個人資産800億円超の伝説の投資家・清原達郎氏が『会社四季報』の活用術を披露する(c)野口 博

2005年にタワー投資顧問の運用部長として長者番付1位となった伝説のファンドマネジャー清原達郎氏。2023年には「タワーK1ファンド」の運用を終了・退社後に自身初となる著書『わが投資術 市場は誰に微笑むのか』を上梓しました。そこには、これまでの投資経験や、個人投資家が今の相場で勝つためのノウハウを余すところなく記されています。

その中で「若い頃は会社四季報が出ると3日間で全部読んでいました。」と書かれています。どのように『会社四季報』を活用していたのか、清原氏に聞きました(※)。

(※清原氏の過去の咽頭がん手術の影響により、文面のやりとりによる取材を行いました)

『会社四季報』は人生の伴侶

私が野村證券に入社したのは1981年のことで、今から43年前です。『会社四季報』はその当時からずっと使い続けています。まさに私にとっては「人生の伴侶」ですよ。

妻には怒られてしまうかもしれませんが、実際、妻と過ごした年月よりも長いのですから。もし私が捕まって牢屋に入れられたとして、「何か本を1冊持っていっていい」と言われれば、間違いなく『会社四季報』を選ぶでしょうね。

現在は紙版の『会社四季報』に加えて、オンライン版の「会社四季報オンライン」もありますね。私はいずれも使っています。目が悪く、小さい字がなかなか読めないため、紙版はワイド版ですが。紙とオンラインの使い分けとしては、個別銘柄をピンポイントに1社1社調べるのであれば、オンライン版を使っています。

書籍で詳しく説明していますが、流動資産や投資有価証券から負債を引いたネットキャッシュは、『会社四季報』などではわかりません。そのため、会社ホームページから決算短信で調べるほかないのです。その点、オンライン版は各銘柄のホームページにすぐに飛べるようになっているので便利ですね。

ただ、やはり紙版のほうがいいこともたくさんあります。私が昭和世代なこともあるかもしれませんが、『会社四季報』をすべて、あるいは特定のセクターすべての銘柄を読み込もうとすると、やはり紙のほうが使いやすいのです。

今まで購入した銘柄、売却した銘柄の『会社四季報』はすべて読んでいます。『会社四季報』をチェックせずに、株の売買をすることなどありません。

ただ、「『会社四季報』の情報だけで」株の売買をすることもありません。具体的に私の小型株への投資プロセスをご紹介すると、まず私が独自に計算式を作った「ネットキャッシュ比率の高い順」「PERの低い順」でスクリーニングを行います。

清原流ネットキャッシュ計算


その割安順に『会社四季報』を見ていくのです。その中で「この銘柄は人気がなく割安だけれども、意外と面白いかも」と思った銘柄をホームページなどを見て調べ、さらに会社訪問するのです。


会社四季報オンラインのスクリーニングで上掲のスクリーニングをできます(ベーシック会員以上で利用可能)。「My項目の条件設定」に次の条件式を貼り付けるだけです。([流動資産前期(億円)]+[投資有価証券前期(億円)]*0.7-[流動負債前期(億円)]-[固定負債前期(億円)])/[時価総額(億円)]

現在は咽頭がんの手術を受け、会社訪問をすることはなくなりましたが、どの企業に訪問するのか、という部分で『会社四季報』が私にとって必要不可欠だったのです。

四季報を読めば「マクロ経済」がわかる

『会社四季報』の使い方として多分皆さんがあまり意識されてないであろうことをご紹介させてください。それは『会社四季報』を読めば、「マクロ経済がどのように動いているのかわかる」ということです。


私は書籍の中で「マクロ経済学がいかにくだらないか」について述べてあります。私は「エコノミスト」の話にはまったく耳を傾けません。GDPがどうだの、金利がどうだの、わざわざアナリストに聞くまでもないことなのです。

しかし、考えてみてください。マクロというのは、ミクロをすべて足したものです。歳をとったため今はやりませんが、50歳になるまでは新しい『会社四季報』が出ると3日ですべて読んでいました。すると、今マクロで経済がどういうふうに動いているかとてもよくわかるのですよ。

私はミクロがわかったうえでマクロがわかるのが本当のマクロの理解だと思うのです。個人投資家にはちょっとハードルは高いですが、『会社四季報』を読むのは有益ですよ。

(構成:井上昌也)

(清原 達郎 : 投資家)