厳しいマークとラフプレーに大いに苦しんだカディス戦を終え、久保建英が2023年の全日程を終了した。今回はクラブの地元紙『エル・ディアリオ・バスコ』でレアル・ソシエダの番記者を務めるイケル・カスターニョ・カベージョ氏に、同紙の各選手の採点結果を生かしつつ、今季前半戦を振り返ってもらった。

レアル・ソシエダ地元紙の評価】

 2023年、久保建英は輝かしい成績を残し、特に傑出した活躍を見せた選手のひとりだった。昨季同様にラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)サポーターの愛情を手に入れ、そのクオリティーの高さにより、すべてのコンペティションで結果を出している。


久保建英の今季前半戦地元紙評価は、チーム内で4位 photo by Nakashima Daisuke

 そんな久保を獲得できたことを、我々がどれだけ嬉しく思っているか、そして1月から2月にかけて日本代表の一員としてアジアカップに参加し不在の間、彼がいないことをどれだけ寂しく思うことか...。

 もちろんラ・レアルは久保欠場にうまく対処しなければならないが、チームとしては自分たちの利益(勝利)のためにも、彼が不在となる試合ができるだけ少なくなるのを望んでいる。なぜなら、久保が1カ月いないということは、チームに大きな影響を及ぼし、大ダメージを与えることを意味するからだ。

『エル・ディアリオ・バスコ』紙では毎試合、レアル・ソシエダの各選手の評価(最高5点)を行なっており、久保は今季ここまでの採点合計で4位につけている。シーズンの終わりに誰が頂点に立つのかを語るのは時期尚早だが、確かなのは、今季開幕前の大ケガで現役引退を表明したダビド・シルバに次いで2位となった昨季と同じように、久保が再び上位に名を連ねるということだ。

 現在までのところ、マルティン・スビメンディ、アレックス・レミロ、イゴール・スベルディアがラ・レアルで最も評価の高い選手たちだ。久保よりも上と評価されている理由は、今季前半戦において、3人ともより安定したパフォーマンスを発揮したことに加え、全員が久保より出場時間が長いことが挙げられる。

<『エル・ディアリオ・バスコ』紙の採点合計ランキング・トップ10>
(12月21日カディス戦終了後の公式戦26試合のデータ)

1位:マルティン・スビメンディ 91点(25試合/3得点1アシスト/平均3.6点)
2位:アレックス・レミロ 84点(24試合/平均3.5点)
3位:イゴール・スベルディア 83点(23試合/1アシスト/平均3.6点)
4位:久保建英 81点(24試合/6得点3アシスト/平均3.4点)
5位:ミケル・メリーノ 74点(21試合/2得点3アシスト/平均3.5点)
5位:アマリ・トラオレ 74点(23試合/2アシスト/平均3.2点)
7位:ミケル・オヤルサバル 71点(23試合/9得点1アシスト/平均3.1点)
8位:ブライス・メンデス 68点(21試合/5得点4アシスト/平均3.2点)
9位:アイエン・ムニョス 65点(25試合/2アシスト/平均点2.6点)
10位:アンデル・バレネチェア 63点(19試合/4得点2アシスト/3.3点)

【久保は決定的な働きをする選手のひとり】

 MFのスビメンディは、ボールリカバリとプレーを創造するその高い能力で、再びヨーロッパのビッグクラブに注目されている。GKのレミロは数々のビッグセーブで多くの勝ち点をチームにもたらせている。

 センターバックのスベルディアはDFの中心的役割を果たし、チームの失点の少なさに貢献している。この3人はいずれも、ラ・レアルが好成績を残している上でカギを握る選手たちである。

 久保は今季、パフォーマンスをさらに向上させ、数字的にも申し分ない。決定力をより高め、ラ・レアル初年度の昨季は9ゴールだったが、今季すでに6ゴールを記録。ドリブル成功数はチームトップ、そしてラ・リーガでも上位につけている。

 今季前半戦を振り返ってみると、久保が最も活躍したのは9月2日のグラナダ戦(5−3)だった。スペインでのキャリア初となる2ゴールを決め、さらにオウンゴールを誘発。勝利に大きく貢献して観客からスタンディングオベーションが送られたあの試合だ。

 1対1の局面ではラ・リーガ屈指の選手であると証明し、例年に比べフィニッシュの質が向上していることを示した。さらに2点目はラ・レアルにとって、アノエタ(※レアレ・アレーナの正式名称)での公式戦通算1000ゴール目となる特別なゴールだったこともあり、より一層サポーターの記憶に残るものとなった。

 一方、今季のワーストは、シビタス・メトロポリターノで行なわれた10月8日のアトレティコ・マドリード戦(1−2)だろう。サムエウ・リーノとのデュエルにほぼ敗れ、攻撃で違いを生み出せなかった。これにはロドリゴ・デ・パウルがリーノをサポートしたのも大きく影響していた。

 そんななかで見せた久保のベストプレーは、ハーフタイム直前にボールをキープするGKヤン・オブラクにプレスをかけて脅かし、ミケル・オヤルサバルに正確なクロスを送ったことだ。それでも他の試合に比べると存在感が薄く、プレーにほとんど関与できずに、チームも敗北を喫していた。

 久保に対するイマノル・アルグアシル監督の信頼は揺るぎないが、現在、開幕当初に比べると調子を落としているのは明らかだ。先日のビジャレアル戦で久々の得点を挙げ、歓喜したのも束の間、その後のチャンピオンズリーグ(CL)のインテル戦では、またもや2カ月前ほどの輝きを放てなかった。

 ラ・レアルサポーターも華々しいスタートを切った序盤のような活躍ができていないことを認識しているが、それでも久保が対戦相手にとって頭痛の種であり、ラ・レアルの攻撃のほとんどすべてが彼の足を通じて生まれているのは事実だ。ライバルたちにとって、アタッキングサードで脅威であることに変わりはない。

 多くの人々は久保がどんなに調子を落としていようとも、パフォーマンスはトップレベルにあり、チーム内での需要性が増し、決定的な働きをする選手のひとりだという印象を持っている。

【市場価値がチームトップに上昇】

 2023年最後の試合となったアウェーのカディス戦は久保にとって、昨季ラ・レアルデビューを飾った地であり、チームに最初の勝ち点3をもたらす決勝点を決めた思い出の場所での開催となった。まさにラ・レアルにおける久保の伝説が始まったスタジアムだ。

 この試合でも特に攻撃に関与し、最大のチャンスを作り出す選手になっていたため、カディスは久保を試合から締め出そうと、多くのファールを犯していた。その結果、0−0の同点で終わり、ラ・レアルは公式戦3試合連続スコアレスドローで、年内最終戦を終えていた。

 冬の移籍市場が間もなくオープンするが、今のところ、CLで好成績を収めているチームで多くの出場機会を得て、重要な地位を確立している久保が去るリスクはないと思われる。

 彼の現在の市場価値は5年契約を結んだ昨夏をはるかに上回っている。ラ・レアル加入時が900万ユーロ(約14億4000万円)だったのに対し、今はチームトップの6000万ユーロ(約96億円)にまで上昇している。この金額はクラブが設定している契約解除金と同額で、その勢いは止まるところを知らない。

 そんな状況にあるものの、来夏再び、ヨーロッパのビッグクラブやサウジアラビアから久保に目が眩むような魅力的なオファーが舞い込むはずだ。今週、英紙『サン』が、マンチェスター・ユナイテッドが彼の獲得に興味を持っていると報じたばかりだが、久保の去就に関する報道は今後、さらに加熱していくだろう。
(郄橋智行●翻訳 translation by Takahashi Tomoyuki)