この記事をまとめると

■ドライブのBGMにおすすめの曲を紹介する本連載

■今回は元ミュージシャンでもある青山尚暉さん

■辛いときに聴く曲を教えてもらった

ヘコんだ気持ちを吹き飛ばしてくれる曲とは?

 音楽はときに一歩前に出る勇気を与えてくれたり、悲しいとき、へこんでいるときに心を癒してくれたりするものだ。で、今回は「辛いときアナタは何を聴く?」がお題だ。辛いとき、ヘンコでいるときに、たとえばYOASOBIの「もう少しだけ」やドリカムの「何度でも」、wacciの「大丈夫」、back numberの「水平線」、BiSHの「beautiful」、Official髭男dismの「パラボラ」「宿命」といった、比較的新しい応援ソング的なものを聴くのもいい。エレファントカシマシの「俺たちの明日」やズバリ、ウルフルズの「ガッツだぜ」、高橋優の「明日はきっといい日になる」なんて曲にも励まされるかもしれない。

 めったにヘコんだりしないボクも、特別なことで落ち込むことはある。誰かと話すのも手だけれど、クルマのなかでひとり音楽に浸るのもいい。が、ボクの元気復活のための音楽活用法は、それとはちょっと違う。そんなときに聴くのは、なんと10代〜20代の、もしかしたら人生の中でもっとも自由で輝いていた時代に大好きだった曲、あの頃、大好きな人との思い出となった曲である。

 当時の景色、空気、匂いが蘇り、なんだか懐かしさとともに、当時の元気が時空を超えてもらえるような気がする。幸い、当時のLPレコードはまだ手元にあり(物持ちのいい性分です)、復刻版のCDも揃えているから、いつでも当時の楽曲に浸れるのだ。

 その筆頭の1曲は、パティ・オースチンのEND OF RAINBOWのアルバムに入っている「Say You Love Me」だ。この季節にもぴったりな春風のように爽やかな曲で、10代後半に付き合っていたミキコちゃんに教えてもらった曲。「愛していると言って」という邦題に、もしかすると彼女からのアプローチの意味があったかもしれない、今でも忘れられない思い出とともに記憶に残る軽快なラブソング。クルマの中、途中の口笛パートを2人で口を揃えて吹いていたことも思い出す。そうした古き良きいい思い出が、あれから何十年もたった今でも、へこんだ気持ちを吹き飛ばしてくれたりする。ボクがアマチュアミュージシャン時代にコピーしていたディープパープルのスピード感たっぷりの名曲「ハイウェイスター」もビタミン剤的1曲である。

思い出の曲で脳内タイムスリップ!

 70〜90年代に青春していた人にとって、昨年、デビュー50周年を迎えたユーミンは忘れられない(今でも)存在のポップシンガーのひとりと言っていいかもしれない。今も昔もユーミンファンであり、すべてのアルバムを聴き、80年代からコンサート(ツアー、および苗場)に足を運んでいるボクだが、とくに青春真っただなかの80年代に聴いていた曲は、今聴くことで、ボクにとっては当時のかけがえのない思い出とともに気分を晴れやかにしてくれる効果がある。その楽曲は決してアップテンポである必要はなく、また歌詞に特別に元気づけられる必要もない。大切なのは、当時の生き生きしていた時代の思い出に浸れること。

 当時も今も大好きな曲として、70〜80年代の楽曲であれば、「コバルトアワー」(1975)、「何もきかないで」(1975)、「中央フリーウェイ」(1976)、「朝陽の中で微笑んで」(1976)、「埠頭を渡る風」(1978)、「星空の誘惑」(1984)、「SWEET DREAMS」(1987)、「Nobody Else」(1988)、「WANDERERS」(1989)、「ANNIVERSARY」(1989)などがあり、イントロが始まっただけで当時にタイムスリップし、当時の思い出に浸れる曲そのものなのである。

 そうそう、70年代、夜遅く、クルマで女の子とドライブに出掛け、夜明けに東京へ戻ってくる、ただ走り、車内で音楽を聴くことだけが目的のドライブが大好きだったのだが、その帰路、空の色が紺碧から茜色に代わり始める都心に近づいたとき、当時はカセットテープで流していたのが、ユーミンの「コバルトアワー」(歌詞に出てくるのは白いベレG/いすゞ・ベレットだが、ボクが乗っていたのはパルテノンアイボリーのいすゞ117クーペだった)、そして大橋純子さんの「クリスタルシティ」。こちらは大橋純子さんの透き通るような歌声、一流ミュージシャンで構成された美乃家セントラル・ステイションのクリスタルなサウンドが夜明けのドライブデートにぴったりだった(夜明けの中央フリーウェイで新宿の摩天楼が見え出す頃に最適!?)。この曲も、なんだか気持ちをワクワクさせてくれる効果が、今でもあったりする。

 そうした楽曲から引き出される当時の甘酸っぱくもある思い出に脳内タイムスリップすることで、今のちょっとした悩みやヘコんだ気持ちを吹き飛ばしてくれるというわけだ。そんな曲を数多くリストアップできるボクはつくづく幸せ者だと思う。あくまでボクの悩み、ヘコみ対策だが、辛いとき、自身がもっとも輝いていた、楽しい時間を過ごしていた時代に大好きだった曲を、誰にもジャマされない車内のオーディオで聴き返す……その方法は多くの人にとってもアリかもしれない。