冬のボーナスは期待できるか?

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年の瀬の足音が聞こえてくると、冬のボーナスが気になるものだ。

三菱UFJリサーチ&コンサルティングが2023年11月8日に発表した「2023年冬のボーナス見通し〜コロナ禍からの回復は続くも、回復ペースは鈍化」によると、冬のボーナス支給額予想は、民間企業で1人当たり40万1438円(前年比2.2%増)、国家公務員で1人当たり67万300円(前年比2.8%増)というもの。

これって喜ぶべき額か、それとも期待外れの額か、研究者に聞いた。

製造業平均が52万3398円、非製造業が37万8104円

三菱UFJリサーチ&コンサルティンの調査は、事業所規模5人以上の企業を対象に、厚生労働省「毎月勤労統計」や内閣府人事局資料などをもとに予測した。

2023年冬の民間企業のボーナスは、1人当たり40万1438円で、前年比プラス2.2%と、3年連続で増加するが、増加幅は前年(3.2%)から大幅に縮小する見込みだ【図表】。製造業の平均が52万3398円(前年比1.8%増)、非製造業の平均が37万8104円(前年比2.3%増)と、製造業が非製造業を上回る見込みだ。

また、支給される労働者の割合は82.4%(前年比0.2%減)と、3年ぶりにマイナスに転じた。コロナ前の2019年を下回る水準で推移する見込みだ。もっとも、雇用者数全体が増えているため、ボーナスが支給される事業所で働く労働者の数は4350万人(前年比1.6%増)と、過去最多を更新する見込みだ。

一方、国家公務員(管理職および非常勤を除く一般行政職)のボーナス(期末・勤勉手当)は、1人当たりの平均支給額が67万300円(前年比2.8%)と、民間を上回る伸び率を示す見込みだ【図表】。

春闘の歴史的賃上げに比べ、物足りなかった夏のボーナス

今回の冬のボーナス見通し、どう見たらよいのか。J-CASTニュースBiz編集部は、調査をまとめた三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部研究員の丸山健太さんに話を聞いた。

――民間企業の1人当たり平均支給額が40万1438円で、前年より2.2%上がる予想ですが、この伸び率は「上がってよかった」と喜ぶ数字なのか、「もっと上がってほしかった」という残念がる数字なのか、どちらでしょうか。

丸山健太さん 後者ですね。もっと上がってよかったと思います。実は、今夏のボーナスも期待外れの数字でした。支給額の伸び率は前年より2.0%増加しましたが、今春の春闘賃上げ率が、厚生労働省が集計した数字では3.6%と、30年ぶりの高水準を実現した割には、とても物足りない数字でした。

ボーナス算定の際には企業業績が参照されます。コロナ禍からの需要回復と円安を追い風に、2022年度の企業の経常利益は製造業、非製造業ともに過去最高を記録しました。しかも、人手不足が深刻になっており、完全失業率が2%台にまで下がっています。賃金をもっと上げて人手を確保しなくてはならなかったはずです。

企業のボーナスは、夏冬連動して支給されますから、今夏の期待外れの支給額が冬のボーナスにも影響するとみて、弊社では弱めの数字を出しました。

予想を上回る物価高が、経済回復の足を引っ張る

――それだけボーナスがもっと上がる条件がそろっているのに、なぜ、企業は出し渋っているのでしょうか。

丸山さん 注目すべきは、ボーナスをもらうことができる支給労働者の割合の数字です。昨年冬は全労働者の82.6%でしたが、今冬は0.2%減って82.4%と予想しています。この数字は今夏のボーナスでも下がりました。ボーナスを出せない企業が増えているということです。

理由は、企業の予想をはるかに上回る物価高が収まらないこと。厚生労働省が11月7日に発表した9月の毎月勤労統計調査を見ても、現金給与総額(名目賃金)に物価の変動を反映させた実質賃金は、前年同月より2.4%減となり、マイナスが18か月連続となっています。

「コロナ禍から立ち直って経済が正常化した」と言われますが、正常化にはまだ至っていません。実質賃銀だけでなく、名目賃金を見ても、正常化というほど上がっていません。経済回復を物価高が足を引っ張っているのです。

企業としてはボーナスを出しているつもりだと思います。ただ、長く続いたデフレ状態、そしてコロナ禍を経験したため、「経常利益がよくなったからといって、いきなり大盤振る舞いはできない」と、賃上げのマインドが消極的になっていると思われます。

――今後は来年の賃上げがどうなるかが焦点になりますね。

丸山さん はい。このまま、実質賃銀のマイナスが続くことになれば、個人消費が再び落ち込んでしまいます。現在の回復状態を支えているのは、国民が、コロナ禍の中で消費を抑えて貯金に回した「強制貯蓄」を取り崩して使っているからです。

来年(2024年)の春闘がポイントになります。今年の春闘の賃上げ率3.6%は、バブル絶頂期の1990年ごろに匹敵します。2年連続で大幅賃上げに成功して、物価上昇の勢いを上回ることができるかにかかっています。

上回ることができれば、賃上げと物価上昇の好循環が生まれて、デフレから脱却することができます。企業にとっても労働者にとっても、「何としても物価高を上回るのだ」という「勢い」が必須条件になります。

――その点、国家公務員の冬のボーナスは、民間企業に比べてウハウハの感じがしますが。

丸山さん 国家公務員のボーナスは昨年よりに2.8%増で、高いように見えますが、民間企業の相場を反映したかたちで給与法を改正して支給されます。民間より1年〜1年半のタイムラグがあります。民間企業がコロナ禍直後に急上昇した分が、ようやく今、遅れてやってきたということです。

(J-CASTニュースBiz編集部 福田和郎)