直撃に対して、「知らない」と答え続けた創業一族出身の戸田守道副社長

「うちは業界内で“病院の戸田”と呼ばれているんですよ」

 こう話すのは、ゼネコン企業「戸田建設」の支店社員だ。

 戸田建設は1936年設立だが、前身を含めると今年で創業142年を迎える名門企業だ。「新宿アルタ」などの有名施設も手がけているが、前出の社員が話すとおり、戸田建設はこの20年で、150棟近い病院と医療施設を施工している。

「これらの病院内に設置することも見据え、医療機器を扱う専門業者との取引も活発化させてきました。そして、コロナ禍に高性能空気清浄機の導入を希望する病院が増えたことで、うちは空気清浄機販売事業に新規参入したんです。それを指揮したのは、戸田守道副社長でした」(前出・社員)

 戸田副社長は創業一族出身で、同社元社長・戸田守二氏(故人)の長男。創業者から数えて4世代めにあたる。

「戸田副社長は当時、専務で、『イノベーション本部』に現在、格上げされた『価値創造推進室』の室長として、、新規事業立ち上げを指揮していました。空気清浄機に狙いを定めた戸田副社長は、フィンランド・ゲナノ社製品の輸入販売を選定しました」(前出・社員)

 ゲナノ社の空気清浄機は、世界40カ国以上で販売が展開されており、欧州では医療機関にも多く設置されている。そこで戸田建設は、ゲナノ社日本総代理店として製品を輸入する、福岡県の「株式会社メディカルクリエイトジャパン(MCJ)」と、日本国内での独占販売契約を締結した。

 しかし、MCJの上野桂(けい)社長は現在、こう嘆く。

「契約が守られず、とても悔しいです。戸田建設は『女性の活躍』を掲げていますが、女性経営者の私なら、強硬な姿勢を見せれば泣き寝入りする、と見られたのかもしれません」

 上野社長が怒りを滲ませるまでには、どのような経緯があったのか。

 戸田建設が空気清浄機販売への参入に向けて、2020年8月3日、上野社長を東京に呼び寄せたころから振り返ろう。上野社長が話す。

「私はその日、戸田建設のオフィスで空気清浄機についてプレゼンをしました。出席したのは戸田副社長のほかに、同社の社員3名でした。プレゼンが終わり、戸田副社長は『性能がいいのはよくわかった。うちにはグループ企業もたくさんあるし、医療機関への販売ルートもあるからすぐ売れるよね。やろう』と社員に呼びかけ、空気清浄機の販売契約を即断してくれました」

 商談の翌日から、具体的な契約内容が話し合われ、2020年12月1日に、戸田建設がゲナノ社製空気清浄機を独占販売するという内容で「取引基本契約書」が締結された。

 この契約では、戸田建設が販売権を独占する条件として「取引最低販売台数」が定められていた。MCJの“飼い殺し”を防ぐために結ばれたものだ。

「同時に交わされた覚書どおりなら、2020年12月から2022年9月にかけて、戸田建設が1995台を購入して、弊社に総額22億750万円を支払う約束になっています。しかし、その約束はまったく果たされていません。というのも、戸田建設は初回の100台しか、発注してこなかったんです」(上野社長)

 このころ戸田建設社内では、この空気清浄機事業をめぐって、大企業とは思えないずさんな販売体制が敷かれていた。

戸田建設が「ゲナノ社の空気清浄機」の営業のために配布していたチラシ

 前出の社員はこう明かす。

「約2000台の空気清浄機を販売する大プロジェクトにもかかわらず、医療福祉部のAという社員が、たったひとりで営業から販促まで担当することになったのです。危機感を覚えたAは、医療福祉部のK部長(当時)に営業担当の増員を求めましたが、放置されました。

 そこで、Aはプロジェクトの旗振り役だった戸田副社長に直談判し、改善を求めましたが『それはお前の仕事だろ』と突き放されたそうです。結局、約2000台の空気清浄機を販売する予定のところ、30台ほどしか売れませんでした」

 上野社長も、戸田建設から約束どおりの注文が来ないことに不信感を覚えていた。

「医療福祉部のN課長に何度も『次の注文はいつになりますか?』といったメールや電話をしましたが、N課長からは『いま忙しい』と言われ、回答を拒否され続けました」

 2022年7月13日、戸田建設本社では怒号が飛び交っていた。その一部始終を見ていた同社関係者が語る。

「事態をさすがにマズいと思ったのか、このとき別部署に異動していたK部長が顔を真っ赤にして『俺はこんな契約は知らない! Aが勝手にやったことだ!』と叫ぶと、MCJとの契約書をデスクに叩きつけたんです。契約書はK部長の名前で結ばれていたため、『俺の名前を消せないのか?』と、改ざん指示まで口にしました。N課長も同様に、Aに責任転嫁しました」

 実際の販売実績が、MCJと約束した販売台数を大きく下回っていたことに頭を抱えた戸田建設は、K部長とN課長を中心に、契約を解除する方法を探し始めたという。

「K部長は、法務部長に紹介された会社の顧問弁護士とは別の女性弁護士を頼ることにしました。その弁護士は『ゲナノ社製空気清浄機に起きた故障は欠陥品によるものだ、と主張すれば契約解除を迫れるかもしれない』というアドバイスをしたんです」(前出・関係者)

 その目論見は、2022年8月26日付の文書で上野社長に届いた。空気清浄機が「欠陥品」だったとして契約解除を主張してきた戸田建設に対して、上野社長はこう反論する。

「欠陥品の例に挙げられた9台の“故障”は、タッチパネルの操作ができない、専用洗浄液を使用していないなど、単に戸田建設側がユーザーに使用方法を十分に説明していなかったことがおもな原因で、言いがかりそのものです」

 現在、MCJは、当初の契約どおりの約22億円の支払いを求めているが、戸田建設はそれに応じるどころか、MCJ側の契約不履行を主張し続けているという。

“鶴の一声”で、トラブルの原因を作った張本人の戸田副社長は何を思っているのか。2月20日に直撃したが、「私は担当ではない」「何も知らない」「説明したり、対応する必要はない」と繰り返すのみ。

 さらに、戸田建設へ、MCJとの契約トラブルや販売体制の不備について詳細な質問状を送ったが、「個別の取引の内容については回答を差し控えます」とのみ、返答があった。

 上野社長は思いを吐露する。

「大企業の“取引先いじめ”に泣かされてきた中小企業は、たくさんあると思うんです。この告発が、そういう人たちの救いになれば嬉しいです」

 自らの経営判断で負った“大やけど”を中小企業のせいにするとは、名門企業の名が泣く――。