NTTグループの再編を強力に推し進めてきた澤田会長。グループの競争力強化という目標に対し、「まだまだ。これからやるべきことが沢山ある。楽しいくらいのチャンスだ」と語った(撮影:今 祥雄)

NTTグループの姿が大きく変わる転換点となるのか。

自民党は12月5日、NTTグループの主要会社を規制する「NTT法」の廃止に向けた提言を公表した。2024年に同法が定める研究開示義務などを撤廃した後、国内の通信業界を対象とする「電気通信事業法」などへ必要な規制を寄せたうえで、2025年の通常国会をメドにNTT法を廃止することを求めている。

今後は総務省での議論を経て制度改変の詳細な中身を詰めていくが、廃止となればNTTの経営の自由度は格段に高まる。NTTは今、どんな将来像を描いているのか。グル―プ再編を強力に推進してきたNTTの澤田純会長に直撃した。

自民党提言は「現実的かつ合理的だ」

――自民党がまとめた提言の内容を率直にどうみていますか。

詳しく書き込まれていて、かつ現実的。ツーステップで(競合他社が懸念する)公正競争条件などを整えてからNTT法を廃止するという流れには、とても合理的なイメージを持った。

とくに外資規制だ。NTT以外のキャリアについても、外為法や電気通信事業法の改正によって規制の対象とすることが明記されている。外資規制の対象はうちだけじゃだめなんですよ。昨今の経済安全保障の状況からすれば、外国の資本から怪しい買収案件が来たら、国が審査すべきだ。


そもそもNTT法は1985年、前身である日本電信電話公社(電電公社)の民営化に際して制定された。当時は固定電話網で圧倒的なシェアを誇るNTTを縛る狙いがあった。それから約40年経ち、インターネットや携帯電話が普及した一方、固定電話を使う人は激減した。

グループ全体ではすでにグローバル事業や電力、不動産などの領域にまで展開しており、固定電話の収入は約15%しかない。それなのに、NTT法は固定電話の普及義務をNTTに課しているうえ、「君たちは電話の会社だからこれをやったらいかん」と法的に定めている(編集部注:NTT法はNTTを純粋持ち株会社、NTT東日本・NTT西日本を地域通信が目的の会社と定める)。こうした意味で、NTT法は時代遅れになっている。

――自民党の提言には、澤田さんやNTT側の意向も反映されたのでは。2025年をメドに法廃止という流れには、性急すぎるという声も多く聞かれます。

いやいや。社長時代にも「法律を直してくれ」といった要望を誰かに言ったことは一度もないし、今回の一件はわれわれから仕掛けたものではない。

自民党側に「NTTをフリーにさせるべき」という意識があるのは確かだ。それは(NTTのビジネスモデルが)固定電話を超えていくから。NTT法の廃止によって、NTTに対する意識面でのバイアスが取り除かれ、変革のトリガーになると期待している。

私は会長になって以降、経団連副会長などの立場で財界活動にも力を入れている。マクロでは、日本の産業競争力をきっちりつけて持続的に発展させ、国民生活を良くしたいという思いが大きい。(それに資する形で)NTTの会長としては、(2030年ごろの商用化を見据えた、NTTの光技術を使った新たな通信規格である)IOWN構想を将来的に、日本社会にインフラとして受容してもらえるようにしたいと思っている。


澤田純(さわだ・じゅん)/1955年大阪府出身。京都大学工学部卒業後、1978年日本電信電話公社(現NTT)入社。NTTコミュニケーションズ副社長やNTT副社長を経て、2018年社長。2022年6月から会長。経団連副会長や日米経済協議会会長なども務める(撮影:今 祥雄)

そもそも自民党のプロジェクトチームの座長を務める甘利明議員は、昔から「NTT法はいらんでしょ」派。彼はIOWN構想をすごくプッシュしてくれている。だから、その実現のために障害はすべてなくすべきという考えだ。

