阪田マリンX(@marin_syowasuki)より/撮影:ウィリアム・セナ

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あらゆるメディアで昭和文化の再評価が起こる中、昭和文化・ファッションに令和のスタイルを掛け合わせた「#ネオ昭和」を発信するインフルエンサーでありアーティストの阪田マリンが注目されている。2000年生まれで、昭和を生きたことのない彼女はいかにして昭和の虜となったのか? 昭和に目覚めるに至った流れから、昭和文化の素晴らしさ、そしてなぜ昭和の魅力を発信し続けるのか、真意を聞いた。

【写真】阪田マリンの昭和感じるショット&撮りおろしカット【13点】

昭和の終焉から今年で35年の月日が流れた。すでに遠い過去となった昭和文化が、今大きな花を咲かせている。テレビを観ても、昭和時代を舞台にしたドラマ『不適切にもほどがある!』、連続テレビ小説『ブギウギ』が放映中と話題を呼んでいる。音楽市場を見てもシティポップの世界的流行、レコード文化の浸透に加えカセットテープも復活の兆しを見せている。

カルチャー面では、現代文化・風俗を昭和テイストで表現するYouTubeチャンネル「フィルムエストTV」、かねひさ和哉といったクリエイターの登場と、オールドメディア/ニューメディア双方で、昭和リバイバルの波が起こっている。2019年頃からSNS上で「#ネオ昭和」のハッシュタグを使い、令和文化を取り入れ昭和文化の魅力を発信してきた阪田は、目尻を下げながらこう語る。

「昭和生まれではない私は、何にでも便利すぎて綺麗すぎる完璧なものが溢れた時代に飽き飽きしていたんです。そうした中、昭和の荒さの中にある温かみの魅力に気づいて、『昭和の文化、なくなってほしくないな。誰か同じ昭和好きの仲間いないかな?』という想いから発信を始めたんです。

少し前にY2Kブーム、平成ギャルブームが流行りましたけれど、本当に“いいもの”は時代を巡るんだなあって、改めて思いました。だから今こうして、私が感じたあの温かみが広がっているのはすごく嬉しい。ただ、ここまでたくさんの方が昭和を求めているとは思わなかったですね」

当初は好きなことをひたすら発信することが楽しく、インフルエンサー、ましてやアーティストになろうとは一切思わなかった。それが今ではSNSを飛び出し、『船越英一郎の昭和再生ファクトリー』(BS12)のレギュラー、ネオ昭和歌謡プロジェクト「ザ・ブラックキャンディーズ」で歌手デビュー、ラジオパーソナリティ、Good Bye April『サイレンスで踊りたい』や黒子首『バタフライ』MVで演技に挑戦と、「#ネオ昭和」の看板を背負い多岐に渡る活動を展開している。

「発信を続けていたら、私のことを面白がってくれる方々がお声掛けくださって。もっと昭和の良さが広がればいいと思っていましたし、自分の好きなものを発信できるお仕事って素晴らしい!と思い、今は様々なことに挑戦中です」

昭和の魅力について問うと、阪田は「一言で言い表すのが難しいですが」と前置きし、「不完全の中の美しさ」と語った。文化とは人がより便利になるために発達していくものだが、阪田からすれば、その便利さが人の成長を止めているという。

「便利すぎると感情の上がり下がりがなくなって、平坦な人になる気がしていて。例えば部屋の掃除。自分で掃除するとなると『面倒くさいなあ』となるし、終わった後の『綺麗になってよかった!』という嬉しさで、気持ちの振れ幅が生まれますよね。それが家にルンバがあれば、ボタンを押して終了。それ以上に気持ちが沸き上がることがないんですよね。

この感情の振れ幅って人間にとってすごく大事だと思うんです。だって、感情が動かなくなるってそれは機械も同然ですよ。好きな人との連絡も、今はLINEやSNSもテレビ通話もあって相手をすぐ感じられるけれど、ドキドキ感があまりなくて。

昭和は実家の黒電話をかける以外の方法がなくて、しかも電話しても本人がでるかまずわからないし、お母さんやお父さんが取る可能性もある。だからこそ、好きな人が出たときの嬉しさって何倍にもなるんです。それに当たり前が溢れていたら人間力って育たないと思うんですよね」

物質の豊かさが精神の豊かさの成長を妨げているという。さらに阪田は現代に漂う閉塞的な空気感も、この便利さがもたらしていると語る。

「昭和には全員に“未来”があったような気がするんですよ。『この先は明るいぞ!』って、みんながみんなでこの先の人生を盛り上げていこうというイメージを持っていて。なんというか、今って『自分さえよければ』の人が多く、そもそも時代に活気がないからか目に光がない。電車に乗っていても、みんな下向いてスマホ触るだけで、周りを一切見ていない。すごく人と人との関係が寂しくなっている気がするんです。

昭和は技術が発達していないからこそ、人と顔を合わせることを大切にしていた気がしています。だって『昭和の電車の中』と調べると、みんなで楽しそうに話している姿が出てきますからね。LINEやSNSやと、相手の表情がどうなのかサッパリわからない。人との繋がりの面で、やっぱ昭和の方が豊かでいいなあと思っちゃいますね」

こうした利便性がもたらす悪影響にウンザリし、高校時代には担任に1か月以上に渡り携帯電話を預けたこともある。現代人にとって、ましてや10代の時分において、もはや体の一部と言ってもいい携帯電話を手放すことで、阪田は大きな学びを得たという。

「学校でも家にいても暇さえあれば携帯を見ちゃうんです。その瞬間は良いかもしれないけれど、結局はムダな時間になっちゃう。これは悪い影響だ、そんな生活ダメだ!と、先生に『机に入れて預かっておいてください』とお願いしたんです。友だちに不便じゃない?と聞かれたのですが、全然余裕でした。むしろ空いた時間は、『ブラックジャック』を読んだりレコードを聴いたりと、有意義かつゆったりとした時間を過ごせたんです。

このときに、この時代が目まぐるしくて息苦しく感じるのは、全部スマホのせいなんだなと実感しました。あまりにも何でもできてしまうからこそ、色々なものを奪っていくなあって。正直な話、仕事上必須の今でも時折投げ捨てたくなる瞬間があります。なので、すでに老後は携帯を捨てる人生にしようと決めているんですよ(笑)」

(取材・文/田口俊輔)