地震にどう備え、どう支えるか(2024年1月3日、石川県穴水町 写真:Tomohiro Ohsumi/Getty Images)

【2024年3月18日17時15分追記】記事配信当初、南海トラフ地震の発生確率に関する記述がありましたが、地震保険料は、損害保険料率算出機構が地震調査研究推進本部のデータをもとに算出しているものの、データに発生確率は含まれないため、該当箇所を削除し、タイトルを変更しました。

2024年1月1日に発災した能登半島地震では、被災地で地震保険の世帯加入率が全国平均よりも低いことが取り沙汰された。

地震保険は、民間保険会社が供給する火災保険に任意で付帯する形で、加入するものである。地震保険の加入は任意だから、入るか入らないかは火災保険を契約する本人が決めることになる。

地震保険の世帯加入率が低いことによって、次のようなことが起きると見込まれている。

保険金がなく自力で建て直せなければ仮設住宅に

地震保険に加入していた人は、自宅が全半壊しても補償で保険金がもらえるから、自力で自宅を建て直すことができる。ただし、地震保険が補償してくれるのは、火災保険の保険金額の30〜50%の範囲内で、建物は5000万円、家財は1000万円が上限となっている。

だから、受け取った保険金だけで自宅を建て直せるわけではなく、自己資金も出さなければ建て直せない。

他方、地震保険に加入していなかった人は、全半壊した自宅を建て直したくても、補償してもらえず保険金がもらえないから自力では建て直すのは容易ではない。かといって、住む家を失っているため、応急仮設住宅に入ることができる。

応急仮設住宅(建設型)は、近年の資材価格高騰のあおりを受け、2011年の東日本大震災や2016年の熊本地震のときよりも高くなって、1戸当たりの建設費が1000万円で収まらないともいわれている。

しかも、新築した応急仮設住宅は、原則として供与期間は2年間とされている。2年経ったら、応急仮設住宅に住む人は出なければならないうえに、その建物は取り壊される。

税金で建てた仮設住宅を安価で払い下げ

そのような「無駄」をなくすために、最近では、応急仮設住宅を耐震性を高めて建て、取り壊さず半永久的に居住できるようにするという取り組みもある。

ただ、国が税金を注ぎ込んで建てた応急仮設住宅を、直々に居住者に無償で譲り渡すのは、あまりに露骨な利益供与である。そこで、応急仮設住宅をいったん国から当該自治体に譲り渡したうえで、その自治体が居住者と協議等をして支払える価格で払い下げるという方式がある。

地震保険に入っていれば、保険金はもらえるが、それだけでは自宅の建て直しができず、自己資金も多く出してはじめて自宅を建て直せる一方で、地震保険に入っていなければ、場合によっては、応急仮設住宅を極めて安価に取得できる。それとともに、応急仮設住宅の建設には多額の税金が投じられている。

それならば、地震保険など入らないほうがよい、と思う人もいるかもしれない。それでは、応急仮設住宅の建設費がかさみ、税負担が重くなって社会全体として望ましくない。備えがなかった人を事後的に救済するという現象を、経済学では「予算制約のソフト化」と呼ぶ。

能登半島地震の被災地では、確かに地震保険の世帯加入率が低い。しかし、地震に対する保険は、地震保険だけではなく、全国共済農業協同組合連合会(JA共済連)の建物更生共済や、全国労働者共済生活協同組合連合会(こくみん共済coop)の自然災害共済などがある。

これらを合わせた世帯加入率をみると、2020年度末時点での筆者の推計では、石川県は61.5%と、隣県の富山県の63.2%や福井県の79.6%と比べて低いものの全国平均の54.1%を上回っている。地震保険だけだと石川県は28.4%であり、JA共済連の建物更生共済の件数が多いことによるものである。

ちなみに、地震保険だけでなく共済等も含めた地域別世帯加入率は、政府から公式に発表されていない。統計の整備が急がれる。

どこまで保険や共済で備え、どこから税金で支えるのか

地震は起きてほしくはないが、地震保険に入らず、自宅が全半壊しても、応急仮設住宅が割安に払い下げられて半永久的に使えるということになると、その建設費用は、税金で賄われることになる。被災者が少なければ、まだ多くの国民が払う税金によって支えられるかもしれないが、被災者が多くなれば、税金では支えきれないことにもなりかねない。

地震については、正しく恐れることが大事である。地震への備えとして、保険や共済は欠かせない。もちろん、税金を投じて財政支援すべきものは躊躇すべきではないが、それも支えられるだけの財政基盤があればこそのことである。

地震に対して、どこまでを自助・共助(保険や共済)で備え、どこからを公助(税金)で支えるのか、国民的な議論が求められている。

(土居 丈朗 : 慶應義塾大学 経済学部教授)