外傷などにより睾丸(精巣)が陰嚢(いんのう)内の所定の位置から外れることがまれにあります。これは「精巣脱臼」と呼ばれ、オートバイ事故の結果、右精巣の外傷性脱臼を負った男性の事例が報告されています。

Traumatic testicular dislocation in the abdomen: diagnosis and management | BMJ Case Reports

https://casereports.bmj.com/content/16/9/e254530



Motorcycle crash dislocated a man's testicle into his abdomen | Live Science

https://www.livescience.com/health/motorcycle-crash-dislocated-a-mans-testicle-into-his-abdomen



この事例は症例の報告をまとめる学術誌「BMJ Case Reports」で、2023年9月26日に公開されたもの。

主治医によると、オートバイ事故に遭った男性の右精巣は、バイクから転落したときの衝撃で陰嚢内から鼠径(そけい)部の細い通路「鼠径管」と呼ばれる部分を通り、腹部へと押し出されていたとのこと。



外傷などによって「精巣脱臼」が起きることは極めてまれで、症例のうち約80%は、バイク事故に遭った20代半ばの男性において発生しているとのこと。その中でも、今回のように精巣が腹部まで達するものは6%ほどだそうです。

今回の事例では、主治医はまず鼠径部にたまった血を抜いて、酸素不足に陥っていた精巣が正常な色に戻るまで温めました。その後、「精巣固定術」と呼ばれる手術によって、腹部に移動していた右精巣を外科的に元の位置に戻したとのこと。

精巣固定術は、精巣が発達初期に正常位置まで降下しなかった先天的欠損症の小児にも用いられることがあるそうです。

精巣脱臼は見つけるのが難しく、過去には1年にわたり気づかれなかったケースもあるそうです。気づくのに遅れると、生殖能力やホルモン産生に重大な影響を及ぼす可能性があるため、迅速な判断が必要だと論文の著者らは述べています。

今回の事例でも、主治医は精巣脱臼だと気づくのにわずかに遅れ、当初は活動性出血の管理に重きを置いていたとのこと。しかし、CTスキャンによって精巣が腹部に移動していることがわかり、処置が行われました。

当該男性の精巣は、6カ月以内に正常な状態に戻り、ホルモンや精液の生成といった重要な機能の損傷の兆候はみられなかったとのことです。