相続争いは自分には関係ない、と思っている人は多いかもしれませんが……(写真:viola/PIXTA)

近年、遺言作成に関するご相談、ご依頼が急増しています。それだけ遺言に対する興味関心、つまりは終活への意識が高まっている表れなのでしょう。相続トラブルについて、メディアや身の回りの体験談などを通じて見聞きすることが増えてきたことも一因だと考えています。

私はよく「遺言は親のマナーですよ」とお伝えしています。残された配偶者や子どもたちが、相続で争うことがないように、ご自身の財産には必ず宛名を付けておいていただきたいです。

“きょうだいは他人の始まり”とはよく言ったもので、幼い頃はおやつを奪い合った最強・最大のライバルが数十年の時を経て、今度は親の財産をめぐり骨肉の争いを始めるのです。親という太陽がいなくなった途端、きょうだいたちが他人と化してしまう現実を私は嫌というほど見てきました。

遺言はどんな人が作るべき?

結論から申し上げると、一人っ子のご家庭“以外”はすべて作るべきです。

では、なぜ一人っ子のご家庭は遺言を作る必要性がそれほど高くないかと言うと、両親が順番に亡くなっていくわけですが、遺言がなくとも結果的にその一人の子どもがすべての財産を相続することになりますし、もめることがない(もめる相手がいない)からです。

一方で、こんな人は特に作るべし!というのが「おひとり様(法定相続人が誰もいない人)」や「子どもが2人以上いる人」さらには「相続人の中に認知症や知的障害の方がいる人」などが挙げられますが、今回事例を交えてご紹介したいのが「子どもがいないご夫婦」です。

下図のとおり、ご夫婦には子どもがいません。夫婦の両親は、すでに他界しています。夫には姉と弟、妻A子さんには兄と妹がおりご存命です。A子さんは夫に万が一のことがあった場合の相続のことが心配でしたが、結局夫婦で何も相談して決めることができないまま、夫は亡くなってしまいました。


遺言がない場合、「遺産分割協議」が必要に

さて、ここで3つ問題です。

問題
夫が先に亡くなった場合の、法定相続人は誰でしょうか?

答えは、夫の法定相続人は、妻A子さん、夫の姉、夫の弟の3人です。

問題
遺言がないとどうなるでしょうか?

相続が発生し、遺言がない場合は、遺産分割協議(相続人全員で、誰が・何を・どれだけ相続するのかを協議する家族会議)を行う必要があります。遺言を作らないまま夫の相続が発生したら、遺産分割協議に参加するのは、A子さん、夫の姉、夫の弟の3人です。この3人で、夫の財産を、法定相続分を基準としつつ、どのように相続するのかを話し合って決めなければならないのです。

もし、あなたがA子さんの立場だったとしたら、夫の姉や弟と、夫の財産をめぐって話し合いをしたいですか?また、あなたが夫の立場なら、自分が亡くなった後に、妻に自分の姉と弟とそんな話し合いをさせたいでしょうか?

夫の姉と弟が優しく、理解のある方で、かつ良好な関係であれば、スムーズかつ円満に決着するかもしれません。

姉と弟:「長年連れ添ってくれてありがとね。財産はA子さんがすべて受け取ってね。私たちは何もいらないから」

A子さん:「(内心ほっとして)ありがとうございます!」

こうなったとしても、A子さんとしては、やはり協議前はドキドキものですよね。はたしてこんなきょうだいがどれほどいるのか(悪い意味で)想像できませんが。

一方、関係が悪く、長十年も音信不通で、権利だけはガンガン主張してくるような怖い姉や弟だったらどうでしょうか。今回のA子さんのケースは、まさにそんな姉と弟でした。A子さんは、話し合いどころか連絡を取ることすら嫌で嫌でたまりませんでした。

やっとの思いでこぎ着けた遺産分割協議の場で、A子さんの不安は的中します。

姉と弟:「私たちももらえるものはきっちりもらっておくわよ。法定相続分で平等に分けようじゃないのよ。不動産なんかいらないから、その分お金で分けてちょうだいね」

A子さん:「わ、わかりました……。(心の中では、何が平等によ!ふざけないで)」

A子さんは、夫の姉と弟のものすごい圧力に到底反論することもできず、さらには不動産は残ったものの、お金があまり手元に残らなかったという最悪の結末を迎えてしまったのです。

協議がまとまらない場合は裁判に発展するが…

ちなみに、A子さんが上述の申し出に納得できず、勇気を振り絞って反論したとしても、義姉と義弟も引き下がらないようであれば、遺産分割協議はいつまで経っても平行線のまま終わらず、預貯金の払い戻しや相続登記(=不動産の名義変更)といった相続手続きが一切進まないことになってしまいます。

また、協議がまとまらない場合には、遺産分割調停や審判(裁判)に発展することになりますが、結果的に(A子さんの望みに反する)法定相続分での分割で決着するケース(裁判例)も多いのです。

もしも、あなた(あるいはあなたの妻)がA子さんと同じ状況に陥る可能性がある場合、夫は例えば「財産はすべて妻A子に相続させる」内容の遺言を作るべきなのです(すべてではなく、きょうだいにも少しは相続させたいなら、その旨の遺言でOK)。

遺言を作れば、遺留分の問題はあるにせよ、原則その遺言のとおりに、遺産を分割、相続することになります。

問題
兄弟姉妹には、遺留分は認められている?

遺留分とは、最低限相続することができる権利のことです。遺留分を有している人が、遺言によって遺留分を侵害された場合、遺留分侵害額請求をすることによって、遺留分相当のお金を受け取ることができます。

遺言でも遺留分を制限することはできません。

では、兄弟姉妹にはこの遺留分は認められているかというと、答えは「NO」です。兄弟姉妹には遺留分は認められていません。

よって、上述のように「妻A子にすべて相続させる」旨の遺言があれば、夫の姉と弟は1円たりとも相続することができないのです。A子さんがすべて相続して終わりです。

A子さんは悔やんでも悔やみきれません。

「もっと私に知識があって、夫にお願いして遺言を作ってもらっていれば……」

遺言が「効力」を発揮するとき

このように、兄弟姉妹が相続人になるケースでは、遺言は絶大な効果を発揮するのです。兄弟姉妹には財産を渡したくない、あるいは渡したいきょうだいと渡したくないきょうだいがいる、といったご相談も非常に多いのも事実です。

子どもがいないご夫婦や兄弟姉妹が相続人になるケースでは、財産の大小、もめるもめないにかかわらず、特に遺言は作成すべきだということがおわかりいただけたと思います。

(貞方 大輔 : 一般社団法人相続終活専門協会 代表理事)