有名大学を出て、広告代理店に勤務するハイスペック男性が借金返済地獄へと堕ちてしまった理由とは(写真:Graphs/PIXTA)

クレジットカードの毎月の返済額を一定額にできる、リボルビング払いという返済方法。利便性の一方で、利息が膨れ上がって返済に困るケースもあり、ネット上ではこの支払いを選択した者を「情弱」と揶揄する風潮も存在する。

確かに蓄財の観点では合理性に乏しい返済方法ではあるが、「よく知らずに使ってしまう」といった事例も存在する。そして、自分はしていなくても、パートナーやわが子がしないとも限らない……。また、周囲に相談できないことで、返済額が大きくなってしまう者もいる。それが現実だ。

そこで、本連載ではリボ払い当事者の金銭感覚を批判するのではなく、むしろ彼らに寄り添い、詳しく話を聞いてみたい。その結果、「なぜ、人はリボ払いをしてしまうのか?」を深く探れると思うからだ。

※この記事は後編です。前編はこちら

カードの請求をカードで払う無間地獄

決して賢いお金の使い方ではないが、若者たちの間ではスナック菓子を買う感覚でリボルビング払い(以下、リボ払い)を選び、借金苦に陥ってしまう者が増えている。


自転車操業時を物語る1枚だ(佐々木さん提供)

2023年4月6日に配信された「日経ビジネス」の「高学歴の若者を借金漬けにする『リボ払い』 小学生にも教えよう」という記事で、ファイナンシャル・プランナーの高山一恵氏によると「有名な大学を出て、大企業で働く20代、30代から、実は、数百万円の借金があると打ち明けられる機会が少なくない」そうで、その借金の原因で目立つのがリボ払いなのだという。

今回、話を聞いた佐々木和也さん(仮名・33歳)は、まさにそんな「有名大学を出て、いい企業で働く若者」のひとり。飲み会、セミナーなど仕事がらみのネットワークを増やそうとするなかで、出費が増大。リボ払いだけではなく、クレジットカード(以下、カード)の利用可能額の限界まで使い込み、そのカードの返済のため、別のカードでキャッシングをして、返済の費用に充てる……ということを前編で聞いてきた。

しかし、キャッシングで余裕ができたとはいえ、結局は返さないといけない負債である。3枚のカードを所持していたことで、借り入れは100万円に膨らみ、毎月の返済額が30万円を超えるまでに増えてしまい、困窮していった佐々木さんは、さらに2枚のカードを作った。

「カードが5枚あれば、それぞれの利用可能額は20万〜50万円程度だとしても、いずれかのカードを限度額まで使い込んだら、まだ利用可能額が残っているカードを使って生活ができます。

毎月の返済額だけがどんどん増えていくのですが、一方で飲み会、セミナー、交流会への参加と、その後の私的な交流が増えることで仕事は順調に進んでいきました。営業職ゆえでしょうね。そうなると、今さらその頻度を減らすこともできないんです。

それに、幸か不幸か、それなりの会社に勤めていたため、カードの審査自体はすんなりと通るんですよ。だから、結果的にカードを8枚持っていたこともあります。そのうち、6枚はキャッシング機能が付帯されているのですが、1枚は利用可能額を限界突破したみたいで、ただただ毎月5000円のリボ払いを返済するだけのカードになっていました」

自転車操業から「綱渡り」な状態に…

ここまで来ると、仮にこれまでの金銭感覚を見直して、質素に生きようと思っても、リボ払いの無間地獄の真っ最中のため、毎月給料以上の返済が発生する。いよいよ、佐々木さんは綱渡りのような生活になった。

「前編でお話しした、飲み会を活用した金策(飲み会代を現金で集め、それを自身の銀行口座に入れてリボ払い返済を一時的に乗り切る)などもしていましたが、焼け石に水でしたね。返済(=引き落とし)のたびに現金がなくなっていたため、返済して利用可能額が復活したカードでキャッシングしまくって、別日にあるほかのカード支払いに備えていました。

その間、無一文で生活するわけにもいかないので、リボ払いの影響で徐々に利用可能額が減っていくカードの中から、まだ使えそうなカードを生活費に充てていました」

完全な多重債務者となった佐々木さん。カードの支払いのためにいろいろと危ない橋を渡った。以下、褒められない行為が続くが、本人も今では反省しているということで続きを読んでほしい。

