少子化が止まらず、国や東京都の新たな子育て支援策に注目が集まる日本。一方で、ベビーカーでの公共交通機関の乗車や、公園遊びなどに賛否の声が上がるように、子どもに厳しい側面も見られます。では、海外の子育て環境はどうなのでしょうか? ここでは、アメリカ・シアトルに住んで20年、子育てに奮闘するライターのNorikoさんに、「アメリカの子育て環境」についてつづってもらいました。

逆カルチャーショックを受けた約10年前の出来事

約10年前、アメリカで生まれた息子が1歳半になり、初めて日本に子連れで一時帰国したときのことですが、とにかく階段が多すぎて、バリアフリーとは程遠い日本の現状を思い知らされました。

空港から電車、新幹線乗り換えではさらに高低差のある駅構内の移動も大変。大荷物でエレベーターが必須なのに、エスカレーターすらない、まさかの階段のみ、なんてことも…。片手にベビーカーと大荷物、片手に乳児でも、すれ違う人は皆「われ関せず」で見て見ぬふり。アメリカだと、子連れで困っているとき、必ずと言っていいほどだれかが声をかけてくれるため、東京の冷たさは当時、逆カルチャーショックでした。

●バリアフリー設備が整うアメリカはベビーカーにも優しい

アメリカでは、交通機関や駅、商業施設、歩道、公園、トイレなど公共の場所は、バリアフリー化が徹底されています。20年前、まだ渡米したばかりの頃、バスの乗降口が階段から車いす用スロープに切り替えられるシステムを初めて見てびっくりし、そして感動しました。

どこに行っても車いす用スロープやエレベーター、間口の広い扉、つかまる手すりがある街は、ベビーカーでのお出かけや、小さい子どもの手を引くにも優しい造りということなのですね。もちろん、妊婦、病気やけがのある方、高齢者にとっても欠かせません。こうした社会的弱者に寄り添った街づくりの大切さを、子育てをするようになって改めて感じます。

日本でいうベビーカーはアメリカだと「ストローラー」と呼ばれます。ニューヨークのような都会ではまた違うと思いますが、アメリカ西海岸は車での移動がほとんどなので、いかにもアメリカンなごついタイプが人気です。

日本に帰省の際、いつものストローラーを持っていくか迷ったのですが、荷物が大きくなるかと、小回りのきく折りたたみ式のコンパクトなアンブレラストローラーを持ち込むことに。これが大正解! というか、アメリカンなサイズのベビーカーでは、そもそもどこにも出かけられないのだと日本に着いてから気がつきました。

日本のお出かけでよく見る、ベビーキャリアや抱っこひもは、私も出産準備で用意はしていたものの、腰にくるため、高齢出産ママには生後3か月までが限界でした。ましてや、直抱きで移動なんて、やるもんじゃないです。翌日、腕が全然上がらなくなりました。筋肉痛という範疇を超えた痛さでした。

●日本のスタバに子連れでは入れない?

驚いたのが、日本で昨年バズっていたという「子連れスタバ」論争。スターバックス本社のお膝元、シアトルに住む者からすると、まさに仰天レベルのニュースです。

アメリカのスターバックスは子連れでも気軽に日常使いできるカフェで、レジ横に乳幼児向けの野菜や果物のピューレ商品がカゴに入っていたり、ショーケース内に色とりどりの小さな子ども向け焼き菓子がかわいく並んでいたりします。トイレにはおむつ替えシートも備えてあります。日本のスターバックスは立地によるとは思いますが、静かに過ごす「おしゃれなカフェ」というイメージが強いかもしれません。

アメリカだと親切なレストランでは、子連れで訪れると、ふたつき、ストローつきで水が出てきて、3、4本のクレヨンセットと共にキッズメニューが書かれた紙が渡されます。子どもは塗り絵やパズル、クイズを楽しみながら、食事を待つことができるというわけです。

