しまむらが2期連続で最高益を更新しました。復活の背景にあるものとは?(編集部撮影)

「ファッションセンターしまむら」などを全国展開する、しまむらの2023年2月期の連結売上高は6161億円と初めて6000億円を超えた。営業利益は533億円となり、昨年度に続き、過去最高売上高および最高益を更新した。

SNSでのしまらーによる「しまパト」ブームで「しまむら」が一躍話題となったのは6年前。2017年2月期は最高益を更新した後、同社は、しばらく過剰出店、商品政策のミスにより低迷を続けていたが、直近2期連続の最高益更新は、しまむら復活といってよいだろう。


しまむら復活の原動力はいったい、何だったのか。そして、低価格衣料をメーカーからの仕入れを中心に販売し、営業利益率8%超と国内アパレルチェーンの中でも高い収益性を誇る、同社の底力を決算書から探ってみたい。

なお、同社は台湾事業を含む連結決算を発表しているが、ここでは、国内事業にあたる、株式会社しまむらの個別財務諸表を中心に見ていきたい。

しまらーブーム後、しまむらはどう変わったのか?

グラフは同社の過去10年間の事業別売上高の推移である。


ファッションセンターしまむらをメインに、ジーンズカジュアルのアベイル、ベビー子ども服のバースデイ、雑貨のシャンブル、靴のディバロの5つの業態を国内に展開する。

既述のしまむらブームの2017年2月期以降、ファッションセンターしまむらの売り上げは一時低迷する。しまらーブームに乗じて、積極出店し、店舗数は増えたものの、売上高自体は逆に下がっていたのだ。

商品の品種のバラエティーさが売り物だったにもかかわらず、利益率を改善すべく、商品の絞り込みを行ったことが客離れを引き起こしたため、といわれている。


一方、この間、着実に売上高を伸ばしてきたのは、ベビー子ども服のバースデイ事業だ。

しまむら国内事業全体の2023年2月期の売上高は、しまらーブームの2017年2月期対比で、8.9%増となったが、その内訳を見ると、ファッションセンターしまむらは2.2%増と微増程度。

これに対し、バースデイは54.2%増と1.5倍超になり、この間の同社の売り上げ増加分の半分相当に貢献している。この結果、バースデイの売り上げシェアは、11.9%となり、それまで第2の業態であったアベイル(9.8%)を抜いて、シェア75.8%のファッションセンターしまむらに次ぐ、2番手の業態に躍り出た。


アベイルもその間、19%増と伸び、主力業態であるファッションセンターしまむらが不採算店舗の整理も含めて伸び悩む中、同社国内事業の成長を支える柱の1つに育ってきたのだ。

第2、第3の業態が黒字化

売り上げだけではない、同社の2023年2月期の決算説明会資料によれば、2020年2月期まで、ファッションセンターしまむらだけが利益を稼ぎ、ほか4業態の赤字を支える構造であった同社において、まず、コロナ禍の2021年2月期にバースデイが営業利益率4.5%と黒字化を果たす。


続いて、翌年2022年2月期には、アベイルが営業利益率2.8%となり、念願の黒字化を果たしている。直近の2023年2月期のそれぞれの営業利益率は、ファッションセンターしまむらの10.2%に対し、バースデイは5.4%、アベイルは5.0%と3業態が黒字貢献している。

このように、第2、第3の事業が収益源に育ったことはファッションセンターしまむら業態だけで稼いでいた同社にとって心強いことこのうえない。

だが、ファッションセンターしまむらの代名詞である婦人服はいまだにピーク時の売上高に戻らないのが実状だ。低迷する婦人衣料、肌着、寝装具の3部門のマイナス分を補っているのは、ベビー・子ども服、インテリア、洋品小物である。


実は、コロナ禍前から、国内の婦人服マーケットは低迷しており、多くのアパレル専門店においては、服以外のライフスタイル関連商品で補わなければならない状況が続いている。

この3年間、筆者もしまむらの複数の店舗に何度か足を運ぶ機会があったが、それまで脇役だった、インテリアや子ども服など、婦人服・肌着以外のカテゴリーの売り場げが広がっていることに気づいたものだった。

今後、しまむらのリボーンと成長のカギを握るのは、婦人服だけに頼らない、需要に応じた柔軟な部門構成の売り場伸縮なのかもしれない。アパレル店は服だけを売っていても成り立たない時代なのだ。

低粗利率でも高利益率を稼ぐしまむら

続いて、しまむらの収益性の特徴を見てみよう。図はしまむらとユニクロ、一般的なアパレルSPA(製造小売業)のPL(損益計算書)を図式化したものだ。


しまむらは売上高に対して、粗利率は34.0%。これに対して、販売管理費は25.5%で8.7%の営業利益率を稼ぐ(2023年2月期)。

ちなみに、ユニクロのファーストリテイリングの粗利率は52%、販売管理費率は39%で、営業利益率は約13%(2022年8月期)、また、一般的なアパレルSPA(アダストリアやパルのようなファッション系SPA)の専門店の粗利率はおおよそ50〜55%の水準で、45%前後の販売管理費で5〜10%の営業利益を稼ぐ収益構造である。

しまむらは、業界の中でも、低粗利率をローコストオペレーションで支え8%台の営業利益率を稼ぐビジネスモデル。これは、アパレル小売業にとって、粗利率が高いほど儲かるという話ではなく、その販売方法が消費者から支持されながら、継続的に営業利益をしっかり稼げれば、いずれも正解であり、「ビジネスモデルの違い」である。

