「ジンギスカンダンス」を踊るファイターズガール(写真:共同)

今年3月30日に開業した、北海道日本ハムファイターズの新本拠地=エスコンフィールドHOKKAIDO(以下「エスコンF」)と、それを含む北海道ボールパークFビレッジ(以下「Fビレッジ」)。

好調に滑り出したようだ。日本ハム株式会社の今期第1四半期の決算説明会資料によれば、「ボールパークその他事業」は87億円の売り上げ、前年同期比は+76.0%という高水準。さらに同事業の事業利益は25億円、前年同期比は何と200.9%。つまり前年同期の倍の水準を叩き出した。

決算説明会資料はこう明言している――「試合観戦だけではなく、試合前後の時間帯や非試合日での集客力向上により、北海道ボールパーク Fビレッジ全体の来場者数が増加し、売上高が増加」「自社保有施設となり、飲食・グッズ・広告 スポンサーシップ収入が収益性の向上に寄与」。

「自社保有施設」という言葉には補足が要るだろう。実は、札幌ドームの管理運営主体は「株式会社札幌ドーム」だった。ファイターズは「家賃」を払い、かつ球場に関する広告収入も入ってこない状態だったという(デイリー新潮/2018年4月14日)。

そんな状況の中の打ち手として、ファイターズは、他球団のような球場買収、もしくは「指定管理業者」制度の導入ではなく、球場を自前で新築するという大きな賭けに出たのだった。

野球ファンにとって「最適」にして「最高」の球場

実は、エスコンF/Fビレッジについて、私は昨年も取材をしており、エスコンF単体というよりもFビレッジとしての可能性に言及し、大きな期待を寄せる記事を書いた。

しかし今回の取材(8月15日・16日の対マリーンズ戦)では、日本初の開閉式屋根付き天然芝球場=エスコンF自体の大きな魅力が見えてきたので、ここにレポートしたい。

結論から言えばエスコンFは、野球ファンにとって「最適」にして「最高」の球場だった。

まずは昨年取材で撮影した建設中の写真と現在の写真を見ていただきたい。



(写真:どちらも筆者撮影)

建設中には、平原の中にそびえ立つまさに「威容」という感じだったが、いざ開業してみると、その独特の形状が、威圧感・圧迫感を感じさせない、どこか人懐っこい感じを醸し出していることに気がついた。

エスコンFの建築に向けたノンフィクション小説=鈴木忠平『アンビシャス 北海道にボールパークを創った男たち』(文藝春秋)に、新球場建設のプロジェクトリーダー的存在である球団社員・前沢賢の思いがつづられている。

――「新しいだけの近未来的なフォルムにはしたくない。誰もがいつかどこかで見たことがあるような普遍的なデザインにしたい」

フィールドとの一体感を感じさせる中身

さらに驚いたのは中身だ。こちらもいよいよ威圧感がなく、いい意味でこぢんまりとしていて、フィールドとの一体感、臨場感を強く感じさせるのである。

エスコンFは、実のところ建物としてはとても広い。5万平方メートルもあり、これまでのNPB本拠地最大である福岡paypayドームの4.7万平方メートルをゆうに超える。

しかし収容人数は3万5000人で、かつての本拠地札幌ドーム(4万2274人・野球時)を大きく下回る。またホームから左翼ポールへの距離は約98メートルで、こちらも札幌ドーム(約100m)以下。外野フェンスも低くなり、新庄剛志監督は「日本一狭い球場。本塁打が出やすい」と述べている(中日スポーツ/2023年3月30日)。

またファウルゾーンも狭い。なお、狭い結果として、バックネット方向への距離が短すぎるとNPBに指摘されたのは記憶に新しい。

私が最も驚いたのはスタンドだ。2日(2試合)観戦したが、1日目、最上層である3階席の後方(STAR LEVEL Sec.427)から観たのだが、それでも、他球場と比べて、フィールドがとても近く感じたのだ。


(写真:時事)

その秘密は構造にある。3層構造となっているのだが、1階席が19段、2階席が16段と段(列)数が少なく(それぞれSec.130、Sec.230をカウント)、その分2階席、3階席が前方にかなりせり出していて、「位置は高いけれど、遠巻きにはならない」構造になっているのだ(下写真、内野側の3層構造に注目されたい)。