そのキッズメニューですが、日本のように豪華おもちゃつきお子さまランチとはいかないものの、ハンバーガー、ホットドッグ、ピザ、チキンナゲットなど、子ども受けするものが通常メニューより割安な価格で用意されています。地域によるかもしれませんが、少なくともアメリカ西海岸では、おしゃれレストランや居酒屋的なお酒を飲む店でも、基本的に子連れ歓迎ムード。お酒が飲める21歳以上しか入れないカクテルバーやナイトクラブ、最高級ランクのレストランでもない限り、子連れでも入りやすい雰囲気があります。

シートベルトつきのハイチェア(乳幼児専用いす)が用意されているレストランやカフェが充実しているのも助かります。じっとしていられない小さな子どもの逃げ出し防止の役割も果たしているため、これがないと親は食事どころではなくなります。今は違うのかもしれませんが、10年前の日本のレストランはハイチェアの用意がほとんどなく、日本帰省の際は、普通のいすに装着できるシートベルトを持参し、大活躍しました。

日本では子連れだと食事を含め、お出かけ先の選択肢がかなり限られる気がします。日本のファミリーレストランやファストフード店は、もともとアメリカの外食チェーンを参考にしていることから、子連れ客に優しいサービスが充実しているのかもしれませんね。

●近所に自然や公園、遊具がいっぱい

わが家のあるシアトル市内では、多くのコミュニティーセンターに遊具が充実する体育館や公園が併設され、天候にかかわらず未就学児が無料で遊ぶことができます。工作教室や絵本読み聞かせなどのアクティビティーもたっぷり。まるで日本の児童館です。

遊具は安全性が重視された造りで、万一落ちたり転んだりしても痛くないように、下にマットが敷かれ、外でもクッション性のある地面になっています。そのため、小さな子どもでも安心して遊ばせられます。少し大きい規模の公園だと、未就学児向け、小学生向けの2種類の遊具が備えられています。

家にこもっていると手間ばかりかかる子育てに泣きそうになったり、気が立って夫婦げんかも多くなったりしがち。子連れでのお出かけは、気分転換になり、普段はつい忘れがちな「一緒にいられることの幸せ」に気づかせてもらえます。

近所の至るところにある公園は、湖や海、川に隣接し、森が広がっていることも。自転車や徒歩で利用できる長距離のトレイルも網羅しています。夏には水遊びできる乳幼児向けプールや噴水広場もオープン。どこも利用は無料です。そういう場所には、ママもいればパパもいて、子守をする祖父母、または雇われたナニーやシッターらしき人も。利用者に偏りがなく、多様性に富んでいるため、日本の「公園デビュー」的な縄張り意識もありません。

併設するテニスコートやバスケットボールコート、スケートボード場などの利用はだれでも無料。ちょっと郊外まで足を延ばせば農園も豊富にあり、動物に触れ合えたり、フルーツ狩りができたりもします。

●子育て世帯に優しい環境を

また、公園や子ども向け施設のトイレには当然のようにおむつ替えシートがあり、ゴミ箱におむつを捨ててOK。その感覚に慣れてしまうと、日本で「使用ずみおむつ持ち帰り」の貼り紙に出くわすと、少々ガックリきてしまいます。

そもそも、日本ではテロ対策なのか、街にゴミ箱が皆無。アメリカでは公園もそうですし、公共機関や商業施設、商店街の通りにも、ゴミ箱がすぐ見える位置にあることがほとんどです。日本は不便極まりない! ゴミは「自宅で処分」が前提であれば、それなら海外旅行者はどうしたらいいのか? さらに、日本の一部の保育園や幼稚園では、使用ずみおむつを持ち帰るルールがあると聞き、これは大変だと感じました。

もちろん、バラエティーに富んだおいしい離乳食や給食、一時預かりを含む保育料の安さ、国民皆保険制度など、日本の方がいい点も多々ありますが、子どもに優しい社会かと言うと、どうでしょうか。銃社会のアメリカは、治安で言えば確かに日本とは雲泥の差ですが、その高すぎるリスクを前提に子どもが保護されているという側面も。むしろ今後は、安全神話が崩壊しつつある日本で、いまだに子どもだけでの通学やおつかい、留守番が当たり前に行われている方が問題になってくるのかもしれませんね。

日本でもアメリカでも子どもは宝、私たちの未来です。違いはあれ、子育て世帯に優しい環境が整うことを願います。