しまむらの主戦場は、日本全国の地方小商圏、かつては「主婦の店 しまむら」として知られていた。顧客の自宅から近い、主にロードサイド立地において、豊富なファッション、ライフスタイルの品揃えを、地域の多くの人が気軽に買うことのできる低価格で販売するチェーンストアである。

そんな商売においては、顧客が望む価格帯は決まっている。一方、メーカーからの仕入れが中心のため、仕入れ原価を自らコントロールしづらい。そのため、仕入原価率は高くなり、低粗利率で販売するために、セルフ販売をベースにしたローコストオペレーションで運営する、というのがしまむらのビジネスモデルである。

ここまでは、店舗からも、PLからも、誰もがわかることだが、決算発表資料に詳しく目を通すと、同社の低価格、ローコストオペレーション、つまり、薄利多売ながら高い収益率につなげる裏には、低粗利率ながら、利益を着実に確保するための値下げコントロール力があることがわかる。

低粗利率でも、高い利益率、その最大の理由は?

みなさんは、しまむらの店頭から、どんな印象を受けるだろうか? おそらく、3桁台のチラシ価格、また店頭商品についている値札が赤い色なため、値下げが多いお店と思っている方々も少なくないだろう。しかし、実は、同社は、国内ファッション流通業界の中でも屈指の、値下げの少ない企業のひとつなのだ。

それは決算説明会資料の「粗利・値下・在庫 前年比」というページを見ていただければわかる。同社では、主力事業が、どれだけ値下げを行い、どれだけ粗利率を確保できたかを開示しているのだ。

これを見ると、事業別の粗利率とともに、「値下率」実績が開示されている。同社における値下率とは、値下げ前の粗利率(小売業界では、値入率と呼ぶ)から、実際に行った値下げによって、どれだけ粗利率が下がったかを意味する数値だ。そして、これらの数値から、もうひとつのことがわかる。それは事業別の仕入れ原価率である。

計算式は、

粗利率+値下率=仕入れ時の粗利率(値入率)
1−値入率=仕入れ原価率

主力のファッションセンターしまむら業態を取り上げていえば、

粗利率(33.2%)+値下率(6.1%)=値入率(39.3%)

となり、

ここから、仕入れ原価率、つまり、同事業が販売価格に対して、平均60.7%の原価率で仕入れていることがわかる。

プライベートブランドを中心に販売するアパレル(SPA)であれば、仕入れ原価率は30%台であるのが業界標準の中、同社では、商品企画を委ねるメーカーやODM商社からのデザイン込みでの商品仕入れのため、かなり高い原価率で仕入れていることがわかる。

この同社が言うところの、値下率がどの程度なのかを消費者でも実感できるように、当初販売価格に対して、同社がどれだけ価格を下げたのかを図示してみたい。

ここでは同社の「値下率(粗利率の低減)」と区別するため、値引き率(販売価格がどれくらい下がったかの割合)と呼ぶ。

図示すると、図のようになる。


すると、しまむら業態の値引き率は9.1%となる。例えば、1000円の商品を平均91円値引きして、約909円で販売したということである。

同様に、ユニクロは筆者の推定で25%、SPA型のファッション専門店は30%〜35%の当初販売価格からの値引きをしていると推定される。

しまむらは、ユニクロの半分、ファッションSPAの1/3程度の値下げに抑えているわけだ。

もともと低い粗利率しか得られないビジネスモデルにおいて、たくさんの値引きをしてしまっては利益が出ない。しまむらには、薄利多売ビジネスにおいて、値下げを抑えて売り切る仕組みがあるのである。

同社はどのようにして、値下げを抑えているのか?

その仕組みの1つ目は、もともと、値下げを想定しない、最初から値段が安く、顧客にとって「適正価格で販売する価格設定」が挙げられる。

「在庫コントローラー」というスペシャリストの存在

そして、もうひとつは、バイヤーが仕入れた商品をできるだけ、定価で売り切るために、仕入れ活動に特化するバイヤーとタッグを組んで、店ごとの売れ行きの違いと在庫の偏在を、データを見ながら調整する「在庫コントローラー」というスペシャリストの存在だ。

どんな商品も店ごとに売れ行きにばらつきがあるものだ。どんな良い商品も、そこで起こった欠品と売れ残りを放置してしまえば、値下げや売れ残りになってしまうものだ。それを、チャンスを逃さず、タイムリーな店間移動による在庫調整をかけて、売り切っていくのが、在庫コントローラーの役目である。

同社では、在庫コントローラーが在庫調整をしやすいように、システムを自社開発し、商品ごとの販売期限を決めて、それまでに売り切れないものは、自社の物流網で売れる店に店間移動しながら売り切っていく。それでも売れないものは潔く徹底値下げをするポリシーだ。

ほぼ毎日、新しい商品が入荷するが、過剰在庫にならないように、なおかつできるだけ値下げをしないで売り切って行く、このスペシャリストたちの努力の結果が、同社の値下率に反映される。

どんな業界でも原価が高騰している昨今。そのまま売値に転嫁して値上げをすれば、顧客は買い控えることだろう。これに対して、適正価格をつけ、できるだけ値引きを抑えれば、原価上昇分もある程度は吸収できるのではないか?

当初販売価格に対して、多くのアパレル小売業が25%〜35%もの値下げをしているところに、大きな利益の原資があることは既出の通りである。

どんな会社も値下げを最小化する在庫コントロールは必須スキルである。原価高騰の折、値下げ率または、値引き率をコントロールすべきKPIのひとつとして、モニターしながら、ビジネスモデルを磨いていく。しまむらとビジネスモデルは違っても、同社の決算書から学ぶことはありそうだ。

(齊藤 孝浩 : ファッション流通コンサルタント)