目まぐるしく変わる中学受験事情。保護者が、過去の成功体験を子どもの受験に当てはめようとして、うまくいかなかったというケースもあるようです(写真:koumaru/PIXTA)

YouTubeチャンネル登録者数約10万人の受験指導専門家である西村創(はじめ)さん。「中学受験を考えたら、まずやっておきたいこと、知っておきたいことがあります」と語ります。

第1回は「親がしがちな誤解」についてお伝えします。(※本稿は『中学受験のはじめ方』を抜粋、再構成したものです)

中学受験についての誤解

中学受験については、ウワサ話やSNSなどの情報があふれているため、思い込みや誤解が多いと感じています。「当然」だと思っていることも、もしかしたら違う見方があるかもしれません。

誤解1 塾は低学年からでないと入塾できない

1つめの誤解は、中学受験塾は低学年から入らないと満席で入塾できないというものです。近年は「満席で入塾できなくなってしまうから……」と、年長のうちから入塾テストを受けて、1年生から入塾する動きが盛んになっています。

実際、首都圏トップの合格実績を出している塾、SAPIXのWebサイトで「募集停止の校舎一覧」というページを見ると、小1から募集停止になっている校舎もあります。

でも、年度の途中で募集停止になっても、年度が変わるタイミングで入塾できますから、焦る必要はありません。

エルカミノなどごく一部の塾を除いて、塾は一度入塾した生徒をふるいにかけて進級させないということはありません。そこで、低学年ほど募集人数を絞って、年度が変わるタイミングで新たに募集をかけるというわけです。

もちろん学年が上がるほど入塾テストのハードルは上がるものの、そのテストに合格できないようでは、入塾してから授業についていくのがそもそも困難です。

入塾するのが目的ではなく、成績を上げて志望校に合格することが目的なのですから、お子さんの学力と受験したい気持ちが入塾に見合うと判断できたタイミングで、入塾テストを受けるのがいいでしょう。

通塾で陥りがちな「お客さん」状態に要注意

最難関校の合格実績を売りにしている塾では、カリキュラムやテキストも最難関校に受かるためにつくられています。

そうした塾に、入塾ハードルの低い低学年から入り、小4、小5と進級していくと、「今、入塾テストを受けたら落ちるだろう」というような成績で通い続ける子も出てきます。授業内容を理解しきれずにただ塾に通うだけの、いわゆる「お客さん」状態です。

じつは、小中学校時代の私がそうでした。塾の授業をちっとも理解していないのに、それを親に言い出すことができず、授業中、ずっとノートにマンガを描いたり、机の下に隠しながら携帯ゲーム機で遊んだりして、授業が終わるのを待っていました。

塾にとっては、大勢の塾生のひとりとして席に座らせておくだけで、毎月数万円を納めてくれるいい資金源です。ある大手塾では、そんな生徒のことを「お客さん」とか「電気代」と呼ぶことがあるようです。

塾は「早く通い始めた者勝ち」ではない

塾は早くから通わせれば、そのぶん成績が上がるとは限りません。もちろん、早くから入塾した子が、学ぶ楽しさを味わい、学習習慣と基礎学力を身につけて、希望の学校へ入学できることはあります。

でも、その子が小1ではなく小3の2月から入塾したらそこまでの学力がつかなかったのかというと、それは検証できないわけです。

低学年のうちに成績上位だった子の多くは、ハードルの上がった入塾テストを突破して小4以降に入塾してきた子に成績を抜かれます。後から入塾してきた子に抜かれていくのは、精神的なタフさがあるか、「人は人、自分は自分」という線引きができる子でないと、親子とも、キツいものがあります。

私は小学校低学年のうちは、そのときしかできないさまざまな体験をして、広い意味での「勉強」をすることをおすすめします。そういう子が後で伸びていきます。「急がば回れ」です。

誤解2 両親ともに公立高校出身だから不利

2つめの誤解は、両親ともに公立高校出身だから不利だというものです。両親とも公立高校出身で中学受験経験がない親御さんの場合、「子どもが中学受験したいと言い出したけれど、何がどう大変かわからないし、アドバイスもできない」と不安に思われることが多いようです。

でも、中学受験を経験していない保護者は、むしろわが子をうまくサポートできている印象があります。「経験がない」「知らない」というのは、ある意味最強です。先入観がないと、新しい情報がそのまま頭に入るからです。中学受験経験がない。地方から引っ越してきたので近隣のエリアのイメージがない。学校のイメージがない。それで不利になるわけではありません。

逆に、うまくいかない傾向があるのが、自分自身が中学受験を経験していて、その成功体験を子どもの受験に当てはめようとする保護者です。そうした親御さんは、塾の面談で、「この学校って今こんな偏差値なの?」と、自分の受験した時代と比べて驚いたり、「受験は暗記勝負なんだから、つべこべ言わずに覚えるの!」と、隣に座るわが子に発破をかけたりします。

学校の偏差値は株価と同じでどんどん変動する

学校の偏差値は、株価と同じように変動します。10年前とは別の学校のように変貌を遂げている学校が、いくらでもあるのです。私たちが子どもの頃には人気のなかった学校が、今や超人気校になっているというケースは珍しくありません。

受験のシステムや試験内容も変わっています。30年前のように知識を問う問題の比率は減って、思考力重視の問題が増えています。塾業界も、かつては存在しなかったSAPIXが絶対的なトップに君臨していますし、オンラインの塾はこの3年で急拡大して、対面授業専門の塾も映像授業配信を導入するようになりました。

中学受験をめぐる状況は目まぐるしく変わっていますから、「知っているつもり」が一番怖いのです。

誤解3 中堅校なら入れそうという見通し

3つめの誤解は、中堅校なら入れそうだと考えることです。「うちは、よそと違って、偏差値の高い学校じゃなくて中堅校に入れれば十分だから」と思ってはいないでしょうか? 

