玉の輿婚を報告したら、音信不通になった未婚の女友達。久々に再会した彼女に言われた辛すぎる一言
モノが溢れているこの時代に、あえて“モノ”をプレゼントしなくてもいいんじゃない?と言う人もいるかもしれないけど…。
自分のために、あれこれ考えてくれた時間も含めて、やっぱり嬉しい。
プレゼントには、人と人の距離を縮める不思議な効果がある。
あなたは、大切な人に何をプレゼントしますか?
▶前回:同窓会で元カノに離婚したことを打ち明けられた32歳男。思わず、彼女をデートに誘ったら…
茜(34歳)「友達だと思ってたけど…」
「はぁ…」
私のため息に反応した夫が、申し訳なさそうに言った。
「ん?うん、ありがとう。仕事頑張ってね」
私は、哺乳瓶に粉ミルクを入れながら答える。
この粉ミルクは、牧草飼育乳牛のミルクが原料のオーストラリア製。
仕事を辞めた私が高価な粉ミルクを買えるのも、夫の稼ぎが十分にあるおかげ。
だから、育児がワンオペになることは承知の上だ。
悩んでいるのは、そこではない。
私が婚約してから一切の連絡が取れなくなってしまった、親友のユリのことだ。
― まさか出産もスルーされるとは、思ってなかったな…。
きっと夫に相談したら、「女ってめんどうだな」の一言で片付けられてしまう。
だから、ひとりで悩み続けるしかなかった。
◆
ユリと出会ったのは、28歳のとき。
西麻布で行われた著名なIT会社社長のバースデーパーティーに、ひときわ美人な女性がいた。
「そのMIU MIUのワンピかわい〜!」
「あ…これ、アウトレットでめちゃくちゃ安かったの!」
「え〜!いいな。すごく似合ってる」
まさかその美女が私に話しかけてくるとは思わず、かなりテンション高めに返事をしたのを覚えている。
その美人な女性こそが、ユリだった。
最初こそ、互いに食事会に誘い合ったりしていたが、すぐにふたりで遊ぶようになった。
「茜は彼氏いるの?」
「それがさ、できても全然続かないんだよね。もうすぐ30歳なのに焦る〜」
「そうなの?茜、めちゃくちゃかわいいのに」
「あはは、ありがと。ユリはどうなの?誰かいないの?」
そう聞くとユリは、地元の福岡から一緒に上京してきた彼氏がいることを私に教えてくれた。
その彼氏のことは好きだけど、東京の男に惹かれてしまうこと、彼氏の収入が物足りないことも。
だからユリは、彼氏に内緒でしょっちゅう他の男性とも遊んでいた。
東京を知ってしまった女なら、誰でも思うだろう。
彼氏よりも、もっといい男性がいるかもしれない。だから、まだ結婚はできないけど、保険はかけておきたいと。
気持ちは痛いほどにわかるから、ユリのことを軽蔑することはなかった。
「はぁ…」
ある日、ため息をつくユリに私は聞いた。
「どうしたの。今日、なんだかお酒飲むペース速くない?」
「うん。実はね……」
ユリが彼氏と別れたと聞いたのは、私が彼女と出会って2年が経った頃。私たちが、30歳を迎えた年のことだった。
ユリの彼氏は、10年も待たせてごめんの意味も込めて、30本のピンクのバラと共にプロポーズをしてきたらしい。
なのに、ユリは断ったというのだ。
「早く結婚したかったくせに…自分に嫌気が差す」と、その日のユリは朝方まで強いお酒を飲み続けていた。
だから言えなかったのだ。
私が付き合って3ヶ月の経営者と、婚約したことを。
◆
息子の昼寝中、私は大きな音を立てないように部屋の片付けを始めた。
ユリは今、どうしているだろうか。
ひと息ついたところで、何気なく彼女のInstagramを見てみた。
「あっ…!」
思わず声が出たのは、ユリのストーリーが更新されていたからだ。
単に私には見られないように設定にしていたのか、本当に久しぶりの投稿なのかはわからない。
けれど、アカウントが生きていたことにホッとした。
投稿には文章がなく、ただスタバのコーヒーを写したものだったが、私はハートを送った。
それから数分後、私はまたユリに驚かされた。
なんとユリから、メッセージが送られてきたのだ。
『茜、久しぶりだね。元気?』
― ユリ…!!