ただ、本音を言えば、政府には株をあまり売ってほしくない。(経営サイドからすると)安定的な株主がほしいからだ。

2025年という時期については、やっぱり早くしたかったのではないか。時代の変化が早いうえに、安全保障環境も悠長に見ていられない。そういう意識が自民党の先生方にはあったのかもしれない。

いつまで「蟻と象」のように言うのか

――時代に合わせた法改正は必要です。ただ、競合キャリアはNTT法の廃止により、NTT東日本・西日本(以下、東西)とNTTドコモの合併が進むことなどを懸念しているようです。

公正競争は電気通信事業法で規制されているので、併せてそちらを強化してもらえばいい。(NTT法廃止に)反対するのは、「今を守りたい」という考え方だ。

東西とドコモの合併はありえない。固定電話や光ファイバーを全国に提供する東西は、日本のインフラ全体を考えるのがミッション。一方、ドコモのミッションは国内の競争で勝ったうえで、世界市場にも参入していくこと。違う目的の会社を合併させる必然性がない。

――KDDIの高橋誠社長は「巨大NTTの回帰につながりかねない」と言及しています。

KDDIとソフトバンクの国内の売上高を知っていますか?それぞれ約6兆円ですよ。NTTは国内で約11兆円。

もう十分、うちと拮抗する大会社になっている。いったいいつまで蟻と象のように言っているのか。むちゃくちゃ大きい会社さんなので、そこは(大会社としての責務を)背負って頑張ってもらいたい。

――澤田さんは2018年の社長就任以降、TOB(株式公開買い付け)によるドコモとNTT都市開発の完全子会社化や、グループの海外事業再編などに矢継ぎ早に取り組んできました。まだ再編の余地はあるのでしょうか。

今後のグループ再編については現社長の島田(明)さんのエリアだが、基本的には終わっている。私が社長時代にやった再編は、あくまでもグループを強くすることが目的だった。


最近は財界活動にも積極的に取り組む。「日本の産業競争力をきっちりつけて持続的に発展させ、国民生活を良くしたい」と語る(撮影:今 祥雄)

ドコモの場合、収益・利益が大手キャリアの中で3番手になっていた。競合他社との対比では、固定通信のサービスを持っておらず、法人向けの事業が弱かった。

そのため完全子会社化後に、長距離通信を手がけるNTTコミュニケーションズをドコモの傘下にした。それによってコスト効率も上がった。再編で弱点を補強するという、いたって普通の事業戦略を実行しただけだ。

なお、東西の合併については公正競争上の問題がなければ、論理的にはありえる。両社ともミッションが同じだからだ。キャリア各社は東西の光ファイバー網を使っている。彼らからみても、合併によって経営の効率性が上がることでコストが下がったほうがいいはずだ。

ドコモTOBは「だまし討ち」ではない

――これまでの再編に当たっては、NTT法が足かせになっていた部分も大きいはずです。

それはそのとおりだ。ただ、社長在任当時は「NTT法を直してくれ」と求めるよりも、法律に触れない範囲でやれることからやろうと動いた。

ドコモのTOBをやったときは、競合から「だまし討ちや」と言われたが、それは変な話だ。インサイダーになるから事前に誰にも言えないし、ぎりぎりになって総務省へ話を持って行き、法的におかしくないという意見をもらってからTOBをスタートした。

意見を言うのは自由だが、ファクトに基づいて話してもらいたい。われわれが過去に「やらない」と言っていたことを撤回して、だまし討ちしたわけではない。

一方で、NTT法の廃止によって「あなたは電話会社でしょ」と言われなくなれば、(グループ強化に向けて)より柔軟なマインドセットを持てるようになる。研究成果の開示義務がなくなる点も大きいだろう。

――研究成果の開示義務は、具体的にどんな支障を来していたのでしょうか。

マイクロソフトやインテルなどの海外企業と提携してきたが、NTT法の規定があると伝えると、みんなびっくりする。「え?何かの時に国が出てくるのか」と。

グローバルビジネスを自由に展開するうえで、相手の心理面を含めてブレーキになってしまっている。「NTTと組んだらオープンにしないといけないの」という議論になって、実際に組んでくれないとか、なかなか提携が進まないといったこともある。

――再編は一段落付いた中で、グループの競争力強化という目標に対しては?

