白色を基調にその他の色を使うのがスタンダードだった旅客機の塗装は、近年ずいぶんとカラフルな塗装が目立つようになってみました。これは「LCCが増えたから」なのでしょうか。

実は昔からあった「派手な航空会社」

 旅客機のカラーリングは、白色を基調にその他の色を使うのがスタンダードですが、今は格安航空会社(LCC)を中心に、ずいぶんとカラフルな塗装が目立つようになってきました。機体デザインは自社をアピールする重要な要素だけに、カラーリングには、航空会社の込めた思いが見えてきます。


LCCのピーチの旅客機たち(乗りものニュース編集部撮影)。

 もちろん、近年はLCC以外でもカラフルな機体デザインが見られます。しかし、LCCがカラフル化を牽引したわけではなく、実はロゴも合わせ、以前から凝ったカラーリングは存在していました。

 例えば、社名を維持しているなかでは「世界でもっとも古い航空会社」として知られている、KLMオランダ航空はスカイブルーのような配色をベースカラーとしていましたし、デルタ航空と経営統合した米国のノースウエスト航空の機体ベースカラーは赤でした。

 とくに後者のロゴデザインは秀逸で、アルファベットの「W」の一番左の斜めラインを中間部分だけ消し、ノース(北)を示す「N」、ウェスト(西)を示す「W」のどちらにも見えるような字を作成。さらにそれを円弧で囲むことで、この途切れた「W」の左上部分が、社名である北西(ノース・ウエスト)の方角を矢印で示しているというものでした。

 しかし多くの航空会社では、白色の胴体で、窓の辺りに色のあるライン引くデザインが多く、ノースウエストのように趣向を凝らす航空会社は多いと言えませんでした。そもそも白色なら紫外線による退色が目立たず、他の色を映えさせることもでき、清潔感も与えられるなど、メリットが少なくないからです。

 LCCと対になるFSC(フルサービスを行う航空会社)という言葉が広く知られたのは、世界的にも21世紀に入ってからで、それ以前のフラッグ・キャリア(その国を代表する航空会社)なる言葉が生きていた時代は、どの国の航空会社か分かるようにするのが主流でした。

どんどん種類豊かになる「後発系航空の塗装」

 たとえば、日本航空(JAL)の「鶴丸」は明らかに日の丸を連想でき、国内線でライバルに成長しつつあった全日空(ANA)は、対になる青色系統のモヒカン「ブルー」をまとっていたのは、ビジネスレース上の自然な流れだったでしょう。

 対する“後発組”のLCCなどは、“先発組”のカラーリングのパターンを避けなければ目立ちません。ヴそういうわけで、派手なカラーリングの航空会社も現れました。低運賃や割り切ったサービスで旧来のビジネスモデルから脱却したなら、さらに“常識”を打ち破ろう――カラーリングが変わっていくのは自然の流れでした。

 たとえば、日本でも(厳密にはLCCではないものの、運賃が抑えられた後発系航空会社である)スターフライヤーのように黒色の塗装をする航空会社が現れ、FSC系列でも、安い(cheap)のアナグラム(単語の語順を入れ替えること)で名づけられたANAグループのピーチ(peach)のように、言葉遊びも連想できる社名と、ピンクのカラーリングを施した航空会社も現れました。

 一方で海外では、かつて存在していたタイのLCC、ノックスクートは機種にくちばしを描き、欧州ではどことなくピーチのようなカラーリングが特徴のLCC、ウィズエアーなども登場しています。


ノックスクートのボーイング777型機(画像:ノックスクート)。

 現在、LCCはかつての近距離路線から長距離路線へ進出し、FSCがLCCを子会社として立ち上げるのも一般的になってきました。こうした中、旅客機のカラーリングはどのように変わっていくでしょうか。

 カラーリングはいったん決まると長期間使われます。高いデザイン性で他社より目立ち、なおかつ「乗ってみたい」と思わせたり、楽しさと安心感を与えたり――思いつくだけでもこれらの要素を抱えるだけに、カラーリングはけっして地味にならず、一層趣向を凝らしたデザインがこれからも登場するのは間違いありません。

 同時にそれは、シンプルな白色が逆に目立つことになるかもしれません。JAL系列のZIPAIRはこうした“逆張り”を狙った可能性もあります。趣向を凝らすか、あえてシンプルにするか。カラーリングにも航空会社のし烈なレースを見ることがでます。