近い距離でブルーライトを浴びるのがよくないワケは?(写真:shimi/PIXTA)

スマホ時間が増えて、心配なのが私たちの視力。目に極力ダメージを与えない「目にやさしいスマホの見方」はあるのでしょうか? 視力とブルーライト研究の第一人者である綾木雅彦医師が「スマホダメージを最小化するスクリーンの見方」を解説。同氏著『視力防衛生活』より抜粋し再構成します。

最もNGな見方は「寝転びスマホ」

スマホの普及で、今、人類レベルで近視が進んでいます。オーストラリアの視覚研究所は、「2050年までに世界人口の半数が近視になり、10人に1人が強度近視になる」と報告。また、慶應義塾大学の調査では、「裸眼視力が1.0未満」の割合は、東京都内の場合、小学生が76.5%、中学生が94.9%という結果に。

スマホで目がわるくなる理由は、近い距離でものを見続けることで目が「近距離用」に変化するからです。目は非常に高い順応性がある器官で、置かれた環境に柔軟に適応しようとする特徴があります。そのため、近いところを見続けると「近くを見ることに適した目になったほうが楽だ」と目は判断。近くにピントが合った状態が続いてピントを合わせる筋肉(毛様体筋)が固くなり、調節緊張と呼ばれる状態に陥ります、すると、いざ遠くを見ようとしても見えにくくなります。

最も視力によくない見方があります。

夜、明かりを落とした部屋で横になったまま、スマホに見入っていませんか? そんな寝転びスマホの姿勢は危険です。

寝転びスマホだと、座ってスマホを操作するときよりも、目と画面の距離がぐんと縮まります。慶應大が実施した実験で、「目と画面の距離は、座りスマホが平均20センチだったのに対し、寝転びスマホは平均16センチで最も近くなる」ことが判明。横になってスマホを腕で支える姿勢は疲れるもの。無意識のうちにスマホが顔に近づくのでしょう。

「光源を直視する」という意味でも、寝転びスマホは危険です。スマホ由来のブルーライトは強力な影響力を持っています。スマホという光源を手元で眺めるのは、人類史上初。目には防御する機能が備わっていません。

加えて、暗い部屋で見ている点も心配です。暗いところでものを見るとき。目は、より多くの光を集めようとするため、瞳孔が大きくなります。瞳孔が大きくなっている状態でブルーライトに接すると、明るいところにいるときより甚大な影響を受け、目は酷使されます。

つい長く見てしまうのがスマホの特徴です。ベッドに入ったらスクリーンは見ないのが賢明です。

では、日中、スマホを見ているとき、どうすればスクリーンのダメージを下げられるでしょうか?

パソコンやスマホの画面は、目線より少し下になるよう設置するのが正解です。視線が自ずと下向きになり、疲れ目やドライアイを防げます。

目線が上向きだと、頭を持ち上げようとして首に負担をかけ、目を通常より大きく開き、すぐ疲れてしまいます。目も乾きやすいです。

画面の位置は「少し下」で、画面と目は40センチ以上(指先から肘までと同じくらいの長さ)、離しましょう。

近視を抑える太陽光成分

スマホ時間の影響を少しでもやわらげるためにも増やしてほしいのが「外時間」。浴びるだけで近視の進行が抑えられる自然界の光があります。それは「バイオレットライト」。バイオレットライトは日光中に存在する可視光線で、「眼軸の伸長を抑え、近視の進行を食い止める」事実が、2017年、慶應大の研究で判明しました。屋外で陽の光を浴びるだけで、目にバイオレットライトを吸収できます。

実際、政策として外気浴を推進する地域が出てきています。台湾の学校では、子どもたちに照度計をつけて、外遊びの時間を測って近視を防ごうとしています。オーストラリアでは「外でのランチ」を国レベルで推奨。シンガポールは「週末の公園遊び」に対しておもちゃ券を配っています。このように、近視対策として外遊びや外気浴を推奨するところが増加中で、実際に近視抑制の顕著な結果が出ています。

ブルーライトを多く浴びるようになったからこそ

「外で過ごす時間を捻出しなければ」と堅苦しくとらえなくてOK。屋外にいるだけで、バイオレットライトは目に飛び込んできます。通勤・通学で外を歩く時間を増やしたり、庭やベランダで過ごす時間を多くしたり、外食のときは日の当たるテラス席を選んだり。また、曇天でも夕方でも、バイオレットライトはふんだんに降り注いでいます。


1日30分でもよいので屋外で過ごすこと。室内の窓ガラスはバイオレットライトをカットしてしまうので、外に出ましょう。理想は、眼鏡やコンタクトレンズも外すこと。それらの素材もたいてい、バイオレットライトを遮断する仕様です。

現代人は、人工的なブルーライトを多く浴びるようになりました。それに反比例するように、バイオレットライトを浴びる量は激減。だからこそ、近視が増えている現状があります。ぜひ今日から、外に出る時間を増やし、日光の恩恵を受けてほしいと思います。それこそが、スクリーンと共存する目守り術です。

(綾木 雅彦 : 慶應義塾大学医学部眼科学教室特任准教授、おおたけ眼科院長)