まだまだ。ドコモは2021年に新料金プラン「ahamo(アハモ)」を出してから、かなりシェアを戻してきたが、まだその途上。時折、(契約純増数で)2番手にはなるが、やっぱり3番手のポジションからは変わっていない。競合の各社さん、強いですよ。

NTTデータにはグローバル事業を寄せたので(編集部注:2022年10月にNTT傘下の海外事業部門をデータの子会社とする再編を実施)、これから利益が上がる構造に持っていけたらいい。

また、IOWNの製品・サービスが今後数年でどんどん出てくる予定だが、光ファイバーについて東西がメインで提供する以外は、どこのグループ会社がどう手がけていくのかは全然決まっていない。

これからやるべきことが沢山ある。楽しいくらいの(大きく伸びる)チャンスだ。

――NTTは今後、IOWN構想の中で「光電融合デバイス」や「光半導体」といったハードウェア製造にも取り組んでいく方針です。通信会社の色合いはどんどん薄まりそうですが、澤田さんが描く将来のNTT像を一言で表すと?

通信は国民最後のライフラインなので、シェアナンバーワンの当社が引き続き支えるのは変わらない。だが、2030年、2040年を念頭に置くと、NTTはかなりグローバルなコングロマリット(複合企業体)になっているはずだ。

現時点ですでに、全社売上高に占める固定通信、移動通信の比率は半分程度しかない。この比率はますます下がっていく可能性が高いだろう。

将来のNTTはもっと多面性が深まり、携帯会社や地域通信会社、SIer、メーカーなどさまざまな顔を持つことになる。自動車の製造だって視野に入る。自動車ってスマホと同じ端末でしょ。こうなってくれば、ますますNTT法が対処する領域ではない。

産業のイニシアティブを取りたい

――澤田さんは過去、GAFAMなどアメリカのビックテックへの対抗をことあるごとに口にしてきました。一方で、NTT法をめぐる議論の中で競合からは「NTT法を廃止して縛りをなくしても、NTTはGAFAMにはなれない」と揶揄する声もあります。

GAFAMと言っても、いろんな業態がある。例えば、アップルのようにアイフォンならぬ「エヌフォン」をNTTが作るかといえば、そんなことは誰も考えていない。検索エンジンを作るかというと、それも同じ話。GAFAMと対抗するというのは、決してそういう同じ業態をやることを意味しているんじゃない。

前々から言っていたのは、GAFAMが通信の領域へ展開しつつあることだ。例えば、アメリカの通信会社のAT&Tが2021年、マイクロソフトへ通信のコアネットワーク売却を発表した。ほかにも、データセンターや海底ケーブルなどの領域で同じことが起きている。

技術で勝たないと、AT&Tのようになってしまう。大事なのは、産業のイニシアティブを取れるかどうか。そこで出てくるのがIOWNだ。IOWNや光電融合は、ゲームチェンジを起こせる。

(GAFAMなどが作った)サーバーやデータセンター、クラウドもすべて、能力の高いデバイスなどが登場したら、それに合わせて彼らも一から製品やサービスの作り直しを余儀なくされる。それを狙っている。

――NTT法が廃止されれば、所管官庁である総務省との距離が遠くなりそうです。今後は半導体関連を所管する経済産業省などとの連携がポイントになるのでしょうか。

偉そうなことを言うと、経産省以外にも外務省や農林水産省など、いろんなところの支援がほしい。

今後あらゆる領域でICT化が進み、それをNTTが手がけることになる。NTT法が廃止されれば支援の出し手・受け手ともにマインドセットが変わり、支援を得られやすくなるはずだ。

( 高野 馨太 : 東洋経済 記者)