中学受験塾の偏差値50は、高校受験の偏差値50とは意味が違います。中学受験は母集団の学力が高いので、偏差値50を取るのは容易なことではありません。

中堅校に合格するにも、小3の2月から中学受験専門塾に通って本気で勉強する必要があります。中には小5の冬期講習くらいから入塾して受験勉強を始めて、難関校に合格するような子もいますが、稀なケースです。

また、中学受験の内容は、大学を出ている大人でも、中学受験の内容に日々触れていない素人にはそう簡単に解けるものではありません。四谷大塚のWebサイトで『予習シリーズ』というテキストのサンプルを見てみてください。「これを小学生が解くの?」と衝撃を受けるはずです。

誤解4 有名大手塾に入塾させれば安心

4つめの誤解は、大手塾に入塾させれば安心だというものです。塾は、お金さえ払えば後は子どもの成績が勝手に伸びていくというような、夢と魔法の場所ではありません。

大手だから、有名だから、ブランドがあるから、人気があるから、合格実績がすごいから……といって決めると、失敗します。

塾は名前で選ばず、子ども本人に合いそうかを最優先

トップ塾の成績上位クラスに入れるのは限られた生徒だけですし、入れたとしても、そのクラスに居続けるのは大変なことです。有名大手塾に入塾すれば、みんな成績が上がるわけではありません。大事なのは、入塾してから、そこで習ったことをどれだけ吸収できるか、身につけられるかということです。

だから、塾は、お子さんに合った塾を選ぶことが大切です。近所への買い物や家族の送迎くらいしかしないのにスポーツカーを購入したら、扱いづらいですよね。でも、トップ校をめざすつもりがないのにトップ校をめざすための塾にわが子を入塾させるご家庭が、少なくありません。勉強する本人であるお子さんにとって合いそうな塾かという視点で選ぶことをおすすめします。

誤解5 第一志望に合格できるのは3人に1人

5つめは、第一志望に合格できるのは3人に1人という割合についての誤解です。

「第一志望に合格できるのは3人に1人」というのが定説です。多くの子が第一志望にするような学校の倍率が、だいたい2〜4倍なので、そこから割り出された数字です。

でも第一志望に合格できる確率は、じつはもっと少ないのです。最終的に組んだ受験プランで、実際に受験する複数の学校の中の第一志望に合格するのは3人に1人くらいでしょう。でも、それはあくまで「最終的に」という話です。

中学受験勉強を始める前は、有名な学校にあこがれますよね?「有名大学の付属中に入れたらいいな」などと理想を思い描いて、中学受験塾に入塾するわけです。その理想の学校が本来の「第一志望」といえます。

でも、小5、小6と進級し、何回も模試を受けるにつれて、現実がわかってきます。そして小6の11月頃、どの学校をどんな順番で受けるかという受験プランを組むことになったときに、直近の模試の偏差値より10も20も上の学校や、過去問を解いても合格最低点に数十点も差がある学校は、受かるのは厳しいだろうと悟り、合格する可能性がある「現実的な」第一志望校を定めることになります。

その「現実的な」第一志望校に合格できるのが、3人に1人というわけです。入塾前に思い描いていた当初の第一志望には、3人に1人どころか、5人に1人、いや10人に1人くらいしか合格できていないはずです。

第一志望に合格することだけがすべてではない

大手塾のマーケティング戦略は「うちの塾に入って、指導力のある講師の指導を受けて、塾生たちと切磋琢磨すれば、子どもは成長を遂げて、夢に見た学校にも手が届く」という希望を与えるものです。それは、あながちウソではありません。

小4で入塾してきたときは、消極的でいつも小さな声で話していたのに、小5、小6と成長していくに従って、自信がついて堂々とした態度になり、別人のような頼もしさを見せるようになって、誰もが羨む学校に合格して進学する……というような子も、何人も見てきました。

第一志望校に3人に1人の合格。10人に1人の合格。見方を変えれば、3人に1人でも10人に1人でも、合格している人がいるということです。

合格している人がいる以上、わが子も合格する側に入れるともいえます。


ただし私は、第一志望の学校に進学することよりも、第二志望や第三志望に進学することで、人生が不利になるとは思いません。どんな進路に進んでも、その環境でしか得られないことが必ずあります。長い人生を歩む中で、あのときにこの道を進んだからこそ、本当にやりたかったことができたと振り返ることが、あるはずです。

向上心を持って第一志望をめざすことはお子さんの成長につながりますが、その結果、第一志望に進めなくても、「残念でした」ということはないはずです。どんな結果も、それをどう今後に生かすかで、その進路の価値が決まります。

受験勉強を通じて、そんなしなやかさも学んでいくことができたら、人生を豊かに歩めるのではないでしょうか。

■ 早くから入塾しても、そのぶん成績が上がるとは限らない。
■ 両親ともに中学受験経験がなくても大丈夫。
■ 経験者こそ、時代が変わっていることに要注意。
■ 塾は名前で選ばず、子ども本人に合いそうかを最優先にする。
■ 本来の「第一志望」に合格できるのは3人に1人より少ない。

(西村 創 : 教育・受験指導専門家)