初デートの後、毎日LINEしていたのに…。ある日突然男からの連絡が途絶えたワケ
最近は、離婚も再婚も、珍しいことではなくなった。
それでも、シングルマザーの恋愛や結婚には、まだまだハードルはある。
子育ても、キャリアも、これ以上ないくらい頑張っている。
だけど、恋愛や再婚活は、忙しさや罪悪感からついつい後回しに…。
でも、家族で幸せになりたい、と勇気を持って再婚活に踏み出せば「子どもがかわいそう」「母親なのに…」と何も知らない第三者から責められる。
◆これまでのあらすじ
再婚活に励む沙耶香。そんな時、取引先の社長・隆二(39)からデートに誘われる。しかし、子持ち同士の再婚は前途多難だと友達から聞いて、関係を進めることを躊躇するが…。
▶前回:バツイチ同士の恋は難しい。再婚間近だった女が、直面した悲しい現実
シングルファーザーとの恋愛
日曜日の10時過ぎ。
朝の柔らかく暖かい日差しが、いつもよりもキラキラとして見える。
娘の美桜を中目黒にあるバレエ教室まで送り届けた後、急いで待ち合わせの『CAFÉ GITANE』へと向かった。
「おはようございます」
先に入って仕事をしていた隆二は、沙耶香を見るなり嬉しそうな笑顔を向け、パソコンを閉じた。
「今日はお迎え、何時でしたっけ?」
「12時なので、15分前にここを出れば大丈夫です。隆二さんの方は?」
「うちは母が迎えに行ってくれるので」
― こうやって、子どもが習い事に行っている隙間時間に会う感覚って、なんか懐かしい。
部活や塾の合間をぬって彼氏と会っていた学生時代を思い出し、沙耶香は、くすぐったい気持ちになる。
昨日の由梨から「子持ち同士の恋愛は難しい」という忠告を受け、沙耶香は、直前まで行くかどうか迷っていた。だが、彼の顔を見た途端「来て良かった」と気持ちが切り替わる。
学生時代は2人ともテニス部に入っていたことや、本は電子書籍よりも紙派で、ミステリーが好きなことなどがわかり、盛り上がった。
気がつけば、残り10分。
「あっという間ですね」
隠すこともなく、隆二は寂しそうな顔をする。少し沈黙したかと思うと、ゆっくりと口を開いた。
「僕は以前、ずっと仕事ばかりで、元妻にすべてを任せていたんです。3年前のある日、突然彼女が子どもたちを置いて、出て行ってしまいました。
それからはもう、恋愛なんてできないと思っていたのですが、こうして沙耶香さんと出会って、自然に惹かれている自分に気がつきました。今日もすごく楽しかったです」
「私も、楽しかったです」
沙耶香は本心からそう答える。すると隆二が真剣な目をして言った。
「ゆっくりで良いので、僕のことを前向きに考えてもらえませんか?僕はこれからも会いたいと思っています」
「…はい」
まだちゃんとしたデートすらできていないが、お互いに仕事を通じて、人柄はわかっている。
気がつけば沙耶香も、隆二に惹かれている。
「もう時間ですよね、また連絡しますね」
「はい、また」
子連れ同士のデートは慌ただしい。名残惜しさの残る中、沙耶香は急いで美桜を迎えに行った。
◆
その日の夜。
娘の美桜を寝かしつけた後、Netflixを観ながらワインを飲んでいると、LINEが届いた。
『Ryuji:今日は楽しかったです。僕はあれから子どもたちと、水族館にいきました』
メッセージと共に、親子で写る楽しそうな写真が一緒に送られて来た。
『Sayaka:今日はありがとうございます。私は娘と、公園に行きました』
沙耶香も昼間に撮った写真を送る。親以外に、家族写真を送り合うなんて久しぶりで、そんな相手がいることが嬉しかった。
離婚した当初は、元夫に美桜の様子を写真で送って知らせていた。
だが、元夫からは、ほとんど返信がなく、送るのをやめてしまった。
『Ryuji:楽しそうですね、僕も行きたかったな。早くみんなで遊べるようになると良いな』
隆二からの返信に、沙耶香は微笑む。けれど昨日、由梨に言われた言葉が気になった。
“シングルファーザーとの恋はいばらの道”。
― 由梨はそうだったかもしれないけど、シングルファーザーと結婚している人だっているし。隆二さんならきっと大丈夫…。
あれだけ当分男性はいらない、と思っていたのに、自然と自分が隆二との将来を考えていることに、沙耶香自身驚いた。
『Ryuji:次、会えそうな日はありますか?』
『Sayaka:金曜日のランチか、土曜日の午後少しなら大丈夫です』
『Ryuji:じゃあ、両方会ってもらえますか?ちょっと欲張りすぎかな?』
積極的な隆二に、沙耶香は思わず笑う。まだ始まったばかりの恋愛の芽を、大事に育てていきたい、と感じた。
◆
金曜日の朝、隆二からのLINE。
『Ryuji:ごめんなさい、今日のランチ、急な仕事で行けなくなりました』
『Sayaka:了解です。明日楽しみにしています』
少し残念だったが、沙耶香は気を取り直す。
だが土曜日、今度は美桜が熱が出てしまった。
『Sayaka:ごめんなさい、娘が熱が出たので、またにしてもらえますか?』
『Ryuji:大丈夫ですか?何か必要なことがあったら言ってください。お大事に』
こんな感じで、お互いの子どもが風邪になったり怪我をしたり、または仕事が入ったりと続き、結局5回連続キャンセルが続いた。
しかし、LINEは毎日送り合い、たまに電話で話していたので、お互いに熱が冷めることはなかった。
そうして1ヶ月ほど経ったある日。
突然、隆二からの連絡が途絶えたのだ。
― どうしたんだろう…?何かあった…?
