楽天・浅村栄斗(左)とロッテ・佐々木朗希【写真:矢口亨、小林靖】

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上位打線の活性化により得点力が増した楽天

 7月末時点で、各チーム間のゲーム差が3〜4ゲームと等間隔に並んでいるパ・リーグ。徐々に序列が見え始めてきた7月のパの「月間MVP」を、セイバーメトリクスの指標で選出してみる。

 選出基準は打者の場合、得点圏打率や猛打賞回数なども加味されるが、基本はNPB公式記録を用いている。ただし、打点や勝利数などの公式記録は、セイバーメトリクスでは個人の能力を如実に反映する指標として扱わない。そのため、セイバーメトリクス的にどれだけ個人の選手がチームに貢献したかを示す指標で選べば、公式に発表されるMVPとは異なる選手が選ばれることもある。

 まずは、7月のパ・リーグ6球団の月間成績を振り返る。

○楽天:15勝7敗
得点率4.64、打率.281、OPS.775、本塁打24
失点率3.67、先発防御率3.87、QS率40.9%、救援防御率2.82

○ロッテ:13勝7敗
得点率4.30、打率.253、OPS.712、本塁打18
失点率3.70、先発防御率3.68、QS率50.0%、救援防御率3.16

○オリックス:12勝7敗
得点率3.84、打率.264、OPS.722、本塁打20
失点率3.75、先発防御率4.00、QS率31.6%、救援防御率2.35

○西武:10勝10敗
得点率3.05、打率.247、OPS.666、本塁打12
失点率2.82、先発防御率3.02、QS率55.0%、救援防御率2.37

○ソフトバンク:7勝15敗
得点率3.32、打率.242、OPS.662、本塁打16
失点率3.99、先発防御率3.65、QS率50.0%、救援防御率3.19

○日本ハム:5勝16敗
得点率3.10、打率.240、OPS.643、本塁打14
失点率3.91、先発防御率4.12、QS率42.9%、救援防御率2.91

 月間首位に立ったのは楽天である。上位打線の活性化により得点力が増強し、月間得点率4.64はリーグトップ。また、ロッテも月間得点率4.30となっており、好調をキープしている。

 7月のパ・リーグで目立ってしまったのは、ソフトバンクと日本ハムの大型連敗だろう。ソフトバンクは12連敗中、2得点以下が10試合と得点力不足に苦しんだ。また日本ハムは13連敗中8試合が1点差負けと、接戦での弱さを露呈した。両チームとも投手陣が大崩れしていない中での連敗だっただけに、歯痒い思いだっただろう。

バットに当てても約7割がゴロのロッテ・佐々木朗

 そんなパ・リーグのセイバーメトリクスの指標による7月の月間MVP選出を試みる。投手評価には、平均的な投手に比べてどれだけ失点を防いだかを示す「RSAA」を用いる。「RSAA」の上位ランキングは以下の通りとなった

○佐々木朗希(ロッテ)
RSAA:9.57、登板3、イニング21回、防御率0.86、WHIP0.67、奪三振率14.57、QS率100%、HQS率67%

○山本由伸(オリックス)
RSAA:5.82、登板3、イニング24回2/3、防御率1.46、WHIP0.85、奪三振率9.49、QS率100%、HQS率100%

○今井達也(西武)
RSAA:5.26、登板4、イニング29回、防御率0.62、WHIP0.76、奪三振率7.45、QS率100%、HQS率100%

○種市篤暉(ロッテ)
RSAA:3.43、登板4、イニング24回2/3、防御率4.38、WHIP1.38、奪三振率10.95、QS率50%、HQS率50%

○松井裕樹(楽天)
RSAA:3.42、登板9、イニング8回1/3、防御率0.00、WHIP0.96、奪三振率11.88、7セーブ、1ホールド

○板東湧梧(ソフトバンク)
RSAA:2.64、登板3、イニング17回2/3、防御率3.06、WHIP0.91、奪三振率6.62、QS率33%、HQS率33%

 なお、上記のランキングに掲載されていないチームのRSAA上位の選手は、以下の通りである。

○福田 俊(日本ハム)
RSAA:3.07、登板9、イニング10回、防御率0.00、WHIP0.60、奪三振率7.20

 7月に圧倒的な数値を記録したのは佐々木朗である。3試合の登板ながら、78人の打者に対し奪三振34で、与四球はわずかに2。「K/BB」は驚異の17.0を記録した。また奪空振り率も25%あり、バットにボールが当たったとしてもゴロ率は69%となっている。現在は左脇腹の肉離れで離脱中だが、好調ロッテの大黒柱としてチームに大きく貢献した佐々木朗を、セイバーメトリクス目線で選ぶ7月のパ・リーグ月間MVPに推薦する。

本塁打・OPS・長打率・打点で月間トップに立った楽天の浅村

 打者評価として、平均的な打者が同じ打席数に立ったと仮定した場合よりも、どれだけその選手が得点を増やしたかを示す指標「wRAA」を用いる。パ・リーグの打者の「wRAA」ランキングは以下の通り。

○浅村栄斗(楽天)
wRAA:16.14、97打席、OPS1.220、打率.395、本塁打9

○近藤健介(ソフトバンク)
wRAA:10.32、92打席、OPS1.043、打率.343、本塁打3

○柳田悠岐(ソフトバンク)
wRAA:9.04、95打席、OPS.945、打率.345、本塁打2

○レアンドロ・セデーニョ(オリックス)
wRAA:7.94、73打席、OPS1.018、打率.309、本塁打7

○若月健矢(オリックス)
wRAA:6.43、61打席、OPS1.031、打率.400、本塁打3

○辰己涼介(楽天)
wRAA:4.95、79打席、OPS.857、打率.324、本塁打2

○デビッド・マキノン(西武)
wRAA:4.64、84打席、OPS.863、打率.319、本塁打2

○清宮幸太郎(日本ハム)
wRAA:4.48、86打席、OPS.288、打率.288、本塁打4

○角中勝也(ロッテ)
wRAA:4.07、42打席、OPS1.015、打率.297、本塁打4

 7月のパ・リーグで月間首位となった楽天の、得点力増強に大きく貢献したのが浅村だ。月間本塁打7本、OPS1.220、長打率.756はリーグ1位。また、打点24もリーグトップだが、これは浅村の前を打つ楽天の上位打線の貢献によるものだ。

 特に7月に1番打者として起用され始めた村林一輝は、出塁率.333、OPS.736と安定。また、従来1番を担うことの多かった辰己涼介は下位打線に配置され、OPS.857とポイントゲッターとしての役割を果たしている。チームの月間首位に大きく貢献し、打線の核として活躍した浅村を、7月の月間MVPパ・リーグ打者部門に推薦する。鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ番組の監修や、「AKB48選抜じゃんけん大会」の組み合わせなどエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。近著に『統計学が見つけた野球の真理』(講談社ブルーバックス)『世の中は奇跡であふれている』(WAVE出版)がある。