(写真:時事)

球場の座席について、一般的には1階席の前方=「低く・近い」席がありがたがられ、料金も高い。しかし私含む野球ファンには、高い席からフィールド全体を眺めて、守備シフトや走者の動きなどを確認したいというニーズを持つ人が少なくない(そういう人は逆に、高額なフィールドレベルのシートを好まない)。

ただ、札幌ドーム(1層構造)がその典型だったが、高さ目当てで後方席に行くと、普通の球場の場合、フィールドからいよいよ遠く離れてしまい。一体感、臨場感が損なわれてしまう(そののんびり感も別の意味でいいのだが)。

それがエスコンFはスタンドが3層構造で、かつ前方にせり出している。ファウルゾーンの狭さも相まって、結果フィールドが「高く・近い」。

「高さを取るか・近さを取るか」、そんな野球ファンを悩ませ続けた究極のテーマを解決する「高く・近い」席。これはたまらない。少なくとも私は、次回も3階席を狙いたいと思う。

野球ファンの心をつかむ仕掛け

また、シートも座りやすく(球団公式サイトによれば、8割以上の座席座面にはクッションもしくはパット付きのモデルを採用)、また座席の角度もフィールドを観やすいかたちで設定されている。

細かい話をすれば、ブルペンがスタンドから見えない球場が増えた中、外野のブルペンが丸見えなのもいい(私は昭和の甲子園、ラッキーゾーン越しのブルペンを想起した)。

基本的な話が後回しになったが、いちばんの売りである「開閉式屋根付き天然芝球場」も、もちろん超・野球ファン向け。

私のような遠方(関東)からの観客も、開閉式屋根だと天気に左右されないので集客しやすいし、1日目は屋根が開いたのだが、抜群の開放感だった。

そして天然芝、見た目に爽快だし、言うまでもなく選手の身体にも優しく、思い切ったプレーができる。ちなみに、先の『アンビシャス』には、札幌ドームの人工芝に対する選手の不満が赤裸々に書かれている――「このグラウンドではダイビングキャッチができない」「この球場で三連戦をやると、身体がボロボロになる」。

まとめると、エスコンFの魅力は、野球ファンに向けた「最大」から「最適」へのシフトである。かつての広告コピーでいうところの「大きいことはいいことだ」的な札幌ドームから「こじんまりして高くて近くていいことだ」的なエスコンFへ。言わば昭和・平成から令和へのシフト。

関東に住んでいると、エスコンFのPRとして、「サウナとクラフトビールの新球場」という情報ばかりが届いていた。しかし、今回の取材を経て、エスコンFの「最適」性、その結果としての野球ファンにとっての「最高」性も、もっと打ち出していくべきだと思った。少なくとも私にとっては、マツダスタジアム、ほっともっとフィールド神戸を超えて国内最高球場に躍り出たのだから。

外野手が躍動するエスコンFという舞台

ファイターズは「外野のチーム」だと思う。2006年「北海道日本ハムファイターズ」としての初の日本一となったシーズンの外野手は、新庄剛志、稲葉篤紀、森本稀哲。札幌ドームの(硬い)人工芝の上で、グラブを頭に乗せて膝をついていたあの3人が今や、そのファイターズの監督、GM、コーチだ。

そして今回、私が観た2試合のファイターズの外野手は、松本剛、万波中正、五十幡亮汰。昨季首位打者の松本剛、本塁打リーグ2位の万波中正(8/24現在)、そして超・俊足の五十幡亮汰(中学時代、短距離走でサニブラウンに勝ったことで有名)が、はつらつとしたプレーを見せた(ファイターズが連勝)。

特に万波中正の躍動感は半端ない。ファイターズを超えて、これからの日本プロ野球を背負っていく逸材だと断言したい。まっすぐ育ってほしいと願う。

外野手が躍動することで、次の黄金時代を迎え入れる。そんな躍動の舞台として、屋根が開いて太陽を浴びた天然芝が敷き詰められた「最適」な面積の外野は「最高」だろう。そして、その躍動の舞台を野球ファンがじっくりと見つめるのに、エスコンFの「最適」なスタンドもまた「最高」だ。


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(スージー鈴木 : 評論家)