「友達の誕生日プレゼントに『Nintendo Switch あつまれ どうぶつの森セット』をネットショッピングで購入したのですが、直前に友達がすでにSwitchを持っていることがわかったので、別のプレゼントを準備して、自分が買ったSwitchはメルカリで売ることにしたんです。すると、新品未開封ということもあって、自分が購入したときよりも、1万円くらい高く売れてしまって。

そして、メルカリの売り上げは現金にすることができるため、そこから現金を捻出するために、転売屋みたいな生活を始めます。売れそうなゲームをカードで購入しておいて、少しでも高く売っては現金に変えていました」

ここまでの話を聞いてきて、彼がまともに毎月返済できているとは思えないだろう。案の定、返済期限に現金を準備できず(転売屋家業も簡単にはいかず、利用可能額の限界に達するペースだけが早まったという)、支払いが遅れることも多々あったそうだ。そのたびに、カード会社から督促の電話やショートメッセージが入った。

「何社ものカードの返済が遅れるたびに、徐々に信用がなくなっていき、新たにカードが作れなくなっていました。ただ、その頃には作れるカードのブランドも大体制覇していたので、もう契約できる会社もなかったのですが(笑)。

いよいよ、首が回らなくなってしまい、消費者金融にも手を出すのですが、これまでのカードの信用履歴と自分の年収【編中:消費者金融は年収などを基準に、その人の3分の1を超える貸し付けが原則禁止されている】の結果、借りられたのは20万〜30万円だったので焼け石に水でした」

佐々木さんが変わった理由は…

そんな佐々木さんも彼女との同棲を機に、これまでの生活との決別を図る。

「単純に一緒に住んでいるアパートに督促状が届いて、彼女に借金がバレるのが嫌だったので、LINEやYouTubeによく出てくる『平成○年生まれの人の借金が帳消しになる方法!』みたいな早口で捲し立てる広告をクリックして、弁護士に『任意整理』してもらうことにしたんです」

「任意整理」とは弁護士がカード会社と交渉し、毎月かかっている利息を減額してもらい、債務者が無理のない範囲で返済できる計画を立てて、3〜5年程度の長期の分割払いで支払う内容にリスケジュールしてもらうというものだ(広告でよくある「国が認めた借金をチャラにする方法!」はこのことを意味する)。


任意整理時の、弁護士とのやり取りの様子(佐々木さん提供)

「任意整理で検索すると、これは4つある債務整理のうちのひとつであり、残りは『過払い金返還請求』『個人再生』『自己破産』ということを知りました。

当初は広告も胡散臭いので躊躇していたのですが、残された道が任意整理以外だと、自己破産しかないという事実に青ざめてしまい、すぐに弁護士にお願いしました。もう、ブラックリスト入りとかどうでもよかったんです」

こうして佐々木さんの毎月数十万円の返済額は毎月5万円程度になったが、その分カードは使用停止になり、また5年間は新たにカードを作れなくなった。

カードの負債額は300万円に膨れ上がって

このキャッシュレスの時代に佐々木さんは完全に現金派になったわけだが、それでも多重債務状態から抜け出し、毎月の返済額が減ったおかげで今は生活も気持ちもずいぶん楽になったという。

「でたらめなカードの使い方を10年近く続けて、リボ払いがどのぐらいになったのかはわかりませんが、後日弁護士から届いたカード会社との和解プランを見ると、すべてのカードの負債額は300万円に膨れ上がっていました……。これを2028年まで返済していく予定です」

「8社合わせて300万円程度か……」と思う読者諸氏もいそうだが、多重債務者は1社、1社の限度額が30万〜50万円程度のため、想像を絶するような負債額になることはそうそうない(それでも、300万円はそこそこの大金だが)。

しかし、返済額が減っても、背負っていくものは残った。

「信用情報に傷が入り、完全にブラックリストに入ってしまいました。これによって新たにカードを作ることができないだけではなく、賃貸物件を借りるときも保証会社によっては信用情報を見られるため、審査が通らないこともあるそうです。そのほか、携帯電話を新規で契約できなくなるとか、それなりに制限はあるみたいで不安ですが、それでも昔のように切羽詰まって生活しなくてもいいのは本当によかったです。

彼女からは『そろそろ結婚しようよ』とせがまれていますが、まだ借金のことは伝えていないので、いつ告白しようかと悩んでいます。実は奨学金の返済も残っていますからね……(笑)」

