フィットネス・大畑たまき&なのは インタビュー 前編(全2回)


乳がんと闘いながら、ボディコンテストに出場している大畑たまきさん 写真/本人提供

【残りの人生をユーモラスに生きる】

「ジムには前向きな空気しか流れてない。だから、来るだけで元気になれるんです」

 そう活き活きと話すのは大畑たまきさん、51歳。トレーニングジムへ本格的に通うようになったのは、乳がんが再発し骨盤への転移がわかった2年前からだという。

「2018年に乳がんが発覚して右胸を切除しました。その時はそれほどメンタルをやられなかったんですけど、再発した時は自分のなかでいろいろと変わりましたね。(進行度は)ステージ4でしたし、自分はもう長くないと思ったら、残りの人生で好きなことをやってみようという気持ちになりました」


「今が一番おもしろく生きている」と語るたまきさん

 人生はサプライズとユーモアが大切だーー。何かの折にそんな言葉を目にしたたまきさんは、おもしろく人生を送る方法を考えた。

 そして見つけたのが、ボディメイクコンテスト「ベストボディ・ジャパン」に出場することだった。健康的な肉体美を競うステージに、がん患者の大畑さんが立つ。たしかに、驚きである。

 また、たまきさんはインスタグラムを開設し、トレーニングの様子を発信するようになった。

「私自身、がんを患っている方からインスタを通して、たくさんの元気をもらいました。『みなさん、大変な状況なのにいろいろ楽しんでるな、頑張ってるな』って。だから自分も明るいことを発信して、がん患者のフォロワーを元気づけたいと思いました。ステージ4のがんの人間がボディコンテストに出たら、それってなんだか明るいじゃないですか」

 乳房、毛髪、リンパ節......乳がんは時として、女性からさまざまなものを奪っていく。胸を切除されて水着がもう着られないと嘆く乳がん患者だって少なくない。

「右胸を全摘した私が水着を着てみよう。私が人前であえてビキニ姿になることで、『意外といけるな』と思ってもらえるかもしれないですから」


2023年の「ベストボディ・ジャパン」沖縄大会にて 写真/本人提供

【自ら考案した低負荷メニューを発信】

 目標が決まれば、あとは努力するのみ。しかし、骨盤にがんが転移しているため、高負荷のトレーニングはできず、自体重、もしくは機材の補助による自体重以下のトレーニングメニューがメインだ。

 現在、看護師として働くたまきさんだが、かつてはトレーナーやヨガのインストラクターを務めていた経験がある。体に負担の少ないメニューを自ら考案し、実施してみて問題なさそうならインスタグラムで紹介。同じような境遇の人にも参考にしてほしいという気持ちからの試みである。


自体重を使ったトレーニングを日々続けている

 それにしても、自体重を利用したトレーニングのみとは思えない締まった体だ。たまきさんにそう伝えると、「自体重トレーニングでも十分にボディメイクできることを証明したかったので、狙いどおり」と誇らしげに笑った。自信のある部位は、上腕三頭筋だとか。

「腕は筋肉が小さくてつきやすいから、私みたいな高負荷なトレーニングができない方にも効果が実感しやすいんです。大会でわかりやすくアピールできますし。

 二の腕のタプタプした"振袖肉"が落とせるので女性にはおすすめですよ。男性も半袖が似合うようになります(笑)。鍛え方はひざをついて脇を締めて腕立て伏せをすればバッチリ!」

 家でできるようなトレーニングが中心だ。それでも「元気になれる」ジムへ週2〜3回は通い、前向きに体づくりを続けた結果、2022年8月、「ベストボディ・ジャパン」の宇都宮大会に初出場。

 その後、京都、長野、水戸、前橋......と各都市で開催された大会に出場し、コンテストライフを謳歌している。

「コンテストに出場するのもひとつの目標ですが、大会を通じていろんな場所に行って、おいしいものを食べたいというのもあります(笑)。これまで仕事と子育てしかしてこなかったから、ちょっとは楽しんでもいいかなって」

【ステージは自分が一番輝ける場所】

 2023年8月に開催された水戸大会には、長女のなのはさん(23歳)とそろって出場し、同年10月のジャンル別&職業別東日本大会のミス・看護師部門ではふたり並んでステージに立ち、ともに入賞を果たした。


長女のなのはさん(右)と親子でコンテストに出場している 写真/本人提供

 たまきさんはボディコンテストのステージを「非日常を楽しめるし、自分が一番輝ける場所じゃないかなと思っています」と胸を張る。

 今後の目標は、年齢でカテゴリが分かれる同大会において、プラチナクラス(60歳以上)の年齢になるまで出場し続けることだ。

「合間合間にやっている治療でつらいことはたくさんあります。がんは体もきついけど、一番きついのは心。今までできたことがどんどんできなくなって、心が折れる瞬間が何度もあった。

 でも、だからこそ、今できていることに感謝するようになった。今はまだここまでできるんだから大丈夫だって、切り替えが上手になったかもしれませんね」

 グランプリを獲得した昨年9月の那覇大会の2週間前、新治療として紹介されたラジオ波治療を試してみたところ、骨盤のがんがなくなり、現在は良好な状態だという。この治療と出会ってなかったら歩けなくなってもおかしくないほど、がんが進行していたなかで起きた奇跡だった。

 前向きに、ユーモラスにトレーニングを続けたたまきさんに、神様が贈ってくれたサプライズだったのかもしれない。

「今は人生を楽しむのが最優先。今までやりたかったけどできなかったことをひととおりやりたいと思ってます」

 たまきさんは介護タクシーを開業するために二種免許を取得し、ハイエースを購入して家族を驚かせた。今後は、がん専門運動指導士という資格を取得して、適切な運動方法を同じ境遇にいる人たちに提供するのが目標だという。

 たまきさんは自身の人生を、前向きにこう考える。

「再発、転移は自分の人生を振り返るすごくいいきっかけになって、がんのおかげでいろんなことに挑戦できています。私からこの病気をとったら、今の自分はいないんじゃないかな」


「また一緒にコンテストに出たい」とふたりは話す

後編<乳がんの母と娘が一緒にボディコンテストに挑戦「新しい母に出会った感じがして本当にうれしかった」>を読む

【プロフィール】
大畑たまき おおはた・たまき 
1972年、千葉県生まれ。ヨガインストラクターやトレーナーを経て、42歳の時に看護師に転職。2022年に乳がんの転移が発覚後、本格的にボディメイクを始め、がん患者でもできる自重トレーニングをインスタグラムで発信。同年夏から「ベストボディ・ジャパン」に出場し始め、2023年には長女のなのはさんと一緒にステージに立つ。2024年3月には著書『乳がんステージ4の私が伝えたいこと: がんステージ4から人生最高のステージに?! がんだからおもしろく生きてます』(Amazon Kindle)を上梓。