子どもが「自分で決められる子」になるために必要なこととは(写真:kou/PIXTA)

今日着る服、何をして遊ぶか、遠足のおやつに何を持っていくか、宿題をいつやるか……。

日常の中の小さなことから、どんな学校に進学するか、どんな部活に入るか、将来目指す職業など、人生を左右する大きな決断まで、子どもが大人になる過程では「自分で決めること」が数えきれないほどあります。

残念ながら、そのすべてに親が手助けしてあげることはできません。「自分で決められる子」になるために親はどんなことを心がければいいでしょうか。年間500本以上の論文を読む著者が厳選した世界の研究を根拠としてまとめた『自分で決められる子になる育て方ベスト』より一部抜粋、再構成してお届けします。

脳科学的には子どものうちが伸ばしどき

「自分で決められる子」になるために必要な力の一つが、「コミュニケーション力」です。

2017年にハーバード大学脳科学研究センターのサミュエル・ガーシュマン博士らのチームが発表した研究により、AIが苦手とし人間が得意とする能力が明らかになっています。それは、他人から得た情報と自分の経験を掛け算してシミュレーションする力です。

人間は自分の経験だけでなく、他人から得た情報からも物事の傾向や対策を考えられます。自分一人で経験できることは少ないですが、その能力により多くのことを体験し、学べるのです。

他人から得た情報と自分の経験を掛け算するために欠かせないのが、コミュニケーションです。確かなコミュニケーション力が身についていないと、人間ならではの能力を活かしきれないのです。

それでは、コミュニケーション力は生まれ持ったものなのでしょうか? それとも後天的に訓練で身につくものなのでしょうか? この疑問の答えは、「脳の構造」に隠されています。

脳は内側と外側で機能が異なります。脳の内側には、生命活動を円滑に行うために必要な機能が詰まっています。

反対に、脳の外側には人間が人間であるために必要な高度な機能があります。

コミュニケーション力を担っているのは、「前頭前野」と呼ばれる脳の外側の部位です。この前頭前野はゆっくりと成長し、思春期頃にピークを迎えるといわれています。

つまり、子どもの頃にどれだけ前頭前野の機能を成長させ、コミュニケーション力を伸ばせるかが鍵なのです。

子どものコミュニケーション力を伸ばすために、親ができることは何か。1992年にシカゴ大学の心理学者だったベッティ・ハート博士とトッド・リズリー博士が発表した研究がそのヒントを与えてくれます。

この研究によると、1〜2歳の間に親から肯定的な言葉でたくさん話しかけられた子どもは、そうでない子よりも3歳になったときに覚えている語彙の数がおよそ2倍あるそうです(現在も研究は継続中)。

また、子どもに肯定的な言葉かけをしながら育児を行っていた場合、そうでなかった場合と比較して、学童期(6〜12歳)以降の子どもの学力がアップしているという研究もあり、同様の結果が日本国内でも確認されています。

「汚いから触っちゃダメ」「危ないから登らないで」「時間がないからそんなこと言わないで」など、子どもと過ごしていると「子どもの行動を制限する言葉」を口にせざるを得ない場面もありますよね(私もよくあります涙)。

本当に危険な場合は止める必要がありますが、こうした言葉をかけられ続けると、子どもはコミュニケーション力を伸ばす機会を失い、やがて自分で感じたり、考えたりすることをしなくなってしまうのです。これでは「自分で決められる子」にはなれません。

それでは、どのような親子のコミュニケーションを使って子どものコミュニケーション力を伸ばしていけばいいのか。そのポイントを見ていきましょう。

命運は「親の聞き方」にかかっていた

「今日ね、お砂場でこうすけ君がね、みんなで作ったお城をね、壊しちゃってね、ゆりこちゃんがね、『えーんえーん』ってなっちゃったんだ。でね、みんなも一緒にね、『えーんえーん』ってしちゃったんだよ」

幼稚園から帰ってきた子どもが、今日の出来事を話してくれました。こういうとき、あなたはどうやって子どもの話を聞きますか?

「それはこうすけ君が良くないよ!」「砂のお城はどうなったの?」「先生はなんて言っていたの?」など、こんなふうにいろいろと聞きたくなってしまいませんか?