有名大学を出て、広告代理店に勤務するなど、社会的にはハイスペックに該当しそうな佐々木さん。一方、マネーリテラシーについては、なかなか問題を感じさせるのも事実だ。

なぜ、このような状態に陥ってしまったのだろうか? 尋ねてみると、その要因は幼少期の頃から変わらない金銭感覚が関係していると自己分析しているらしい。

限度額いっぱいまで使うという癖は昔から

「思えば、子どもの頃からおばあちゃんにお小遣いをねだっては、すぐにお菓子やおもちゃを買ってしまう子どもでした。『和也はお金があったら全部使っちゃうのね』なんて言われたこともあります。

だからといって、おばあちゃんや両親からいつもお小遣いをねだるわけではなく、その時にもらった額を次のお小遣いの日までに全部使うという感じでした。この頃から、限度額いっぱいまで使うという癖は変わらなかったということですね(笑)」

なお、佐々木さんは子どもの頃、カードゲームが好きで、欲しいカードが出るまでパックを買い続けていた。自分が今楽しんでいるカードもいずれ、みんなやらなくなってしまう。あれだけ欲しかったカードも、紙くずのようになってしまう。だからこそ、今この瞬間に欲しいと思うなら、全力で手に入れよう!……子どもながらに、わりと”宵越しの銭は持たない”タイプだったらしい。

一方、両親と父方、母方の祖父母はみんな自営業を営んでおり、お金に堅実な人たちだった。

「両親からは『金の切れ目が縁の切れ目』と口酸っぱく言われてきたので、平気でキャッシングできても、いまだに両親からお金を借りることはできません。

300万円だったので、任意整理をしなくても親に頼み込めばなんとかなったとは思うのですが、どこかで、『堅実な親にお金に関しては迷惑をかけられない』という恐れがあったんだと思います。

振り返ると、僕だけ金銭感覚が緩かったんでしょうね。昔から10円玉貯金すら貯められず、親戚からもらったお年玉を管理するための口座を両親は作ってくれましたが、その口座の暗証番号すら知りませんから。お金を使う人って、お金が大好きに思われるかもですが、むしろ逆で、お金への執着が少ないと思うんですよ。

子どものときからそんな金銭感覚だったので、今も常に金欠という状態は別におかしくはないんですよね」

ただ一方で、リボ払いに至ったことについては、自分自身では仕方ない支出も多かったと考えているようだ。

「でも、決して遊びやギャンブルでお金を使い切ったわけではなく、真面目に働いた結果がこれなので、そこには思うところがありますね。同業種の先輩に借金をしまくってでも、いろんなセミナーに顔を出したことで、交友関係が広がってめちゃくちゃ出世した人がいたので、『成功のためには借金しかないのか?』と思ったこともあります」

無間地獄に堕ちた理由はひとつではない

学習指導要領が改訂され、小学校・中学校・高校での金融教育がスタートした。日本はもともと、諸外国に比べて「お金」について語るのを好まない国民性があると言われている。だからこそ、金融教育を通じて、マネーリテラシーを身につける人も少なくない……と期待されている。

しかし、お金に堅実な自営業の一家で育っても、佐々木さんは自身で語るように、「金銭感覚が緩いまま」大人になった。

「リボ払いをする人は、貧しい家で育った人が多いんだろう。お金にルーズな両親が近くにいたから、同じようにマネーリテラシーの低い人になってしまうんだ」……。そう、思う読者もいるかもしれないが、実際のところ話はそんな単純ではないようだ。

佐々木さんは事業に失敗したわけでもなく、ギャンブルで借金をこしらえたわけでもなく、買い物中毒だったわけでもない。しかし、彼のようになんとなく借りてしまったリボ払いで、カードの返済に苦しんでいる若者は大勢いる。彼らがどのような理由でリボ払いの無間地獄に堕ちてしまったのか? そして彼らは、幼少期からお金にルーズだったのか、それに加えて、ほかになにか要因があったのか……? 

今後、この連載ではさまざまな事例を紹介しながら、リボ払いに苦しむ人たちの実態をレポートしていきたい。

リボ払いに苦しんだ経験を持つ方を募集しています。こちらの応募フォームからご応募ください。

(千駄木 雄大 : 編集者/ライター)