タリーズ飲料の旗艦商品「バリスタズブラック」はボトル缶コーヒー分野で販売首位(記者撮影)

伊藤園がコンビニやスーパーなどで販売する「TULLY’S COFFEE」(タリーズコーヒー)ブランド飲料の売り上げが絶好調だ。

2022年度の販売数量は、過去最高の1600万箱を突破。2023年度に入ってからも勢いは衰えず、上半期(各5月〜10月期)ベースで過去最高を更新している。

伊藤園マーケティング本部コーヒーブランドグループの相澤治ブランドマネジャーは、「新型コロナや原料高騰の影響でコーヒー市場は激変しているが、当社のタリーズ飲料の売り上げは好調だ」と胸をはる。

タリーズ飲料のブランド全体の中では、ボトル缶(キャップ付きの缶)コーヒーが販売数量の約8割を占める。コーヒー市場における容器別の売り上げを見ると、ボトル缶コーヒーではボスやジョージアなど強豪ブランドの商品を抑え、旗艦商品「バリスタズブラック」が6年連続で首位となっている。

コーヒー飲料の売り上げは減少

国内のコーヒー市場は主に、家庭用や業務用の「レギュラーコーヒー」、カフェなどの「喫茶」、そして「コーヒー飲料」の3つに大別される。「コーヒー飲料」とは、缶やペットボトル、カップなどの容器に密封された飲料を指す。

コロナ禍におけるリモートワークの増加でレギュラーコーヒーは成長基調にあり、昨今の人流回復により喫茶も回復を見せている。一方、コーヒー飲料は縮小傾向をたどる。2019年まで9000億円超だったコーヒー飲料の売上高は、コロナによる外出抑制の影響から2020年に約8000億円まで落ち込み、以降も大きな回復は見せていない(売上高は伊藤園調べ)。

2022年以降、コーヒー豆やアルミなどの原材料の高騰を受け、飲料各社が相次いでコーヒー飲料の値上げを実施。これが「市場の低迷に拍車をかけている」(複数の飲料業界関係者)。


タリーズのボトル缶コーヒーも、値上げを余儀なくされた。バリスタズブラック(390ml)は、昨年10月と今年5月に価格改定を実施。元の希望小売価格が133円だったところ、二度の値上げを通じて現在は160円となっている。

20%もの値上げを実施したにもかかわらず、その後の販売ペースは落ちないどころか、むしろ伸長しているのだ。

タリーズ飲料は販売低迷からV字回復

伊藤園は2006年にタリーズコーヒージャパンを買収。カフェ事業では現在、770店舗超を運営している。

さらに、伊藤園は2007年にタリーズブランドを用いたコーヒー飲料事業を開始。2009年に発売したボトル缶コーヒーが同事業の成長を加速させ、2017年にはブランド全体の出荷数量で1500万箱を超えた。

順調に売り上げを伸ばしてきたタリーズ飲料だが、2017年から2018年にかけて強い逆風が吹き付けた。ペットボトルコーヒーの台頭だ。

2017年に、サントリー食品インターナショナルがペットボトルコーヒー「クラフトボス」を発売すると顧客の支持を受け、瞬く間に需要が拡大。以降もペットボトル需要は衰えを見せず、2022年のコーヒー飲料市場におけるペットボトルのシェアは40%を超えている(インテージSRI+データ)。

ボトル缶が主力のタリーズ飲料の売り上げは、徐々に低迷していった。

ところが、である。2021年あたりからタリーズ飲料の売り上げは復調。翌年には、一気に過去最高の販売数量を叩き出した。

V字復活のきっかけは、コロナ禍で起きた顧客の「嗜好の変化」だ。

前出の相澤氏は、「コロナ禍で、味わいに対する消費者の感度がすごく上がった」と語る。「自分でコーヒー豆を粉にしてドリップする、あるいはコーヒーをアレンジして飲むといった消費者が増えた」(同)

独自の商品開発体制で味を追求

伊藤園はなぜ、消費者の嗜好の変化を捉えることができたのか。その理由は2つある。

1つ目は、タリーズコーヒージャパンとの綿密な関わり合いが、伊藤園の商品開発に生かされていることだ。

一般的に、カフェ事業とコーヒー飲料事業は、別々の会社によって展開されることが多い。

例えば、国内で「スターバックス」のカフェを運営するのはスターバックスコーヒージャパンだが、飲料はサントリー食品インターナショナルが販売している。イギリスの大手カフェチェーン、「コスタコーヒー」のカフェは双日とロイヤルホールディングスの合弁会社が運営するが、飲料の発売元は日本コカ・コーラだ。

一方、タリーズコーヒージャパンは伊藤園の100%子会社ということもあり、カフェ事業と飲料事業が垣根なく連携している。

具体的には、伊藤園が「こういう商品を作りたいんだけど、どんな原料を使えばいいかな」と相談すると、タリーズ側が「アイデアがあるので一緒に立ち会って検討しましょう」と応えるなど、両者が頻繁に議論を交えて商品を開発していく。

「単に、他社のブランドを借りて飲料商品を作っているのではない。(カフェと飲料事業の)活発なコミュニケーションが、商品開発の違い(味の違い)となって表れているのではないか」と、相澤氏は強調する。

伊藤園が嗜好の変化を捉えることができたもう1つの要因は、タリーズコーヒージャパンのバリスタによる徹底的な「監修」だ。

監修といっても、単に伊藤園の商品をタリーズ側がチェックするということではない。タリーズのバリスタが、伊藤園コーヒー飲料作りにおいて、豆の選定・調達から焙煎に関するノウハウの提供まで、各工程にかかわっている。

伊藤園はさらに、長年培ってきた飲料作りのノウハウをコーヒー飲料作りに注いでいる。

カフェで提供されるコーヒーと違い、飲料商品は長期保存させる必要がある。そのため、殺菌工程を経ても、温かくても冷たくても、美味しさを保てる技術が求められる。その点、伊藤園は緑茶飲料作りにおいて、茶葉を摘んでからの迅速な製造工程を確立している。

相澤氏は、「緑茶やコーヒーなどの無糖飲料はごまかしがきかない。お茶を長年手がけてきた伊藤園の知識が、コーヒー飲料作りにも生きている」と話す。

こういった伊藤園とタリーズの強みを持ち寄って開発した商品が、味への感度が高くなった消費者に響いたというわけだ。

課題は消費者との「接点」の拡大

好調を持続するタリーズ飲料だが、この先も販売数量を伸ばしていけるのかというと、そうとは限らない。ただでさえ、ライバルがひしめくコーヒー飲料市場での競争は激しい。

コーヒー飲料の主要な販路は自販機だ。ところが、約76万台の自販機を持つコカ・コーラや約37万台のサントリー食品インターナショナルに比べ、伊藤園は約14万台でしかない(自販機台数は飲料総研調べ)。

消費者とのタッチポイントが少ないため、商品に対する認知を広げる機会が他社と比べて少ない。

タリーズのボトル缶コーヒーの主要販路はコンビニだが、近年伊藤園が注力するのはスーパーやドラッグストアなどの量販店だ。バリスタズブラックの量販店導入率は2019年の約30%から、2022年には約56%まで急上昇した。伊藤園は今後も、プロモーションの強化や店頭陳列の拡張を図り、さらなる販売拡大を目指す。

競合に比べ自販機を通じた消費者との接触が限られる一方、タリーズ飲料にはカフェのファンが興味を持ちやすいという利点もある。これまで缶コーヒーになじみのなかった若年層の取り込みや商品認知度の向上が、一段成長のカギとなる。

(田口 遥 : 東洋経済 記者)