心は動いたのに、すぐに返信することはできなかった。
ユリは、ずっと音信不通だった。
結婚したことも出産したことも、私は投稿してきたが、それすら反応がなかった。
そんなの個人の自由だと言われればそれまでだ。だけど、傷ついたことも事実なのだ。
そんなことを思っていると、ユリからさらにメッセージが届いた。
『いきなり連絡してごめんね。反応くれたのが嬉しくて。よければ近々会えないかな?』
断る理由も見つからず、私は了承の返事を送った。
◆
「茜、久しぶり!」
「久しぶり、ユリ」
ユリが予約してくれたのは『フィオレンティーナ』。
子どもができてから、六本木ヒルズのレストランやグランドハイアットで食事をすることが増えた。
今日は子どもを預けてきたが、六本木に住んでいる私を気遣ってここにしてくれたのだろうか。
「昔、ここのテラス席に朝から来てたよね」
「うん。覚えてる。だいたい二日酔いだったけど」
「あはは、間違いない」
私たちはそんな会話をしながら、ユリはブラッドオレンジジュースを、私はミントティーを注文した。
ユリの纏っている空気は、あの頃と全然変わっていないように思えた。
「茜、ごめんね」
「ユリ…」
ユリは深呼吸してから、話し始めた。
「茜が結婚したことも、赤ちゃんができたことも知ってた。なのに、連絡しなかったし、お祝いもしなかったこと…」
「うん。正直、ちょっと寂しかったよ。でも、何か事情があったんでしょ?」
私が聞くと、ユリは首を横に振った。
「事情なんかない。ただ…悔しかったの。悔しくて羨ましくて、それでなぜか苦しくなってしまった」
ユリは涙を流しながら話し続けた。
「茜のこと友達だと思ってた。それなのに、そんなネガティブな感情が出てくる自分が嫌で…それで勝手に連絡を絶ったんだ。Instagramもミュートにしてたんだ」
― そうだったの…。
悲しさよりも、ようやくあの時の答え合わせができてスッキリした気持ちが勝る。
「ときどきインスタの投稿は見てた。だけど“いいね”ができなくて。最低だよね、ごめん」
「ううん。その気持ちわかるし、誰でも少しは持ってる感情だよ」
もしも、逆の立場だったらどうだろうか。
私だって、素直にユリを祝福できたかわからない。
「でね、ものすごく今さらなんだけど、これ結婚祝いと、出産祝い。もらってくれる?」
ユリは食事そっちのけで、私に紙袋をふたつ差し出した。
「えっ!?ふたつも?ありがとう」
ユリがくれたのは、リーデルのグラスとバーバリーのベビー服だった。
グラスはシャンパンでもワインでも使えるもので、ベビー服はバーバリーチェックが可愛いスリーピースだ。
時間をかけて選んでくれたことが伝わるプレゼントに、思わず胸が熱くなる。
「今度は、息子ちゃんにも会いたいな」
帰り際に、ユリはそう言った。
ユリが話さなかったので特に聞かなかったが、ユリはまだ結婚していないし、その予定もなさそうだった。
だからといって、私は優越に浸ることはなかった。
それよりも、またこうして友達に戻れた安心感の方が強かったからだ。
仕事を辞めたり、結婚したり、子どもを産んだりして女の生き方は変わっていく。
その時々で、関わる人たちが変わるのは仕方なくて、それを受け入れなければならない。
なぜなら、それは自分が選んだ人生だから。
けれど、こうやって再び縁が結ばれることもある。
それもまた必然かもしれないと、私はユリにもらったプレゼントを大事に抱えてタクシーに乗った。
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