50代、これからどう暮らしていくかを考え始める人も多いのではないでしょうか。築50年越えの団地で日々節約や時短、インテリアの工夫を楽しみながら自分らしくひとり暮らしをしている50代のブロガー・きんのさんも、50歳を前にして暮らしを大きく変える選択をしました。

ここでは、本日発売の『54歳おひとりさま。古い団地で見つけた私らしい暮らし』(扶桑社)より、きんのさんの団地暮らしの工夫などを抜粋・再編集してご紹介します。今回は、50歳を前に団地へ引っ越すことを決めた理由について教えてもらいました

【写真】きんのさんが考えた団地のメリット・デメリット

築50年の団地での暮らしを選んだ理由。「ここで母を見捨てたら、私は一生後悔する」

49歳のとき、新築で購入した都内のマンションから、周囲に知り合いもおらず、壁も床もボロボロな古い団地へ引っ越したきんのさん。それまでも、山あり谷ありの人生だったといいます。

「今はおひとりさまを謳歌している私にも、結婚していた時期がありました。30代半ばでの結婚。家族、友人、みんなから祝福を受けた結婚式の日は幸せの絶頂でした。ところが、だんだんと二人の仲がうまくいかなくなり、お互いの人生のために前向きに離婚を決意。短い結婚生活でした。

結婚後に夫との生活リズムが合わなかったこともあり、悩んだ末に正社員の仕事を退職していました。その後派遣社員として再就職したものの、離婚後は一生ひとりで食べていくには心もとないと感じることも。正社員を目指したいと派遣会社のアドバイザーに相談するも、『その年で正社員は難しい』とバッサリ。

『低所得でなんの保障もないまま生きていくのか』と諦めかけていたのですが、派遣先の同僚や友人の励ましのおかげもあり、その後、就職活動に励みなんとか正社員になることができました。何事もやってみなければわからないので、あのとき一般論に惑わされて諦めなくてよかった、と思っています」

●やっとつかんだ穏やかな暮らし。そんなとき、母から入った電話は…

その後、老後も安心して暮らせる住まいが必要だと、マンション購入を決意したきんのさん。そのきっかけは、アパートの建て替えで引っ越しせざるをえなかった当時70代の母の家を一緒に探した際に、高齢者の契約が難しいという現実を突きつけられたから。

40歳、35年ローンが組めるギリギリの年齢で、これまで積み立てていたお金や節約生活で貯めたお金を頭金に、都内の分譲マンションを終のすみかとして購入しました。やっとつかんだ穏やかな暮らし、と心から安心したそうです。

「暮らしに余裕も出てきた頃、母から電話が入ったのです。『ひとりで暮らすのは不安で仕方ない。もう死んだ方がいいのかなぁ。だれかそばに来てほしい』。母が暮らす団地に空き部屋が出たから、そこに住んでほしい、と…。しかもすでに頭金は払ってしまったと言うのです。マンション暮らし9年目の出来事でした」

●都会の快適なマンション暮らしと、老いてゆく母。選んだのは…

かつては母親に対し、少し複雑な気持ちもあったというきんのさん。

「幼い頃両親が離婚し、父と祖母に育てられました。母と生活した時間は短く、この境遇を恨んだこともあります。就職で上京した際に同じく東京にいた母と再会し、交流が増えました。母はお茶目で無邪気な人。色々あっても憎めないのはやはり母親だから。ケンカもするけど、すぐ仲直りできる不思議な関係です。母のSOSに応えられるのは私だけ、それだけははっきりしていました。

確かに、最近の母の異変には気づいていました。足元はおぼつかないし、同じ話を何度もしたり、同じものを大量に買ってきたりすることも。母の老後を見るのは私しかいない、でも…。母を選べば、思い描いていた私の夢は捨てることになります。着物で美術館、快適でおしゃれな住まい、気ままなシングルライフ、すべて諦めなくてはならなくなる。しかも団地は職場から往復3時間の距離にありました」

●問題が起きたときは、メリットとデメリットを整理

母を取るか、自分の夢を取るか――。きんのさんにとって、とても難しい問題だったと言います。

「問題が起きたとき、いつもやることがあります。それはノートにメリットとデメリットを書き出すこと。すると、団地と都内のマンション、どちらもメリット、デメリットは同じぐらいあることが見えてきました」

「それなら自分が譲れないこと、失いたくないことはなんだろう。ここで母を見捨てたら、私は一生後悔する。私は母を、そして団地を選びました」