クリスマス・ラブロマンス×偶然が生む幸運のワイン“フィールドブレンド”
毎月、映画とワインのマリアージュを提案していく連載、ほろ酔いシネマ。
今月は、クリスマスのN.Y.が舞台のラブストーリー『セレンディピティ〜恋人たちのニューヨーク〜』。
作品のタイトルにちなんで、まさに“セレンディピティ”なワインを片手に、おうちシネマを満喫しよう!
▶前回:Vol.10「『RRR』×モロッコのタンデム」
イブの男女の出会い、それは偶然か?必然か?
嵩倉:新谷さ〜ん、柳さ〜ん。今年も仕事に追われる毎日で素敵な殿方と巡り合う機会はなく、クリスマスはまたボッチで過ごすことになりそう。
柳:シクシク(涙)。新谷さん、哀れなクラリン(嵩倉)に、なにか素敵なラブロマンスは?
新谷:ありますよ、ぴったりの作品が!『セレンディピティ〜恋人たちのニューヨーク〜』。
柳:その映画なら、観たことあります。たしか、クリスマスイブの夜、デパートの売り場で主人公の男女が、残りひとつの手袋に同時に手をかけたところから物語が始まる。
新谷:そうです、その映画です。日本での上映は2002年ですから、もう20年も前の作品ですが、何度観ても胸がキュンとときめいてしまう。
監督はこのあとにハリウッド版『Shall We Dance?』を手掛けたピーター・チェルソム。
主演は2000年の『ハイ・フィデリティ』でゴールデン・グローブ賞の主演男優賞にノミネートされたジョン・キューザックと、『パール・ハーバー』や『アビエイター』でスターの仲間入りをしたケイト・ベッキンセイルです。
今月のワインシネマ『セレンディピティ〜恋人たちのニューヨーク〜』
ジョン・キューザックとケイト・ベッキンセイル共演のロマンティック・ラブストーリー。
クリスマス直前のN.Y.のデパートで一組の手袋をめぐり出会ったジョナサンとサラ。
偶然が重なり、お互いになにかを感じたふたりは「本」と「5ドル札」に連絡先を書き、その運命が本物かどうかを確かめることに……。
偶然か、運命か?を試した男女がたどり着いたのは、会いたいという強い気持ち
実在するカフェ『セレンディピティ3』などN.Y.を舞台に物語は繰り広げられる。
冬のスケートリンク、ホテルのエレベーターでのゲームなど、王道ながらも、誰もがうらやむデートシチュエーションだ。
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嵩倉:ところで映画タイトルの「セレンディピティ」って最近よく耳にする言葉ですが、どういう意味なんです?
柳:「幸せな偶然」とか「想定外の偶然がもたらす幸運」という意味だね。語源は『セレンディップの3人の王子たち』というペルシャの寓話にあるらしい。
新谷:タイトルどおり、偶然、クリスマスの日に出会ったふたりは、『セレンディピティ3』というカフェでお茶をしていったん別れたものの、忘れ物を取りにいって再会。
この出会いを運命と考えた男、ジョナサンは、彼女の名前と電話番号を聞き出そうとするけど、サラは簡単には教えてくれない。
ジョナサンの名前と電話番号を書いた5ドル札は他人の手に渡り、サラの名前と電話番号を書いた本は古本屋へ。互いに偶然、これらを見つけることができれば、また会えるわけですが……。
柳:予定調和なハッピーエンドは容易に想像できるけど、それまでのすれ違いにハラハラどきどき。
偶然のブレンドがワインに幸運をもたらす
嵩倉:いかにも胸キュンしそうなストーリーですね。それで柳さん、セレンディピティなワインは?
柳:悩んだね〜、今回のお題には(苦笑)。
まず、偶然出会ったふたりが造り始めたワインを考えたけど、この連載第1回のカシオペがまさにそれだし、醸造試験中に偶然生まれたワインは、これだというのが思いつかず……。
それで3日ほど悩んだ末にひらめいたのが、フィールドブレンドだ。
嵩倉:えっ、ゴールドブレンド?
新谷:おほん、それってインスタントコーヒーでは?
柳:新谷さん、クラリンへのツッコミありがとうございます。
ブルゴーニュにおけるピノ・ノワールのように、単一ブドウ品種から造られるワインもあるけれど、ボルドーみたいに複数のブドウ品種をブレンドして造られるワインも少なくない。
ただ、ブレンドから造られるワインはそれぞれのブドウ品種ごとに畑の区画が決まっていて、別々に収穫、醸造してからブレンドされるのが一般的だ。
嵩倉:えっ、なぜなぜ?
柳:区画を分けるのは品種ごとに土壌の向き不向きがあるからだし、別々に収穫するのは生育のスピードが品種ごとに異なるから。
新谷:どの品種もベストな状態でブレンドしようという考えですね。
柳:そうです。それに対してフィールドブレンドというのは、ひとつのブドウ畑に複数の品種がごちゃ混ぜで植えられている。ごちゃ混ぜだから、別々に収穫なんて無理だし、醸造も一緒。
嵩倉:すると、ある品種は完熟してるのに、別の品種は未熟なままということになりませんか?
柳:いいところに気づいたね、クラリン。でもそれが「偶然」の奇跡を呼び、人の手の制御が効かない面白さを生むし、年によっては完璧な調和がもたらされることもある。
今回紹介するフォリアス・デ・バコの「ウィヴォ・レネガード」は、なんと25以上の品種がごちゃ混ぜだ。
「Folias de Baco UIVO RENEGADO 2021(フォリアス・デ・バコ ウィヴォ・レネガード2021)」
フォリアス・デ・バコはティアゴ・サンパイオ氏が2007年、ポルトガルのドウロに設立したワイナリー。
このワインはティンタ・ロリスやマルヴァジアなど、黒ブドウも白ブドウも25品種以上ごちゃ混ぜの畑から造られる。
淡いルビー色で、混醸ならではの複雑さと旨みがある。
3,520円/BMO TEL:03-5459-4334
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新谷:計算づくでない、想定外の偶然がもたらすおいしさ。まさにセレンディピティなワインですね。
柳:あとはクラリン、クリスマスイブにセレンディピティな殿方との出会いを待つだけだ!
マリアージュをお届けするのはこの3人!
幅広い分野の雑誌で執筆を手掛け、切れ味あるコメントに定評があるワインジャーナリスト。映画を観ながら、“恋の行方”よりこのクリスマスはどのワインを開けようか考え中。
映画を中心に、書いたり取材したり喋ったり。この映画のように運命を信じるか、諦めて新しい道を開拓するか……ホットワインを飲みながら大人の恋を模索します。
本連載の担当になって6年目に。ワインの知識は少しずつでも積みあがっていると信じ、柳氏にしがみつく日々。聖なる夜は、“誰と過ごすか”よりも“何を食べるか”に注力する。
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