奇点汽車の第1号モデル「iS6」は、結局量産に至らなかった(同社ウェブサイトより)

4〜5年前には中国の新興EV(電気自動車)メーカーの先頭集団につけていた奇点汽車(会社名は智車優行科技)が、結局1台のクルマも市販することなく消滅しようとしていることがわかった。

中国最高人民法院(最高裁判所)が運営する倒産情報サイトの全国企業破産重整案件信息網によれば、奇点汽車傘下の研究開発会社である奇点汽車研発中心が、8月15日に初回の債権者会議を開催。従業員が保有する総額601万3000元(約1億2078万円)の債権への対応について協議を行った。これに先立つ6月30日、江蘇省蘇州市相城区の裁判所は奇点汽車研発中心に対する債権者の破産申し立てを受理していた。

主要関連会社は訴訟まみれ

同じく全国企業破産重整案件信息網によれば、別の傘下企業である安徽奇点智能新能源汽車も、6月30日から(債権者の申し立てによる)法的整理のプロセスに入り、債権者会議を10月に開催する予定だ。同社の経営権は(オフショア企業の)智車優行科技上海が握っており、奇点汽車のなかではクルマの製造部門の位置付けだった。

奇点汽車には主要な関連会社が18社あり、その大部分が(賃金未払いや債務不履行などにより)訴訟を起こされている。中核会社の智車優行科技は、8月20日時点で総額9825万9000元(約19億7366万円)の支払いを求められており、傘下の(オフショア企業の)智車優行科技北京も総額4648万800元(約9億3363万円)の係争を抱えている。

これらの情報を総合すれば、奇点汽車の退場がもはや避けられないのは明らかだろう。

奇点汽車は2014年に創業し、当初は「造車新勢力(完成車メーカーへの新規参入組)」と呼ばれる新興EVメーカーの先頭集団の一角だった。

2018年4月には、第1号モデル「iS6」の量産を近く開始すると発表。この時期までに量産計画の発表にこぎ着けていた新興EVメーカーは、蔚来汽車(NIO)、小鵬汽車(シャオペン)、威馬汽車(WMモーター)くらいしかなかった。


奇点汽車は北京に豪華なショールームを開設し、イメージアップに余念がなかった(同社ウェブサイトより)

ところが、他の新興EVメーカーが2019年以降に続々と量産を開始したのとは対照的に、奇点汽車は手形の不渡りを繰り返し、賃金の未払いや債務不履行などの窮状が露呈。投資家の信頼を失い、経営立て直しの機会を逸してしまった。

日本の伊藤忠商事も出資

奇点汽車はどこで躓いたのか。「造車新勢力」は2016年から2018年にかけて、中国の地方政府やベンチャー投資家の熱い期待を集めていた。

安徽省銅陵市、江蘇省蘇州市相城区、湖南省株洲市などが奇点汽車の工場誘致を競うなか、同社は8回の資金調達ラウンドを通じて総額170億元(約3415億円)の投資を集めたと発表。出資者のリストには地方政府系の投資会社のほか、アメリカのインテル・キャピタルや日本の伊藤忠商事の名前もあった。


本記事は「財新」の提供記事です

しかし財新記者の取材によれば、上記のうち実際に払い込まれた金額は3分の1未満の50億元(約1004億円)に過ぎなかった模様だ。量産を実現した他の新興EVメーカーの資金調達額に比べて著しく少なく、奇点汽車の事業計画が早期から問題を抱えていたことを示唆する。

(財新記者:謝韞力、戚展寧)
※原文の配信は8月23日

(財新 Biz&Tech)