高いステータスを持つ者の代名詞の1つともいえる、都内の高級タワーマンション。

港区エリアを中心とした都心には、今もなお数々の“超高級タワマン”が建設され続けているが…。

では果たして、どんな人たちがその部屋に住んでいるのだろうか?

婚活中のOL・美月(28)と、バリキャリライフを楽しむアリス(28)。2人が見た“東京タワマン族”のリアルとは…?

▶前回:食事会中、ボディタッチが激しい婚活女子にモヤモヤして…。独身・彼氏ナシの28歳女が放った衝撃の一言




アリス「華の20代。幸せのゴールはどこにある?」


「もう、だいぶ葉桜になっちゃってるなあ…」
「ほんとだ。早いね」

今年は例年以上に桜の開花が早かった。六本木の檜町公園にある桜並木も、ところどころ新緑の葉が見え始めている。

満開のシーズンは綺麗なんだろうなと思いながら、私たちは今日お邪魔するタワマンを見上げた。都営大江戸線の六本木駅から徒歩3分。東京ミッドタウンからは徒歩2分ほどだ。

美月とともに橋を渡り、幸せそうな家族たちが歩く公園を通り過ぎてエントランスへと向かう。

「うわぁ、素敵すぎる…!」

自動ドアが開くと同時に、私たちは思わず息をのんだ。一面の窓からは燦々と光が差し込み、開放感あふれるロビー。天井のデザインも印象的だ。

「ねえ、こんなとこに住める人ってどんな人なの?」
「それがね、今日の家主って…」

そのときだった。

「アリス〜!今日は来てくれてありがとうね」

このタワマンに招待してくれた人が、ロビーまでやって来てくれたのだった。


Case11:1億超えのタワマンを買った女


「理恵さん、お久しぶりです〜。こちら、友達の美月です」
「初めまして理恵です!ごめん…。さっきジムから帰ってきたばかりで、おもてなしの料理とか全然ないんだけど大丈夫?」

そう言ってニコッと笑う理恵さん。休みの日なのに、早起きして朝から体を動かしてきたらしい。

10個年上の理恵さんは、私が知っている女性の中でも圧倒的に仕事ができる。自分にとって、ずっと憧れの存在なのだ。

「もちろんです!むしろ土曜日にありがとうございます」
「ううん。アリスともキャッチアップしたかったから嬉しい」

そう話をしながら理恵さんが案内してくれたのは、圧巻のビューが広がる大きな部屋だった。




「すごい…」

思わず圧倒されるほどの絶景。リビングダイニングをぐるっと囲うような一面の窓からは、東京ミッドタウンと檜町公園が一望できる。

その距離感と美しさは、この景色を全部独り占めしていると錯覚してしまうほどだった。

「こんなにも綺麗に見えるんですね…」
「いいでしょ?この眺望が気に入って。立地もいいし、スーパーもミッドタウンの地下にあるから便利なんだよね。…あ、なに飲む?お昼だけどシャンパン開けちゃう?」

