 年齢が顔に出ないタイプと言うと、「やっと見た目に年齢が追いついてきたんじゃないですか」と笑った。履正社高で甲子園を目指し、"ナニワのゴジラ"と呼ばれていた頃から見てきただけに、チーム内で「Tさん」と呼ばれることも、ベテラン扱いされていることもまだしっくりこないが、このことについて本人はどう思っているのか。

「ベテランですか? ベテラン、ベテラン......ベテランって何ですかね(笑)」

 あらためて聞かれるとこちらも考えてしまうが、「30歳半ばを越え、みんなをまとめてチームを引っ張っていく。そんな意識が強くなったり......」と答えると、あとを岡田が引き取った。

「もともと、僕はキャプテンシーとかそういうのはないタイプなんで(笑)。だからチームに若い子が増えて、それぞれがやりやすいように。気になったことがあれば、軽く言ったりはしますけど、基本は聞いてきてくれた時に助けになればいいなくらいで......。一番はみんなノビノビやってくれたらいい。そういうスタンスです」

 なんともやさしいベテランだ。

【オリックスは一体感がある】

 若手の頃は、首脳陣や球団関係者からよく注文をつけられていた。

「もっと元気を出さんか!」
「覇気がない」

 しかし、今となっては癒しキャラとも表現したくなるキャラクターや、常に一生懸命、実直に野球に取り組み続けてきた岡田の姿勢が、今のオリックスのチームカラーの土台となっているようにも感じる。

── オリックスはいいチーム?

「一体感がありますよね。そこはすごく感じます。打線でも、つなぐ気持ちをみんなが強く持っていますし、戦ううえで一体感は大事です」

── 36歳のベテランも、若手からいじられたり?

「みんな僕のことをよく応援してくれるんで(笑)」

── 選手たちはやさしい?

「やさしいですね」

── 「Tさん」と呼ばれているし。

「野手では一番上ですから」

── そんなチームメイトと目指す4連覇。今年はどんな1年にしたいですか?

「いま一番思っているのは、シーズンを楽しみたいな、と。その気持ちがすごくあります」

── ここ2年は、チームが勝っても思うように戦いに参加できなかった。

「自分が悪いんですけど、やっぱりおもしろくなかったんで」

── 楽しむためには結果が必要になる。

「もちろんです。今年ダメならもうあとがないと思っていますし、結果を出すことがチームのためにもなる。しっかり結果を出して、シーズンを楽しんで、秋にはまたみんなと思いきり喜びたいです」

 ソフトバンクとの開幕3連戦は、スタメンで起用された初戦はノーヒット。3戦目は8回、「一発同点」の場面に代打で出場し四球。快音は聞かれなかったが、粘ってチャンスを広げた打席からは、この先を期待させる気配が伝わってきた。さあ、ここから。心の底から喜べる秋を求めて、T−岡田の19年目、勝負のシーズンが続いていく。


T−岡田(本名:岡田貴弘)/1988年2月9日、大阪府生まれ。履正社高から2005年の高校生ドラフト1巡目でオリックスから指名を受け入団。プロ5年目の10年、ノーステップ打法でブレイクし、33本塁打を放ち初のタイトルを獲得。翌年は開幕4番を任されるも16本塁打に終わる。21年は17本塁打を放つも、翌年はケガもあり1本塁打。23年はチームが3連覇を果たすなか、0本塁打に終わった。