人の話をしっかり聞くのは大変ですよね。特に子どもは要点を整理して筋道を立てて話す能力が未発達ですから、仕事や家事に忙しい私たち親にとっては、途方もなく長い時間に感じられてしまいます。

でも、「親が話をしっかり聞くこと」が、子どものコミュニケーション力を伸ばすために一番必要な方法だと知ったらどうでしょうか?

親がたった数分手を止めて、子どもの話を聞くことに徹する。この時間が子どもにとっては、「自分の話をしっかり受け止めてくれている」と感じられるとても大切な時間になります。

子どもは受け止めてもらえることの安心感と信頼感から、他者を受け入れる姿勢を自然と手に入れます。これによって、将来のコミュニケーション力の土台が形成されるのです。

親子の会話原則は「子ども9:親1」

毎日忙しくて、なかなか子どもの話を聞く時間が取れないという方は、周囲にいる「聞き上手な人」を思い浮かべてみてください。彼らは何ができているのでしょうか?

話の聞き方には、パッシブリスニング(受け身の聞き方)と、アクティブリスニング(双方向の聞き方)の2種類があります。

パッシブリスニングとは、相手の話を聞く側に徹し、こちらから発言をしないタイプの聞き方です。適度な相槌やうなずきなどはあるかもしれませんが、基本的には黙って話を聞きます。

アクティブリスニングとは、1957年にアメリカの臨床心理学者カール・ロジャース博士が提唱した相手の話を聞くときの姿勢や態度、聞き方の技術です。相手が発する言葉だけでなく、その奥にある感情や気持ちの変化まで、会話から読み取ろうとする聞き方だといわれています。これこそが、「聞き上手な人」の話の聞き方です。

最近の研究では、アクティブリスニングで話を聞けるようになると、理解力がアップし、自分に自信が持てたり、友人関係が良好になったり、メンタルが安定したりするといわれています。コミュニケーションが円滑に進むだけでなく、成績や自己肯定感アップにまでつながる聞き方です。

つまり、相手の話を聞く際にはただ聞くだけではなく、「積極的に話を理解しにいく姿勢や返答」が必要なのです。

ここから導かれる子どもとの会話の原則が、「子ども9:親1」です。


(画像:『自分で決められる子になる育て方ベスト』より)

これは、子どもと親の話す割合を示しています。会話の9割は子どもに話させてあげてください。親はその話を聞くことに徹し、残りの1割で返答をしてあげるのです。

子どもが話したいことを親が潰してはいけない

ところがこの原則、実際にやってみると難しいのです!

子どもの話は要領を得ない、あちこちに話題が飛ぶ、単語が出てこないなど、さまざまな理由で、忙しい大人には実際よりも何十倍もの体感時間を要するでしょう。

また、親は自分の子どものこととなると、「うちの子はこういう子だ」という先入観を抱いてしまいがちです。そのため、子どもが話し始めた段階で親の持つイメージをもとに、勝手に話の行き着く先を予想して聞いてしまう傾向もあるのです。

今回のケースでも、無意識のうちに「うちの子はきっとお城を壊されて泣いたんだろうな」「先生に言いつけに行ったんだろうな」などと、子どもが話す出来事を予想して、先回りしてしまう傾向があるのです。


ですから、砂場での体験を話すわが子の話の途中で、「悲しかったね」「悔しかったね」「また作ろうね」といった返答をして、子どもの話を遮ってしまいがちなのです。

実は、ここがなかなか気づけない大きな落とし穴。

専門的な言葉を使うと、「認知バイアスによって、親が子どもの話をきちんと聞いていない」という例なのです。「認知バイアス」とは物事を判断する場面で、直感や以前までの経験に基づく先入観、他人からの影響などといった直接関係のない理由によって、論理的な考え方が妨げられてしまうという脳のクセのこと。

実は、よく話を聞いてみると、「壊れた砂のお城から探していた犬のおもちゃが出てきて嬉しかった」という結論となるかもしれません。

最後まで話を聞いてもらえなかった子どもからすると、「話を聞いてもらえなかった上に、悲しかったわけじゃないのに決めつけられた」「どうせまた言っても聞いてくれないし、わかってくれない」という思考回路に陥ってしまいます。こう考えると「バイアス」による決めつけ、意外と怖いですよね。

(柳澤 綾子 : 医師、医学博士)