LINEを送っても、既読はつくが、返信がない。いつもなら送ったら数時間もしないうちに返信が来ていた。
― 仕事が立て込んでいるのか、家族に何かあった…?それとも、隆二さん自身に何か…?
心配になり、電話をしてみるも繋がらない。
隆二の会社を担当している後輩にそれとなく探りを入れてみたが、特に変わりはないと言う。
不安に思いながら過ごしていたある夜、隆二からLINEが来た。
『Ryuji:連絡できず、ごめんなさい。会って話したいことがあるんですが、どこかで時間取れますか?』
大きく息をふーっと吹くと、まずは隆二が無事だったことに安堵した。
『Sayaka:無事で良かった、心配しました。土曜日夕方なら、少し時間が取れます』
『Ryuji:ありがとうございます。沙耶香さんの良い時間をまた教えてください』
妙に丁寧で素っ気ない返信に、沙耶香は悪い予感がした。
◆
「ごめんなさい!」
美桜を母に預け、待ち合わせの『MERCER CAFE DANRO』を訪れるなり、隆二は土下座する勢いで、テーブルに頭をつけて謝罪した。
「あの…顔を上げてください…」
困惑しながら沙耶香が言うと、隆二は申し訳なさそうに少しだけ頭をテーブルから離した。
「あの、実は…少し前に元妻が帰って来たんです」
隆二の話はこうだった。
元妻は3年前、ある男性と知り合った。
彼女は育児や家事だけに追われる毎日で、世間から取り残されたような気持ちになっていたという。
そこで参加したビジネスセミナーで出会ったのが、その男性だった。
男は甘い言葉を囁き、元妻に家の金をこっそりと持ち出させたのだ。
「初めは、ビットコインで稼ぐ方法を色々と教えてもらって、実際に少し稼いだらしいんです。でもどんどんと稼げなくなって、家のお金は減る一方で。
その時に僕が彼女を叱ったのが原因で、家出してしまったんです。でも今思えば、その男性に半分洗脳されていたんでしょうね」
そうしてしばらくその男の下で働いていたが、色々とあり、今回戻ってきたようだった。
「正直、彼女のことは心から許せたわけじゃありません。
ただ、仕事が忙しくて彼女に家のことを丸投げにしていた自分にも責任はあったし、実際に家事育児をしてみて、どれだけ大変か気がつきました」
隆二は険しい顔をしながら、アイスコーヒーを流し込む。
「本人もすごく反省しているようだし、何より子どもたちが喜んでいるので。もう一度、彼女を受け入れることに決めました」
「そうでしたか…」
突然のことに、沙耶香は正直ショックを受けた。
「沙耶香さんのことは本当に好きでしたし、ずっと一緒にいられたらと本気で思いました。こんな結果になってしまって、本当に申し訳ありません」
深々と頭を下げる隆二を、沙耶香は受け入れるしかなかった。
帰り際、由梨の言葉を思い出す。
― “お互いに、子どもが1番だから”。
彼も結局、子どものことを1番に考えた結果なのだろう。とても残念だが、彼の選択を尊敬できる気持ちもある。
― 私だったら、どうしてたかな…?
そんなことを思いながら家に帰ると、マンションのロビーに男が1人、座っていた。
「沙耶香、久しぶり」
それは、沙耶香の元夫だった。
▶前回:バツイチ同士の恋は難しい。再婚間近だった女が、直面した悲しい現実
▶1話目はこちら:ママが再婚するなら早いうち!子どもが大きくなってからでは遅いワケ
▶︎NEXT:9月18日 月曜更新予定
元夫が突然現れた理由とは?沙耶香も元夫と元サヤに…?