「地下鉄サリン事件被害者の会」代表世話人の高橋シズヱ氏。東京・霞ヶ関の記者クラブにて(2024年3月18日/筆者撮影)

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 今月20日で「地下鉄サリン事件」の発生から29年が経った。筆者は「オウム真理教」について研究をしているのだが、当時を知らない20代の筆者が、真相に迫ろうとするがその道のりは非常に困難を極める。
◆初めてオウム真理教知ったときの衝撃

 筆者が「オウム真理教」の存在を知ったのは、小学3年生の時。事件発生から15年目の2010年3月20日に放送された、フジテレビで放送された特番のドキュメンタリーを観て衝撃を受けた。まるで、ホラー映画のようだった。同時に、後継団体が存在していることなど、未だに事件が終わっていないことを知り、さらに強い関心を抱いた。

 以来、教団についてネットで検索したり、書籍を読むなどして調べるようになった。現在は、専門的に犯罪心理学や刑事裁判の手続きの観点から多角的に研究をしている。

◆刑事記録の閲覧が不許可に…

 教団が起こした数々の重大犯罪は、既知の事。しかし、その事件をさらに深掘りしようと当時のメディア報道や書籍を漁ると、強い“バイアス”のかかった、はたして「真実」なのか疑わしいものが次々と発掘される。筆者は当時の時代の空気もなにも知らない。だからこそ、情報収集には慎重になってしまう。

 そこで、筆者は研究資料として「裁判記録」に注目した。「裁判記録」には、訴訟手続きの内容だけではなく、被告人や証人が述べた言葉や調書も含まれる。

 筆者は筋金入りの“傍聴マニア”だ。だからこそ、裁判という過程の重要性は十分に身に沁みてわかっている。刑事記録を閲覧して、「オウム裁判」を追体験したいと。裁判記録には、検察庁が保管する「刑事記録」と裁判所が保管する「民事記録」の2種類がある。どちらも公開裁判の記録であれば、第三者は原則閲覧ができると定められており、民事記録は簡単に閲覧ができる。もっとも、問題は刑事記録なのだ。

 筆者は、特に精力的に研究している、とある元幹部の刑事記録を閲覧したいと考えて2022年8月付で東京地検へ閲覧請求をした。だが、原則閲覧可能とは程遠い対応をされたのだ。第一次的に検察事務官から「第三者は閲覧できません」と言われ、第二次的に「学生」には見せていないとのこと。

 筆者は閲覧請求書と一緒に、「学術研究」の内容など正当性を疎明する資料として上申書を提出した。上申書には、筆者のこれまでの行った学術研究の内容や閲覧の必要性、関係者のプライバシーを侵害しないこと、などを記載した。

 10ヶ月が経過した2023年6月、保管検察官が閲覧を不許可にしたとの連絡があった。

 交付された通知書には、この主張を全面的に退ける形のようだった。現在、筆者は東京地裁へ閲覧の不許可処分の取り消しを求めて、準抗告を申し立てており審理中だ。

◆記録廃棄されていた事実が発覚

 筆者は、裁判記録を活用して研究をする過程で“スクープ”も見つけ出した。

 昨今は、旧統一教会に対する宗教法人の解散命令請求が注目されている。そこで筆者は2022年11月、国内で初めて解散命令が決定された「オウム解散命令事件」の民事記録を閲覧しようと、当時審理を担当した部署に閲覧したいと問い合わせた。そうしたところ、数日後に回答があった。内容は、「全ての記録を廃棄した」と。

 この事実を、Twitter(現X)でツイートしたところ、瞬く間に拡散され、報道各社が後を追って報じる事態となった。

 もっとも、オウム解散命令事件の記録廃棄については、2019年に調査報道がされていたものを掘り起こした形。ただ、投稿の1か月前には、神戸新聞が「神戸連続児童殺傷事件」の少年事件記録が廃棄されていることを調査報道し、記録保存の在り方について関心事となっていた。