そう言うと、理恵さんはアイランド式のキッチンから慣れた手つきでシャンパンを出してきてくれた。




「こんな暮らし、憧れます!!」

美月はさっきからずっと目を輝かせている。

私自身、理恵さんがいくら稼いでいるのかは知らない。でもどう少なく見積もっても、年収5,000万は下らないと思う。

「まあ、仕事を頑張ってきたご褒美に…。って感じかな」

理恵さんは、過去に結婚していたはずだ。でも別れてからはずっと、シングルライフを謳歌しているように見える。

「ここまでご自身が完璧だと、むしろどんな男性に会ってもときめかなくないですか?」

するとシャンパンのグラス数杯で酔ったのか、美月が急に理恵さんへストレートな質問を投げかけた。

「ちょっと、美月…」

慌てて止めようとすると、理恵さんはケラケラと笑った。

「いいのいいの、何でも答えるよ。…そうね、たしかに普通の人じゃ満足できないかもね。物足りないというか何というか」

そのまま各々のグラスを持ったまま、ソファのエリアに移動する。彼女の話に、私たちは興味津々だった。

「女性が頑張って稼いで、成功して。でもその後に周りから言われることは、たいがい一緒なのよね。『結婚はどうするの?』とか『そのまま独身でいるつもり?』とかね。

そして結婚したら、次は『子どもはどうするの?』って聞かれるのよ」

私も美月も静かに、でも大きくうなずいた。

「そうですよね…」
「だから私、この家を買ったんだよね。『私の幸せはこうですよ!』って、周囲に対して何か見せつけたかったのかもしれない」

そう言うと、理恵さんはグラスに残っていたシャンパンをぐいっと飲み干す。

その横顔は凛としていて、とても美しかった。


「でも2人とも若いし可愛いし、将来有望じゃない。もっと今を楽しまないと」

シャンパンを飲み終えた私たちは、気づくと2本目の白ワインへと突入していた。途中で理恵さんがオーダーしてくれた食事をいただいている間に、大きな窓からはオレンジ色の夕陽が差し込み始める。

「理恵さんのような女性になりたいです!自立していて、美しくて強くて優しくて…」

どうやら美月は、すっかり理恵さんに心酔しているようだ。でもそれはわかる気がする。私もつい、理恵さんには頼りたくなってしまうから。

イギリスの大学に通っていた彼女は帰国子女らしくサバサバとしていて、それがまた魅力的だった。

「結婚がすべてじゃないけれど、2人はいつか結婚もするでしょ?子どもだって生まれるかもしれないし」
「そうですけど…。最近、結婚がゴールじゃないって心から思っているんです。ちゃんと自分で稼いで、自分でタワマンを買いたいと思っていますし」

美月のまっすぐで強い眼差しにハッとする。ここ最近、美月は変わった。前はどこかふわふわしていたけれど、目標ができてどこか強さを手に入れたようにも見える。




「いいじゃない。東京で家を買うのか、一生賃貸でいくのか…。人それぞれの考え方があると思うけど、私はこの家を買ったことで何かから解放された気がするんだよね。厄介な見栄とか世間体とか」

女は、家を買うと強くなると思う。それと同時に、自信を持てる気もする。

家は人生において、とても大事なもの。ホームという言葉通り生活すべてのベースであるし、今まで頑張ってきたことの証にもなる。

それに1人の力で東京での生活を維持するとなると、それなりにお金と心の余裕が必要になってくる。

理恵さんが1億以上もするタワマンの一室を購入した背景には、何かしらの葛藤もあったのかもしれない。

「女の幸せって、想像以上に複雑なものなんですね」

思わず心の声が漏れてしまった。でもそんな私に、理恵さんは優しく微笑みかけてくる。

「大丈夫。みんなきっと、幸せになれるから」




13時過ぎにお邪魔したはずなのに、私たちが理恵さんのご自宅を後にしたときには、もう19時を過ぎていた。

すっかり気分が良くなった私たちは、再び綺麗に整備された檜町公園をのんびりと歩いてみる。

日中は、幸せな家族連れで溢れていた。でも夜になると、今度は手を繋ぎながら楽しそうに歩く恋人たちが私たちの横を通り過ぎていく。

「みんな幸せそうだな〜」
「本当だよね。みんな各々の幸せがあるんだね」

他人と比較するのではなく、自分だけの幸せを見つけたい。今日理恵さんと会って、努力した先には必ず何かがあると自信が持てた。

立ち止まって、もう一度先ほどまでいたタワマンを見上げてみる。

「みんな、それぞれの幸せを見つけているのかな」
「そうかもね」

私たちなりの幸せも、きっとすぐに見つけられるはず。

そんなことを思いながら、さっきまでの凛とした静寂が嘘のように騒がしい六本木交差点の方へ歩き始めた。

▶前回:食事会中、ボディタッチが激しい婚活女子にモヤモヤして…。独身・彼氏ナシの28歳女が放った衝撃の一言

▶1話目はこちら:気になる彼の家で、キッチンを使おうとして…。お呼ばれした女がとった、NG行動とは

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それぞれが見つけた、幸せと答えとは?