なかなか会えない新規の男か、理解してくれる元カレか…。33歳の女性が選んだのは？

2023年8月9日 5時2分

恋人や結婚相手を探す手段として浸透した「マッチングアプリ」。

接点のない人とオンラインで簡単につながることができる。

そう、出会うまでは早い。だけど…その先の恋愛までもが簡単になったわけじゃない。

私が、僕が、あの時NGを出したワケ。ここでこっそりと教えてあげる。

▶【Q】はこちら：激務な外銀女子とマッチング。デートの約束ができないまま、深夜に訪れたバーで偶然会えたが…

Episode11【A】：横山舞子（33）
仕事が忙しい女は恋愛ができない？

「あの…違ったらすみません、舞子さんですか？」

聞き覚えがないのに、なんだか懐かしい声だった。

「あ！健介くん？アプリの」

私は健介には会ったことがない。

けれど、マッチングアプリのプロフィール画像と違いがない容姿のおかげで、すぐにわかった。

「そう！！まさか、ここで会えるなんてね。ひとり？一緒に飲もうよ！」

お互いの予定が合わず、会いたくても会えなかった人。

まさか、なんの約束もしていない今日、偶然に会えるとは思わなかった。

だけど、私はひとりで来ていない。

― タイミング、悪すぎるよ…。

健介とは、きっと運命の相手じゃなかったのだ。

私は、そう思うことで心の中を整理することにした。

会いたいのに会えない

『舞子：やっと仕事が終わりました。疲れた～』

健介とマッチングアプリで知り合ったのは、1ヶ月前。

それから2週間ほど、私たちはほぼ毎日、連絡を取り合っていた。

おはようから、おやすみまでとは言わないが、まるで付き合っているかのような頻度で、気兼ねなくメッセージを送った。

それができたのは、健介のことが気になっていたから。

『健介：おつかれさま。実は僕も、さっき会社出たところ。飲み行っちゃう？笑』

『舞子：行きたいんだけど、これから先輩と飲みに行かなきゃで＞＜』

『健介：そっか。じゃあ、また行けそうな日教えてね』

私は六本木に住んでいて、健介は麻布十番だ。

こんなに近いところにいるのに、仕事が終わる時間が読めないので、事前の約束はできない。

そうなると、突発的に誘ったり誘われたりするしか方法がないのだが、これもなかなか合わない。

会いたいのに会えないのは、心底もどかしかった。

私はため息をつきながら、先輩が待つ六本木のビアバーへ向かった。

― あっ、そうか。土日に会えばいいじゃない。

そう気づいたのは、1杯目のクラフトビールを飲み終えた頃だった。

『舞子：来週の土曜とか空いてないかな？』

私は、健介にメッセージを送る。

『健介：ごめん、その日は友達の結婚式だ。日曜日は？』

― 結婚式か…。

『舞子：そうなのね。日曜日は、姉の子どもを見ることになってて、、』

『健介：僕ら、本当に予定が合わないね。笑』

健介が言うように、私たちはとことん運に突き放されている。

まるで、会うことを禁じられているかのように。

この日から、なんとなくふたりのテンションが下がり、毎日のように連絡を取ることはなくなった。

元彼登場

それからしばらく経ったある日のこと。

『フミヤ：舞子、元気？』

仕事中に送られてきたメッセージ。それは、半年前に別れた元彼からだった。

『舞子：元気だよ。なんかあった？』

『フミヤ：ちゃんと食べてるかな～って思って。今日家に行っていい？知り合いから高級な肉もらったから、一緒に食べよ』

― いやいや…私たち、別れたよね。

そう思ったものの、内心嬉しかった。優しい言葉をかけられるのが、久しぶりだったからだ。

フミヤがうちのマンションに来たのは、22時すぎ。

私の仕事が終わらず、予想よりも遅くなってしまった。

「舞子、痩せたな。それ以上痩せたらなくなっちゃうぞ」

でも、フミヤは時間のことは気にしていないようだ。

「大丈夫。ほら、ちゃんと贅肉ついてるよ」

「どれどれ。本当だ！これ、ステーキにするのがいいよな？舞子ちゃん焼いて？」

「もう～。結局、私？」

そんな会話のやり取りも、懐かしくて頬が緩む。

フミヤと別れたのは、私の仕事が忙しかったせいだ。

彼女らしいことをしてあげられないのが申し訳なくて、私から別れを切り出した。

彼は復縁を望んでいると共通の友達から聞いていたが、知らんぷりしていた。

そのほうが、フミヤのためだと思ったからだ。

「ねぇ、フミヤ。まだ私のこと好きでいてくれてる？」

「うん。好き。じゃなかったら、こんな美味しいお肉、独り占めするよ」

フミヤが歯をだして笑った。

「私、転職しようと思ってるんだよね。ヘッドハンティングってやつ。そしたら、今よりは少し時間ができるかもしれない。だから…」

私がそこまで言うと、フミヤの顔が明るくなった。

「ほんと？じゃあ、もう一度、付き合ってください！」

― 言おうと思ったのに…。

ITの会社を経営しているフミヤ。社会的地位もあっていろんなものを背負っているのに、私の前ではただの素直で優しい男の子。

そんな彼を、愛おしく思った。

◆

「舞子？なんか元気ない？」
「ううん！そんなことないよ」

東京エディション虎ノ門1階の『Gold Bar at EDITION』。

化粧室から戻ったフミヤは、ほろ酔いで私に言う。

「再会したタイミングで、舞子が転職することになって、やっぱり俺たち運命かもな」

― タイミング…ね。

もし、もう少し早く転職を決めていて、健介とすぐに会っていたら、今私の横にいるのは、彼だったかもしれない。

それか、どんなに夜中でもいいから、強引に会おうとしてくれたら…。

そんなことを思ったが、もうどうにもならない。

少し離れた席で飲んでいたはずの健介は、いつのまにかいなくなっていた。

「そうだね。フミヤ、ありがとう。これからまたよろしくね」

「うん。こちらこそ」

私は、二度と会わないであろう健介に、心の中で幸せを祈った。

今度は、タイミングが合う女性と、楽しく恋愛ができますようにと。