「涙嚢炎」を発症すると現れる症状・原因・発症しやすい人の特徴はご存知ですか?
目の病気の1つに涙嚢炎(るいのうえん)という病気があることをご存じでしょうか。新生児、もしくは高齢者に多くみられる疾患です。
涙嚢とは目から流れてきた涙が通る器官で、袋状になっています。その器官に菌が入り込むことで炎症が起きます。
涙嚢炎を含む目の病気は見えづらさが出てくるだけでなく、見た目も悪いため早急に治療したいと思うことも多いでしょう。
今回は涙嚢炎の症状・原因・なりやすい人などについて解説します。大切な目を守るためにも知っておくと良いでしょう。
涙嚢炎とは
涙嚢炎はどのような病気でしょうか?
涙嚢炎は涙嚢という小さい袋のような器官の中で涙と一緒に入り込んだ菌が増えることで涙嚢を含む周辺に炎症が起きる病気です。通常、流れ出していれば涙が涙嚢に溜まることはありません。しかし、何らかの原因により涙の流れが悪くなり行き場を失った涙は涙嚢に溜まります。狭い空間に細菌の付いた涙が長時間溜まっていることで増殖し、結果的に炎症が起きてしまうのです。
涙嚢炎を引き起こす原因菌は様々で、主な菌としてブドウ球菌・肺炎球菌・レンサ球菌・緑膿菌・真菌などです。どの菌も身近に存在する菌になります。
症状を教えてください。
涙嚢炎には慢性と急性があり、症状が強く表れやすいのは急性です。主な症状は下記のとおりです。目やにが増える
涙が多くなる
目頭周辺の皮膚が赤くなる
腫れ
強い痛み
急性の場合、赤み・腫れが頬のあたりまで広がるとともに痛みも増します。個人差はありますが、あまりの痛さに夜起きることもあるでしょう。また、涙嚢がある部分を押すと膿が出る場合もあるでしょう。押して膿が出れば良いですが、炎症が酷すぎると涙小管まで影響を及ぼします。涙小管というのは涙嚢の近くにある管で、目から鼻につながっている細い管です。
目はもともとうるおいを保つために少量の涙が常に分泌されていますが、余剰分を鼻に流すことで目から涙が流れ続けないようにしています。この涙小管に炎症が至ることで涙小管が狭小化し、涙が流れなくなってしまう結果、目から涙が止まらなくなってしまうこともあるのです。
慢性の場合は膿が溜まる程度です。なお、急性涙嚢炎は慢性涙嚢炎が急激に悪化して起こります。そのため、悪化させないためにも早期治療が不可欠です。この他に、涙嚢から出てきた膿により結膜炎を合併する場合もあります。
涙が増えただけでは病気が隠れていることに気付きにくいでしょう。しかし、涙が増えた・目やにが増えたはサインになっているため、見逃さないようにしましょう。
原因を教えてください。
涙小管が狭くなることで涙嚢炎が起きます。涙小管が塞がるのは、先天性のものか後天性のものでわかれます。先天性は生まれつきのものであり、新生児の時に涙小管に膜のようなものがなくならずそのまま残ることで涙小管が狭くなるのです。先天性の場合は成長とともになくなるケースが多いため、自然となくなるケースがほとんどです。しかし、後天性は加齢・繰り返す鼻炎や蓄膿症・結膜炎などが原因で涙小管が狭くなると考えられています。
この他に、鼻腔の炎症・耳鼻科系の手術・外傷などによっても涙小管が狭くなってしまうのです。後天性の多くは他から派生して起きているため、防ぐためにも早めに受診すると良いでしょう。
どのような人がなりやすいのでしょうか?
年齢を問わず罹患する可能性がある病気ではあります。その中でも、新生児や高齢者に多くみられる傾向です。理由は前述のとおり、先天性もしくは後天性にて鼻涙管が狭くなることが関係しています。先天性の場合は成長につれてなくなることが多いため、無理に治療をするよりかは経過観察すると良いでしょう。それでも改善せず変わらず起こる場合は治療が必要になるでしょう。
涙嚢炎の治療と手術
どのような検査で診断されますか?
