「辞められても困らない部下」が抱える重大な問題
上司にとって「育てたいと思う部下」「そうでない部下」の違いとは(写真:Jake Images/PIXTA)
「優しく接していたら、成長できないと不安を持たれる」
「成長を願って厳しくしたら、パワハラと言われる」
ゆるくてもダメ、ブラックはもちろんダメな時代には、どのようなマネジメントが必要なのか。このたび、経営コンサルタントとして200社以上の経営者・マネジャーを支援した実績を持つ横山信弘氏が、部下を成長させつつ、良好な関係を保つ「ちょうどよいマネジメント」を解説した『若者に辞められると困るので、強く言えません:マネジャーの心の負担を減らす11のルール』を出版した。
本記事では、上司にとって育てたいと思う部下、そうでない部下の違いを書籍の内容に沿って解説する。
仕事ができない若者に辞められても困らない
新刊『若者に辞められると困るので、強く言えません』の反響が大きい。若い部下に厳しいことを言えないと悩んでいる上司に対して、「ちょうどいいマネジメントルール」が11のテーマに沿って紹介されているのが好評を得ている要因のようだ。また、子育てで悩んでいる主婦の方から「とても参考になる」と言われたのは、大変嬉しい出来事であった。
しかし、よい評価ばかりではない。問題提起されることもあった。ある営業部長から、こんなことを言われたのだ。
「私は若者に辞められても困りませんけどね」
私が驚いていると、その部長はこう付け足した。
「なぜ困るんですか? 残念ですが、困りませんよ」
話をうかがってみると、その部長の言い分は理解できた。この会社は、3年ほど前からDXを進めて業務の生産性を上げている。とりわけ事務作業の自動化(RPA)は効果的だったようで、デスクワーカーの単純作業は大幅に減った。
顧客データベースをもとに、お客様の属性を自動的に入手できるシステム、お客様のリアクションに応じて適切な応答ができるマーケティングオートメーションが稼働している。人間がやらなくてもいいことはコンピュータやロボットに任せ、「人間にしかできないこと」に注力できるよう環境整備されているのだ。だから、
「当社において人がやるべき仕事ができるようになるには、3年はかかります。逆に、数カ月でできてしまう仕事は、人がやる必要はありません」
と部長は言い切る。
「仕事ができるベテランこそ、辞められると困るわけですか?」
私が聞くと、「そうです」と部長は即答した。つまり、この会社においては、『ベテランに辞められると困るので、強く言えません』なのである。
キチンと育ててほしいなら、部下側も覚悟が必要
ブラックな職場だと、当然敬遠される。しかしホワイトすぎる職場だと、成長できないからといって優秀な若者は定着しない。
若者の言い分は「キチンと育ててほしい」だろう。一方、上司の言い分もある。それは、
「キチンと育ててほしいなら、育てたいと思われるようにしろ」
「育ててもらうのが、当たり前と思うなよ」
である。
昭和世代の経営者や上司だけではない。若い経営者が集まる会でも、そのような話題が出た。32歳のスタートアップ企業の社長からは、こんな発言も飛び出した。
「タイパを大事にしているので、成長が遅い若者にかまっていられません」
しのぎを削るスタートアップの業界では、このような発言も過激ではないようで、他の参加者からも賛同の声が上がっていた。当然かもしれない。
彼ら彼女らは、
「本気で成長したいなら、自ら起業しろと言いたい。それが一番早いんだから」
と思っているからだ。
いずれにしても、ブラックでもなく、ホワイトすぎるわけでもない、ちょうどいいぐらいに引き締まった職場は厳しい。ブラックと違うのは、理不尽な厳しさか少ないというだけだ。
上司にだって部下を選ぶ権利がある?
部下は上司を選びたいだろう。誰だって若いときに、いい上司の下で働きたいはずだ。しかしその反対も然り。上司も部下を選びたいのだ。
以前ある有名な経営者が言っていたことが思い出される。
「いちばん仕事ができるベテランに、主体性のない部下の面倒を見させるのは会社の損失です」
そうなのだ。やはり、わかりやすい目安は主体性だ。主体性が低い部下に辞められても困らない。それが多くの上司の本音だろう。
新刊でも記した。私は、主体性に欠けている人は「病気」だとさえ考えている。もちろん特殊な事情があるなら話は別だが、そうでなければ主体的でないことが、どれほど重大な問題を抱えるかということを正しく知っておくべきだ。
なぜか?
主体的に仕事をするのは、ビジネスパーソンとして当たり前のことだからだ。これだけAIやロボットが単純業務を自動化する時代に、「指示待ち」の姿勢を貫こうとするのはムリがありすぎる。
また、指示や具体的な方針が出るまで働かない受け身の姿勢が、どれほど周りの人たちに負担をかけることになるのか、少し考えればわかるはずだ。
主体性に欠ける、というだけで組織にはマイナスである。そのことは必ず胸に刻んでほしい。指導する立場のマネジャーも自覚すべきだ。
「なかなか主体的に動けないようで」
と呆れている場合ではない。上司は部下に「深刻な病気だ」と伝える義務がある。
自分自身の「モノサシ」があるかないか
では、主体的になるにはどうしたらいいのか?
まずは「インサイドアウト」「アウトサイドイン」の発想をしっかりと覚えよう。「インサイドアウト」は、問題が自分の中にあると考えることを指す。逆に、「アウトサイドイン」は、問題が自分の外にあると考えることを指す。
この違いは、自分の中に「モノサシ」があるかないかによって生まれる。
「モノサシ」がない「アウトサイドイン」の人は、目標ではなく身近な人の思考や行動に反応する。自分の現状を正しく認識せず、他の人が勉強していたら自分も頑張る。そうでなければ「まだいいか」と思って誘惑に負ける。衝動やストレスをコントロールできない他責寄りの思考だ。
反対に「インサイドアウト」の人は、自分の中にある「モノサシ」で自ら行動を選択する。当然「インサイドアウト」の人は、成果が出なければ自分の責任だと捉えやすい。自分がコントロールできることは何か、コントロールできないことは何かを見極め、コントロールできることに力を尽くす。
新刊『若者に辞められると困るので、強く言えません:マネジャーの心の負担を減らす11のルール』では、現代の若者にどのように接したらいいのか? 悩む上司に向けて書いた。しかし、若者自身にも読んでもらいたい。そうすることで、部下としての「あるべき姿」を見つけ直すきっかけにもなるだろうから。
(横山 信弘 : 経営コラムニスト)