涙道が閉塞しているかどうか確認します。閉塞の確認には生理食塩水を使用し、涙の出口である涙点に流します。流してそのまま入っていけば閉塞はしていないですが、入らずそのままであれば閉塞している可能性が高いです。中には、膿が混じっていることもあります。その場合、涙嚢炎を確実に起こしています。炎症具合によっては腫れているところを少しだけ穿刺し、膿を採取し原因となった菌を調べるのです。この他に、CTによる画像診断もあります。
治療方法を教えてください。
慢性涙嚢炎と急性涙嚢炎によって治療方法は若干異なります。まずは急性涙嚢炎の治療法から解説しましょう。主な治療方法は排膿・抗菌薬や抗生物質の投与です。炎症に対する症状が強い急性は、とにかく早く膿を出し痛みや炎症を和らげることが第一です。膿を出しある程度落ち着いたら、抗菌薬や抗生物質を投与し中に残っている原因菌をなくします。基本的に急性涙嚢炎は手術は必要ありませんが、何度も繰り返す場合は手術も考えたほうが良いでしょう。慢性涙嚢炎の主な治療方法は抗生物質の投与・涙嚢洗浄・涙道へ細い針金を通すです。
あくまでも応急処置のような治療であり、この治療方法での根治は難しいでしょう。慢性涙嚢炎は放っておけば急性涙嚢炎を起こすだけでなく、繰り返す治療により角膜を傷付ける可能性もあります。角膜が傷付けば失明の恐れもあるため、あまり良い治療とはいえません。
安全にそして根治を目指すのであれば、涙嚢鼻腔吻合術や涙嚢摘出手術を選択するのも1つです。先天性涙嚢炎の場合、炎症がなければマッサージすることも可能です。マッサージにより閉塞部が広がりやすくなります。
しかし、前述のとおり先天性涙嚢炎は自然に解決することが多いため、マッサージをしなくても問題ありません。また何もないとはいい切れないため、いきなりマッサージをするのではなく、まずは小児科や眼科に受診すると良いでしょう。
抗生剤はどのようなものが使われますか?
目の病気であるため抗生物質の点眼のみと思われがちですが、涙嚢炎の場合は抗生物質の点眼以外に内服でも治療を行います。主な抗生剤は広範囲ペニシリン系や第1セフェム系です。涙嚢炎の原因菌であるブドウ球菌やレンサ球菌などのグラム陽性菌、インフルエンザ菌などのグラム陰性菌に有効的です。
涙嚢炎の手術について教えてください。
涙嚢炎に対する手術は主に3つあり、涙嚢をまるごと摘出する涙嚢摘出術・涙嚢と鼻腔に新しい道を作り結ぶ涙嚢鼻腔吻合術・再閉塞を予防し涙道を広げる涙道内視鏡併用涙管チューブ留置術です。まずは涙道内視鏡併用涙管チューブ留置術や涙嚢鼻腔吻合術を行います。この手術にて根治を目指すことが可能です。しかし、ドライアイの症状が酷く涙の分泌がほとんどない方は、涙が通る道を新しく作ったり通したりする必要がありません。
そのため、涙嚢ごと取ってしまう手術を行う場合があります。あくまで涙嚢炎に対する手術方法であり、必ずしないといけないわけではありません。なる度に嫌な思いをする・症状に耐えられないなどある場合は考えてみるのも良いでしょう。
涙嚢炎の再発
再発することもあるのでしょうか?
涙嚢炎を根治しなければ、再発する可能性はあり得ます。そのため、再発を防ぎ根治を目指すのであれば、前述のとおり涙嚢をまるごと摘出する手術・涙嚢と鼻腔を結び新たな道を作る手術をするのも1つです。ただし、チューブを留置し涙道を開放する手術は再発する可能性があるため、涙嚢炎を繰り返している方は他の方法にて涙嚢炎の再発を防ぐと良いでしょう。
市販の目薬を使用しても良いでしょうか?
市販の目薬にも持続性の高い抗菌剤「スルファメトキサゾールナトリウム」が使用されています。ある程度の症状であれば使用しても良いでしょう。しかし、市販の目薬に入っている成分量は処方薬とは違い少ないことが多いです。また、長期間使用すれば菌に対し耐性が付くこともあります。早期に症状を改善するためにも、まずは受診しましょう。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
対症療法での根治は難しく、根治には手術をともなうこともあるでしょう。しかし、涙嚢炎の兆候は早めの段階で表れているため、その小さな変化を見逃さないことが再発を予防する1つです。目やにが増えた・涙目がすごいなど違和感を少しでも覚えたら、速やかに受診しましょう。早期発見により治療はもちろん、大切な目や周辺の器官を守ることにつながります。
編集部まとめ
新生児や高齢者に多くみられる涙嚢炎について解説しました。急性は慢性に比べると症状も強く出る傾向にあるため、辛いものがあるでしょう。
一度罹患すると、何かの拍子で再発する可能性があります。
しかし、涙嚢炎は根治する方法もあるため、まずは症状が悪化しないためにも目に異変を感じたら速やかに受診するようにしましょう。
参考文献
涙のう炎(恩賜財団済生会)
抗菌薬適正使用マニュアル